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第3話 刹那

 「痛っ!」ウトは起き上がる際に激しい頭の痛みを感じて叫んだ。


 ウトが目を覚ました場所は牢屋だった。周りには生活に必要最低限の水や洋服、トイレしかなく、あくまでも一時的な延命のために用意されている場所であることが分かる。


 (まあ、思っていたような方法ではないけど、城内に進入することはできた。いったん状況を整理しよう。あ、あの人たちは・・・)


 ウトが目を向けた向かいの牢屋には、果樹園から同じく誘拐された夫婦の姿があった。


 「大丈夫ですか?長い間気絶していたようだけど」ウトと目が合った女性が言う。

 「はい、大丈夫です、すみません。俺はどれくらい気絶していましたか?」ウトは向かいの夫婦に尋ねる。

 「そ、そうですね。おそらく5時間ほどかと。先ほど見回りの兵士が来た際、その兵士が身に着けていた腕時計の時刻を確認しました。その時が2時でそれから1時間ほどたったと思います。」女性はウトの問いに対してとても丁寧に回答する。

 「なるほど、ご丁寧にありがとうございます。」ウトは女性に頭を下げて礼を言うと、これからのことについて考えることにした。


 (まずこの牢屋。手入れがあまりされていない・・・。俺の魔法なら簡単に破壊することはできそうだけど、騒ぎを起こすと国王に会うことができずに処刑されかねないしその案は却下だ。でも、あの夫婦を助けることも考えると、築かれないように向かいの牢を壊す必要があるか。まあ、そのやり方については後々考えよう。それよりも、どうやって国王の正体を見抜くかだよな。)


 ウトが考えているように、ウラノスとの話し合いの中でも国王が自ら正体を現すように誘導しなければいけないということになったのが一番の問題である。


 (師匠とも話していたけど、国王が魔族の可能性があるんだよな。だったら・・・。)


 ウトは自身の固有魔法クリエイトを使用して新たな魔法を生み出す。この作業にもウトが才能ある魔法師である点が見え隠れしている。通常、魔法は1度に1つしか発動することはできない。特に攻撃関連の魔法は同時発動を行うことが極端に難しい。ウラノス曰く、彼自身も同時発動ができるようになったのは賢者になってからのことであり、この年で自分のものにしているウラノスは文字通り賢者と同格の強さなのだろう。そして、現在ほかの魔法をクリエイトで作成しているにもかかわらず新たに別の魔法をクリエイトした。これはクリエイトという固有魔法が同時発動しやすいという特徴を加味しても逸脱した才の証拠だった。


 「お!!!」ウトはクリエイトにかけた魔法がその場で作成完了したことに少し驚いた。クリエイトにかかる時間は、その魔法の脅威度によって決まる。例えば花を咲かせるような魔法を作成する場合にはおそらく時間はかからずその場で完成する。一方、大地を分断するほどの威力を持つ魔法は作成に数か月もしくは数年かかるのかもしれない。それはウト自身にも計り知れないことである。


 (できた。この魔法があれば簡単に国王の素顔を明かすことができるかもしれない。)

 今回ウトが作成した魔法は『マジック・デス』という。この魔法はほんの一瞬だが対象に魔法使用を禁止する、あるいは使用している魔法の効果を一瞬無効にするというものである。この魔法自体にはあまり殺傷性がなく、使用用途も限られてくるために今回はその場で作成することができた。


 ウトがマジック・デスを作成した理由は簡単である。もし国王の正体が魔族で、国王の姿に化けているのであればこの魔法を使用して一瞬それを無効化することで本来の姿を引き出すことができる可能性があるからだ。そしてもし、国王がそもそも魔族の姿のまま催眠等の方法で兵士を操っている場合は、この魔法を使用することなく戦闘を開始する。ウトが今考えているこの2つのプランは、考えられる中で最もコンパクトに事を終わらせるものだろう。


