第6話 水都
スイメイ王国は、水の都として有名である。海産物が美味しいということで多くの人がこの都市を訪れて休暇を過ごしている。また、この国は海を使用した貿易も盛んなため、セイカ王国の3倍近い敷地面積を誇る。
スイメイ王国に到着して数日が経った。ウトとウラノスは別行動をとって魔族の動向を調査することになっている。セイカ王国のように何かしらの事件が発生している可能性もあるのでとりあえず情報を集めて報告をし合うことにしている。
調査を開始して数日経つが、2人とも有力な情報を獲得できていなかった。
「この国ではまだ魔族も活動していないのかな?」宿のベッドで横になりながらウラノスが言う。
「どうでしょうか。何も起きていないのであれば何よりですけど。」
「そうだな。」
「何もないようであればもう数日で別の国に行きますか?」
「それもありだな。」
「旅の準備ができたら出発しますか?」
「いや、少しだけ待ってくれ。以前スイメイに来た時、次来たら城に来てくれと国王に言われていてな。その要件が終わってからにしたい。」
「わかりました。それでは師匠の用事が済むまで俺はいろいろ準備しておきますね。」
「すまないな、そうしてくれ。」
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翌朝、ウラノスは城へ向かった。ウトはまだ行ってなかった装備屋へと向かった。装備屋は地下にあり、とても暗い雰囲気が漂っている。
(なんかセイカでも同じようなところに来た気がするんだけど、気のせいかな?)
この店には練度の高い武器や防具が多く置かれているため、暗い雰囲気とは相反して多くの客でにぎわっていた。屈強な肉体を持つ戦士や防具を求めてきた魔法師など、その客層は様々である。
この店の販売方式は露店売りに近いものであり、遠くからでも大きな武器・防具はどのようなものが販売されているか確認することができる。しかしウトは武器・防具を見折るために入ったわけではないので、小さな商品が見えるようになるべく前へと進んだ。ウトの目的はアクセサリーである。アクセサリーは魔法を組み込むことができる。その技術はとても高いものであるため、一般的な魔法師がアクセサリーに魔法を組み込むことはできない。アクセサリー屋が雇った専用の魔法師が作成段階で魔法を組み込み、販売先へ輸出するという形態をとっている。その際、どのアクセサリーに何の魔法が組み込まれているか区別するために、アクセサリー屋は仕上げとして魔法の名前を作品に彫る。
この装備屋にも、30個ほどのアクセサリーが販売されていた。その1つ1つをウトは慎重に見ていく。
(回復魔法、飛行魔法、サンダー、どれもいらないな。やっぱりアクセサリーの魔法は期待できるほどのクオリティーじゃないのか。)
ウトはそう思いつつも一応最後のアクセサリーまで見ることにした。
(ん、これは?)
