第7話 異変
ウラノスは国王の自室に呼び出されていた。
「王よ、まさか昼間から盃を交わそうとしているわけではないですよね?」ウラノスは若干早く王のもとを訪れたにもかかわらず、目の前にはすでに宴会セットが用意されていた。
「その気だが?」
「はあ、あなたはそういう人でした。」
ウラノスは渋々グラスを手に取り、昼間からの長期戦に足を踏み入れた。
「最近は何をしているのだ?」国王はウラノスに対して質問する。
「そうですね、つい最近までセイカ王国の近くで弟子と隠居していたのですが、ご存じの通りセイカ王国での魔族襲来に弟子が関与したことで魔族の暗躍を知り、各国の魔族を討伐するたびに出ています。」
「そうか、ウラノスほどの実力者が討伐の旅に出てくれているとなれば安心だな。ところで、弟子はどんな奴なんだ?」
「弟子はウトという奴でして、正直本気の私と勝負しても実力は大差ないくらい成長しています。実際、セイカ王国での一件もどうやら一撃で魔族を討伐したらしいですし。本当にとんでもない逸材ですよ。」
「そこまでの実力者なのか。ならなお安心だな。もしスイメイに魔族が来たらおぬしらに守ってほしいものだ。」
「もちろん、私たちが守れる距離であれば全力でお守りいたします。」
「ああ、よろしく頼む。」
「ちなみに、何か気になるような情報を得ていたりしませんか?」
「そうだな、私も魔法師として少し違和感を感じていることはある。」スイメイ国王には王子の時代、東のキエン王国にある学校で魔法を学び、かなり優秀な成績を収めて卒業した後、魔法師として研究を行った過去がある。
「教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「実はな、多くの国民の魔力に少し違和感を感じている。違和感というのは些細なものではあるが、どうやら自分以外の魔力を保有している国民が多くいるように感じた。」
「自分以外の魔力?それは一体どういうことでしょうか?」
「私が今まで光魔法(回復魔法)の研究を行ってきたことは知っているな?」
「はい。」
「そもそも、私は自分の固有魔法がカルテだったことで光魔法の研究を始めた。」
カルテは使用対象の体内状況を正確に見ることができる魔法であるため、光魔法との相性がとても良い。
「研究を行う上で、病気に侵された人の検査をする機会も多くあった。そして、何度もカルテを使用していったことで、体内の魔力まで認識することができるようになったのだ。」
「なるほど。」
「そして当時の癖ですれ違った人の魔力を確認するようになってしまった。たまに病気を見つけることができるからすごく便利な魔法だ。だが、この違和感は初めてだった。通常は魔力の濁りというものは魔力の濃淡に近く、同系色の濃淡を確認しているようなものなのだが、多くの国民からは違う系統の魔力を感じる。」
「その魔力が魔族によって入れられたものではないか、ということですね?」
「そうだ。だが、私は傷は癒せても魔力を整えるような魔法を使用することができない。見ていることしかできないのがなんとも、な。」
「なるほど、その問題は任せてください。私も状態異常系の回復魔法は使用できませんが、私の弟子なら可能です。」
「そうか。それならばより早くウラノスの弟子に会ってみたいな!」
「ぜひとも会ってやってください。」
-----------------------------------
ウトは異質な魔力への不安を抱えつつも、レストランに来ていた。そこには偶然、先ほど見た学生達もいたため、少し騒がしくなっていた。
(うるさいけど、別の店を探すのも面倒だしここにするか。)
ウトは店員に話して、学生達から離れた席へと案内してもらった。学生の何人かは、自分と同年だに見えるウトのほうを見てこそこそ何か話してはいたが、ウトにはどうでもいいことだった。
初めて来たレストランだが、ユニークなメニューがたくさんある。やはり水の都というだけあって海鮮料理が大半を占めていた。しかし、ウトはあまり海鮮料理を食べたことがなかったため、気持ちを高ぶらせていた。
注文した料理を食べながら、ウトは異質な魔力について考えていた。
(あの魔力、いったいどこで・・・。魔力を体内に混ぜられるタイミングでは直接俺に触れている必要があるだろう。だが、さすがに触られたら俺も気付くはずだ。それとも気付かないタイミングで触られることがあったか?)