-----------------------------------


 ウトが頭の中でシミュレーションをしていると、兵士が階段を下って牢の前で止まった。


 「おい、出ろ。」兵士は簡潔に用件を言う。

それに対してウトは何の抵抗もすることなく牢を後にし、階段を半分ほど登って兵士が牢のほうを見ることができなくなったタイミングで最小のブルーファイヤを放った。その火属性魔法が向かう先は向かいの牢屋。鍵の部分で燃え続けたブルーファイヤは一瞬にして牢のカギを溶かし、中の夫婦は脱出できるようになった。


 ウトは兵士の後を追う形でどこかへと向かう。その時、ふと自分の魔法発動が終了したことに気づいた。そう、4日前に作成していた魔法が完成したのだ。


 (ナイスタイミング!もし国王が魔族だったらこの魔法を試してみよう。どこまで実用性が高いかな?)

 これから何が起こるかわからない状況で、ウトは心なしかワクワクしている。


 数分歩いて到着したのはやはり玉座の間だった。


 「入れ。」兵士はウトの肩を押して玉座の間に入るよう強要する。


 ウトはそのまま歩みを進め、ドアの前で立ち止まると内側から兵士がドアを開けた。

ドアの先、最奥には大きな椅子があり、そこに国王と思わしき人物が座っていた。


 「お前が我々の行動を見ていたという青年か。よし、それでは兵士は全員下がれ!」国王の命により、玉座の間内にいた10人ほどの兵士たちがその場を後にする。そこに残されたのはウトと国王だけだった。


 「お、俺はいったいどうなってしまうんですか??」ウトは自分に戦う意思や力がない様子を装って国王の様子をうかがう。

 「ま、そう緊張するな。私だって君のような純粋な青年にこんなことをしようとは思っていなかった。だが、君は現場を目撃してしまった。だから君は死ぬ。本当に悪いとは思っているが仕方ないんだ。恨むなら自分を恨んでくれ。」国王は思ってもいないようなことをまるで役者のように話していたが、ウトはほとんどその話を聞いていなかった。

 (マジック・デス)

 ウトがその魔法を使おうと意識したことでマジック・デスが発動する。すると、ウトの予想通り国王の化けの皮がはがれた。だが、ウトの魔法操作は一流であるため、国王、いや魔族は自分の魔法が解除されたことに気づいていない。


 その魔族は2本の角を生やし、胸に何かの刻印があった。


 (これは好都合だ。殺し合いをして、犯罪者扱いされるのは癪だからな。)


 「そ、そんな!!どうしても殺されてしまうんですか?」

 「ああ、残念だがな。」

 「それなら、最後に1つだけお願いを聞いていただけませんか?」

 「なんだ、言ってみろ」

 「そ、その。。。トイレに行かせていただけませんか?」

 「は、トイレ?」

 「はい、自分が死んだ後にいろいろまき散らすのは嫌なので・・・。」

 「な、なるほどな。確かにそれは一理ある。味にもかかわってくるしな」

 「なんでしょうか?」

 「いや何でもない。よし、トイレに行く許可を出そう。おい、兵士はいるか??」

国王の呼び出しに、兵士が入ってくる。

 「何でございましょう陛下!」兵士ははきはきと答えた。

 「そのものが最後にトイレに行きたいというのでな。許可したので連れて行ってやれ。」

 「は、はい。こ、国王様、いや誰だお前は!!!」兵士は国王の真なる姿を見て叫ぶ。

 (ここまでは狙い通りだ。さあどうでる!)

 「なんだ?私がどうかしたというのか?な、なに!?」

魔族は自分の変身魔法が解除されたことに気づき慌てる。だが玉座の間には、兵士の叫びに反応したほかの兵士たちが集まっていた。


 「お前か、お前がこのエルナトの計画を無駄にしたのか!」

 「は、笑わせないでくれ、俺の魔法に気付くこともなくのうのうとお喋りしてくれたくせに。馬鹿にはお似合いの結末さ。」

 「なんだと!?まあいい。結末といったな貴様。私がこの場の全員を殺せば仕切り直しになるだけの話。何も難しいことではない。」

 「それはどうかな?」

その言葉とともに、エルナトの首が地面に落ちた。

ありがとうございました。

次回もお楽しみに!!

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