ウトはあるアクセサリーに注目した。
(魔法解除か。これはもしかしたら必要になるかもしれないな。)
魔法解除魔法の可能性を信じて、ウトはこのアクセサリーを購入した。そのあと、店内を色々見て回ったが、特にめぼしいものはなくウトは店を出た。
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「お久しぶりです。スイメイ国王。」ウラノスは玉座に座る男に対して頭を下げる。
「久しいなウラノスよ。私との約束を覚えていてくれて感謝する。」
「もちろん忘れませんよ。まあ、ものを忘れるほど忙しい日々を送っていないのが主な理由ですが。」
「それはさみしいな。さて、それでは例年通りよろしく頼む。」
そう言うと、国王とウラノスは兵士を引き連れてある部屋へと向かう。部屋の中心にはには大きな石が設置されていて、魔法が城の壁へと伸びている。
「懐かしいですね。昨年結界を張ってからもう1年近く経過しますか。」ウラノスは弱くなりつつある結界を見ながら国王に言う。
「ああ、時が経つのは早いものだ。この結界は使わないに越したことはないが、時間が経つとやはり不安でな。最近ではセイカ王国で魔族との抗争があったと聞く。万が一に備えて今年もよろしく頼む。」
「わかりました。」ウラノスは石に近寄って魔力を注入する。するとウラノスの魔力は城の壁を渡っていき、城全体に行き渡った。
「はい、終わりました。相変わらず結構疲れますね。」
「感謝する。どうだ、この後酒でも飲まないか?」
「いいですね是非、といいたいところですが、今日は弟子と一緒に来ているものでして。1度宿に戻って会う約束をしているので明日の夜はいかがでしょう?」
「なんだ、ウラノスに弟子がいるとは初耳だぞ。だが仕方ない、明日の夜また城に来るといい。弟子と一緒に来てもよいのだぞ?」
「弟子はまだ未成年でお酒は飲めないので。しかしそうですね、1度くらい国王に顔を見てもらってもいいかもしれません。」
「お、本当か?」
「ええ、それではこの国を発つ直前に弟子も連れてきます。」
「よろしく頼んだ!それと、明日の夜必ず来るのだぞ。」
ウラノスは国王に頭を下げ、城を後にした。
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翌日、ウトとウラノスはともに昼食を食べていた。その時、一瞬だが魔法の気配を感じた。魔法師は練度が高くなると近くで魔法が放たれた際にその気配を感じることができる。
「おいウト、行くぞ。」
「はい。」
ウトとウラノスは目の前にあるご飯を精一杯口に頬張り、外に出る。
とても小型の魔法だったため、すでに魔法を使用した残滓もなく、何らかの魔法によって影響を受けたとみられる国民も周囲には見られなかった。
「くそ、見逃したか。」
「そのようですね、でも師匠。これで俺たちはこの国を離れるわけにはいかなくなりました。改めて作戦会議を行いましょう。」
2人は1度宿に帰ることにした。
「さてこれからどうしようか。」
「そうですね、俺に1つ提案があります。」
「なんだ?」
「俺と師匠で城下町と城内の警備を分担しましょう。この町は大きすぎる。俺たちが近い場所にいたら魔族の発生に気付くことができないかもしれません。」
「それもそうだな。」
「はい。俺は城を行きます。おそらく師匠が広い範囲を見たほうが発見できる可能性も高いと思うので。」
「あー・・・。」
「・・・どうしました?」
「確かにウトの言うことは間違いないが、実は今日この後国王に呼ばれていてだな。」
「え、初耳なんですが。」
「ああ、俺も昨日言われたことだからな。まああの国王のことだから予想はできていたが。だから俺が城を見る。大丈夫だ。前にも言っただろう?お前はもう俺と比較しても遜色のないほど実力がある。自分に自信を持て。」
「なんかうまく丸め込まれたようにも感じますが、分かりました。それでは俺が城下町を、師匠が城内を警護するということでよろしくお願いします。」
「わかった。もし魔族にあったらすぐにでも戦闘を開始してくれ。お前の魔力は嫌というほど知っているからすぐにでも駆けつけられるだろう。」
「はい、それでは。」
ウトとウラノスは緊張感を高めながらそれぞれ警備を行うことになった。
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とはいっても、すぐに何か起きるわけではないとウトも考えていたため、マッサージ店に入った。
店内はとても落ち着いた雰囲気で、並んでいる客もいなかったのですぐに案内してもらうことができた。
ウトのマッサージは女性スタッフが担当する。ウトは心なしか緊張していた。
「今日はどのような症状で来られましたか?」
「いや、特にどこがというわけではないのですが、連日働いて疲れたので。」
「なるほど、それでは全身をまんべんなくマッサージさせていただきますね。」
「よろしくお願いします。」
マッサージはとても気持ちがよかった。最近の疲れがたまっていたこともあって、ウトはマッサージが始まってすぐに深い眠りいざなわれた。
どれくらいの時間が経ったのだウトは自分を呼ぶ声を聞いて目が覚めた。
「あ、すみません。俺寝てしまって。」
「いいんですよ。多くのお客様は寝てしまうので。」
「そうですか。」
そんな何気ない会話の後、ウトは代金を払って店を出た。
次にウトが訪れたのは図書館。ウトは本を読むことに抵抗がなく、時間が余っているときは読書に費やすこともある。
館員の方に目当ての本のありかを聞き、その本を取って席に着く。
『魔法の種類』
ウトはウラノスから基礎的な魔法と固有魔法に関しての知識を得ている。
5種の基本的な魔法をウトはすでにすべて習得しているため、それらに関しての部分は飛ばして読み進めた。
すると、ウトの目につく題目を発見した。
『呪い』
(呪い?呪いは魔法なのか?)
