第4話 決着
時間は数秒前にさかのぼる。
ウトはエルナトが激高するタイミングを狙っていた。これから使用しようとしている新魔法の練度は低く、どの程度の威力を発揮するかウト自身もわかっていなかったため、魔法発射の兆しを悟りにくいタイミングが欲しかったのだ。冷静な判断を失ったタイミングであれば、ウトの魔法発射に気付くことはできない。そうすればウトも丁寧に魔法を当てることができる。
ウトのマジック・デスによってエルナトの姿があらわになり、兵士たちが集まってきたタイミングでウトは魔法「インビジブル」を発動した。
(さて、どれくらいダメージが入るかな)
ウトは今までの人生でウラノス相手にしか魔法を使用したことがない。ウラノスは賢者ということもあってウトの魔法からほとんどダメージを食らうことなく相殺していた。そのため、自身の魔法の威力を理解していなかった。
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「お前か、お前がこのエルナトの計画を無駄にしたのか!」
「は、笑わせないでくれ、俺の魔法に気付くこともなくのうのうとお喋りしてくれたくせに。馬鹿にはお似合いの結末さ。」
「なんだと!?まあいい。結末といったな貴様。私がこの場の全員を殺せば仕切り直しになるだけの話。何も難しいことではない。」
「それはどうかな?」
その時、ウトの発動していたインビジブルがエルナトの首に到達した。その時間は発動してからわずか10秒ほどである。ウトが普通にインビジブルを発動した場合、1秒程度でエルナトに到達することは可能であったが、初使用ということもあってウトは慎重になっていたのだ。
だがウトの心配など何の意味もなかった。インビジブル、そのたった一撃でエルナトの首は地面に落ち、激戦になると思われていた戦いは終了した。
「な、なんだ、何をした・・・。」首だけとなったエルナトは薄れゆく意識の中でウトに聞いた。この時、エルナトの中にあったのは恨みなどではなく、同じ魔法師としての興味であった。
「俺の固有魔法がクリエイトという魔法でな。その魔法を使って目に見えない刃を放つ魔法インビジブルを発動した。それだけだよ。」エルナトに戦う気がないと判断したウトは魔法師としてエルナトの質問に淡々と回答した。
「そういうことか、クリエイト。よりにもよって、ね。」
そう言い残してエルナトの息は絶えた。その息が絶える直前、胸に刻まれていた刻印が光ったことが気になったが、今のウトにはどうすることもできなかった。
その場を後にしようとしたウトは、エルナトの衣服から落ちた何かに気付く。
(なんだこれ?)
ウトはそこに落ちていた欠片を拾った。
(何かの欠片?ブーツの形をしている。何かに使うことができるかもしれないしもらっておこう。)
城の兵士たちは今目の前で起きた一連の出来事を理解できずにその場に立ち尽くしていた。ウトは面倒なことに巻き込まれる前に城を退散しようと、玉座の間の端にある使用人用の出入り口から外に出た。
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ウトがエルナトを倒してから数時間、朝になって人が動き出した城下町では国王が魔族だったという情報で大騒ぎになっていた。また、エルナトによって地下深くに作られた牢獄に本物の国王がいたことも衝撃的な情報として街をにぎわせている。どうやらエルナトは国王を殺すことなく半殺しのような状態で管理していたようだ。国王は国にとって重要な会議や会合に必要な情報を得るために活かされていたのだろう。
そんなことなど何も知らないウトはエルナトを討伐するまでの疲労で爆睡していた。ウラノスもさすがに魔法の修行のためにウトを起こすことはせず、今日は疲れを癒させることにした。
日が昇り切り、下り始めた午後3時になってやっとウトは目覚めた。
「おはようございます師匠。」家の中で本を読んでいたウラノスにウトは言う。
「おはようではないけどな。今朝は疲れ切っていたようで気絶したように眠ったからな。それでどうだった?」
「はい、やはりセイカ王国の国王は魔族でした。エルナトという魔族が魔法で国王に化けていたので、地下牢にいたときに作成した魔法を使ってその魔法を解きました。そのあとは前に話したインビジブルを使って首をはねたという感じです。」
「なるほど、出来栄えは上々か。それで、どうだった?」
「どう、とは?」
「実際に魔族と戦ってみて自分の魔法練度をどう感じたかということだ。」
「あ、そういうことですか。正直思っていたよりも自分の魔法が強くなっているように感じました。この作戦を実行する前に師匠と話したときはもう少し苦戦すると予測していましたので。」
「そうだな。あの時は俺もそう思っていた。きっとウトと魔法の訓練をしていたことで俺の魔法練度も大幅に上昇したんだろう。」
「ある意味で勘違いしていたということですね。
「そういうことだ。お前はこれからももっと自信をもって魔法を使っていけ。それと同時にその魔法は人を傷つける可能性があることを忘れるな。」
「はい。肝に銘じておきます。」
「ああ。それでだウト。これからのことについて話をしたいと思う。」
「わかりました。」
「この国のようにほかの国にもきっと魔族が潜んでいる可能性が高い。その目的まではわからないが最近魔族が人間の数を減らし始めているように思える。」
「それなら考えるまでもありません。ほかの国の魔族も倒しましょう。」
「自信はあるのか?」
「自信は師匠がくれたじゃないですか。ついさっきですよ。」
「あはは、そうだったな。それじゃあ、世界を救うたびに出るとするか!」
ウトとウラノスの今後の方針は決まった。2人は明日の出発に向けて身支度を進めるのだった。
一方、セイカ王国では国王から捜索令が出されていた。その対象はもちろんウトである。その目的は国を救ったことに対しての最大限の褒美を取らせること。ウトとウラノスが翌日に国を離れるため、捜索が実を結ぶことはないが、この捜索令は遠く離れたスイメイ王国まで届いていた。
「この人が恩人なのね。私も出会うことができるかしら・・・。」
新たな出会いを感じさせる旅が始まろうとしていた。
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「エルナトがやられたか。いったい何が起きた。」
「わからない。だが鍵も奪われただろう。我々も準備が必要だ。」
「そうだな、次はどこの国にその魔法師が来るかわからない。」
「ああ、ではまた。」
ありがとうございました。
次回もお楽しみに!