朝のツキミソウ
「ね、知ってる?鰹節って世界一硬い食べ物なんだって!」
放課後、部室で購買のたこ焼きを食べていたら、先輩が話しかけてきた。
「自分のたこ焼きには鰹節かけてないですけどね」
先輩は物知りで、豆知識が沢山出てくるから、一部では豆○先輩と呼ばれているらしい。
そう呼ばれるのにはほかにも要因があるとは思うけれど。例えば、背が少し小さいところとか、めっちゃ可愛いところとか、って何を言ってるんだ。
先輩とは部室で良く話す相手である。俺は人の少ない部活で部室を独占する予定で入っただけなのだが。人数が少ない分、関係が濃くなる、ということに最近気づいた。
先輩は話上手で、話すのは楽しい。俺が人見知りなのに、部室に毎日いるのもきっとそう。
先輩に惹かれているのだろう。
先輩は花瓶をカバンから出してきた。
「後輩君、なんかいい感じの花持ってきてよ。夏休みも終わったし、お花のお世話でもしようかなって」
「いい感じって......」
「だって、後輩君のほうがこの部室にいるし、食用菊とかでもいいからさぁ」
「寿司じゃないんですから」
「あ、そうだ、パック寿司についてる草みたいなのはバランって言うんだよ」
知らなかった。こういうのが面白いんだよな。
気づいたら帰る時間。時間が経つのが速い。
家に帰って、先輩に言われてた花を考えてみる。
花を調べていると、花言葉もでてきた。
花言葉には恋のことが多くて、先輩に気持ちを伝えられたらな、って思ったり。
いつの間にか花言葉を検索していた。
バラとかは、メジャーすぎるし、サンビタリアとか、エキザカムとかはマイナーすぎるし......
目に留まったのはツキミソウ。これがよさそうだ。薄ピンクで、可憐な花。
ツキミソウを夕方に探して、部室に持って行った。花は鮮度が命だろうし。
「お、ツキミソウね!」
すぐにツキミソウだと分かったらしい。先輩はツキミソウを見て少し笑って、
「ツキミソウ見てるとお月見に行きたくなっちゃった。一緒に行こうよ。今日、十五夜だし」
気づかないか。安堵したような残念なような。
一旦家に帰って、集まった。初めて制服姿ではない先輩に会った。白いワンピース姿は月の使者を思わせるくらい綺麗だった。
「お月見ってあんまりやることないですね」
「そう思って、団子買ってきたよ!」
月見に来てもいつも通り。
「月見団子ってもとは芋だったんだって」
何も変わらない。
「そうだ、私も花瓶に飾る花持ってきたの」
先輩は、小さいひまわりのような花を出してきた。サンビタリアだ。
え、まさかね。
サンビタリアの花言葉は、「私を見つめて」
そう思っていると、
「ツキミソウって、夜に咲いて朝に枯れる儚い花なの。お世話には向かないよね」
先輩は少し笑う。
「サンビタリアって知ってる? かわいいよね」
少しだけいつもとは違う先輩を感じた。
「明日の朝、部室に来てもらえますか? その花飾るので」
先輩は少し寂しそうに、分かった、と言って、いつも通りに戻った。
次の日、部室に行ったら、先輩はすでに部室で待っていた。
ツキミソウの花言葉は「打ち明けられない恋」
先輩の顔をしっかり見る。透き通るような白い肌、真っすぐの黒い髪、若干青みがかった目。
やっぱり可愛い。
「先輩のことが好きです」
花瓶のツキミソウは役目を終えたかのようにしぼんでいた。