ウトはスイメイに来てからの自分の行動を振り返る。
(装備屋にはたくさん人がいたから触られた可能性はある。でもそれなら師匠が夜あった時に気付くに違いない。図書館では誰とも会っていないし・・・。まさか!?)
ウトは1つの回答を導き出し、料理を食べ終わったタイミングで席を立った。そしてレストランから外に出ようとしたとき、事件は起こった。
「キャーーーー」
店内にいた学生が悲鳴を上げる。その方向には、学生に襲い掛かっている市民と、その隣に魔族がいた。
魔族はエルナトほど知能があるタイプではなく、近くの店員を襲っている。
ウトは魔族にインビジブルを放ち首を切断。風魔法を足に纏わせ、すぐに学生の元へと向かった。
「大丈夫ですか?」
襲い掛かっている人間をはがして、ウトは学生に話しかけた。
「ううう・・・。」
学生は噛みつかれた場所を抑えながら苦しんでいる。
(この違和感、もしかしたら!)
ウトは集中して学生の魔力を感じ取る。すると自分に起きていたように異質な魔力が混ぜられていた。
ウトはすぐにオールリカバーを発動し、学生の中から異質な魔力を取り除き、続いてハイヒールを使用して傷を回復した。
「もう大丈夫です。下がってて。」ウトは襲われていた学生を治療し、そういった。
「は、はい。ありがとうございます。」周りにいた学生がその学生とともに後ろに下がる。
「さて。」ウトは学生に襲い掛かった人間と向かい合う。
(この人は無理やり動かされている感じだな。そしてこの違和感。この人を動かしているのは俺にも入れられていた異質な魔力が原因か。)
汚染された人間はウトめがけて走って来る。ウトはその人の目に向かってウォーターを放つ。視界を奪われた汚染者は、その場で止まる。その隙にウトは汚染者の背後に回りオールリカバーを放った。汚染者は沈静化したため、レストランの店員に頼んで介抱してもらった。
(とりあえずはよかった。だがこの現象はこのレストランだけで発生しているわけではないに違いない!オールリカバーを使えるのはおそらくこの城下町を探しても俺だけだし、急いでいかないと!)
ウトは先ほどと同様に、足に風魔法を纏いその場を去った。
-----------------------------------
外に出ると、案の定城下町は渾沌を極めていた。ウトは風属性上位魔法であるフライを使用し空へと浮かぶ。汚染者によるテロが発生しているのは全部で4か所。ただ、その他に1か所戦闘が発生していた。
「あそこで戦っているのは学生か?魔法での戦闘に多少は経験があるだろうから少しの間辛抱してくれ!」
ウトは一般人の救出を最優先として戦場に向かった。
-----------------------------------
「ん?」ウラノスはウトが魔力を上げ、魔法を使用したことに気付いた。
「どうした?」国王はウラノスを怪訝そうに見る。
「いいですか国王、落ち着いて聞いてください。おそらく、魔族による攻撃が始まりました。城下町では多くの国民が戦闘に巻き込まれているでしょう。」
「な、なんだと!?それでは我々も援護に・・・。」
「だめです。国王は至急結界を発動してください。」
「そんなことをしたら、国民が城に逃げ込めないではないか!」
「それでも、魔族を城にいれないことほど重要視すべきことはありません。それに、城下町には私の弟子がいますので。」
「ウラノスが言うなら間違いないのだろう。急いで向かうぞ!」
国王とウラノスは複数人の兵士を連れて結界の部屋へと向かった。到着してすぐ、国王は中央にある石を、特殊な魔法道具を使用して破壊した。それと同時に結界が発動し、スイメイ王国は城と城下町で完全に2分された。
「それと国王、おそらく魔族はもうすでに城の中に進入しているはずです。魔族ほど用意周到な奴らが結界のことを知らないはずがない。奴らは結界の発動によって援護のない国王を襲撃するつもりなのでしょう。」
「なんと。」
「しかし安心して下さい。おそらく奴らにとっても私がいることは想定外だと思いますので。」
城と城下町でウラノスとウトの戦いが始まる。
ありがとうございました!
次回もお楽しみに!