呪いについては諸説あるが、その多くが風土的な問題や怨恨から発生すると信じられている。そして基本的に、呪いに侵された人の回復手段はなく、呪いに侵された人々はどこの地域でも隔離されたまま一生を終える。
(もし呪いが魔法なら、俺の魔法が効力を発揮するかも。)
ウトが話している魔法とは、固有魔法クリエイトによって初めて作成した魔法、「オールリカバー」である。この魔法は状態異常になっている対象者に直接触れて使うことで、体内の状態異常を浄化するという魔法だ。その仕組みは、ウトが流す魔力によって対象者の魔力に干渉し、対象者の魔力をすべて新鮮なウトの魔力に入れ替えるというものだ。ただ、この魔法には欠点が2点存在する。1点目は直接触れる必要があるということ。遠距離からの発動では何の効果もない。2点目は自身の魔力を流すことで、対象者の位置が永続的にわかってしまうことだ。魔法師は自分の魔力を明確に認識することができる。なのでこのような欠点が発生してしまう。そのことを事前に考慮したウトは、オールリカバーを使用した対象の位置情報をそのまま分かった状態にするかどうかを選択できるようにクリエイトした。その選択はウトが考えるだけで可能である。そしてこの魔法はどのような状態異常でも完璧に治すことができるため、ウトはこの記事を読んで呪いも治すことができると考えていたのだ。
(いいことを知れた。まあ、聞かなくても試してみる価値はありそうだし、今度呪いに遭遇したらオールリカバーを使ってみるか。)
ウトは本を本棚に返して図書館を出た。
今の時刻は15時。おやつにちょうどいい時間ということもあり、ウトは露店でドーナツを買い近くのベンチに腰掛けた。
(いい天気だ。本当はこんな面倒なことに首を突っ込みたくはない気持ちもある。でも戦える人が戦わないと世界は変わらない。)
ウトが大きなドーナツを頬張っていると目の前を同い年くらいの人達が通過する。
(なんだ?課外学習か?俺は学校に入ってないから分からないけど楽しそうでいいな。俺も学校に入ってみたかったよ・・・。)
ウトは少し悲しそうな目でその集団を見送った。
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ウトは宿に戻り、宿の食事をとっていた。その時だ。自身の異質な魔力に気が付いたのは。
(ん?なんだ?俺以外の魔力が自分の中に混じっている?)
ウトはその異質な魔力を取り除くためにオールリカバーを使用した。もちろん異質な魔力を取り除くことはできたが、ウトはある疑問に駆られていた。
(あの魔力を取れたのはいいが、いつ誰にやられた?全く気が付かなかった。だが間違いなく魔族のせいだろう。この件は師匠にも話しておくか。)
ウトは内心少し焦る気持ちを抑えつつ、食事へと戻った。
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「さあ、そろそろかな。これだけの数が集まればこの国を亡ぼせると思うんだ。どう思う?アダーラ?」
「シャウラ、油断は禁物だ。だがいい準備をしたと思う。その点は称賛に値するだろう。」
「ありがとう。じゃあ早速だけど始めちゃおうか?」
「そうだな、結構は1時間後だ。」
ウトとウラノスを巻き込んだ戦いが始まろうとしていた。
ありがとうございました!
次回もお楽しみに!