第2話 誘拐
この世界の人間は次の5種類の魔法属性を使用できる可能性がある。火・水・風・雷・光属性の5種類だ。使用できる可能性があるというのは、それぞれの人間には魔法適性があり、適性のない魔法を使用することはほとんどできないからだ。そして、ウトはそのすべての魔法に適性を持つように訓練された。そう、本来の適正は火属性と光属性の2つだったのだが、ウラノスの独自訓練によって全属性をまんべんなく使用できるようにされたのだ。
また、この世界に生きる人間にはそれ人だけが持つ独自魔法が存在する。独自魔法は根底にある魔法属性5種類とは異なるもので、無属性として扱われている。ウラノスの固有魔法は2つ。
・フューチャー:未来で自身の身に起きる重大な事柄を知ることができる魔法
・クロック:時間を1秒止める・1秒戻すことができる魔法
また、ウトの固有魔法はクリエイトの1つである。固有魔法は生まれた瞬間から体になじんでいるもので、自然とその使い方を学んでいる。
夜が明けて、ウトは早速王国の調査に乗り出すことにした。ウトは朝の魔法訓練を終えてすぐに王国へと向かう。ウトとウラノスが住んでいる家から王国までは徒歩で20分程度。いつもこの移動時間が面倒だと感じているが、ウトにはやることがない。そこで、どんな相手が来ようと使い勝手がよさそうな魔法を固有魔法クリエイトで作成することにした。
基本的に魔法使いは遠距離での戦闘を得意としているため、放つ魔法は相手に見える。故にどのような手段で相手の裏をかくことができるかを考えるようにする。ただ、ウトはウラノスから近接での戦闘も教えてもらったことで、遠近両面からの攻撃を可能としている。
(一体どんな種類の魔法が一番汎用性が高いのか。初心に立ち返って考えよう。基本的に魔法使いは手数や威力の調整で相手の裏をかくことが最重要だとされている。というのも遠距離からの魔法は見えてしまうからだろう。高レベルの魔法使いが放つ魔法でも、慣れている人にすれば一瞬だが見える。師匠との訓練でも、最初のうちは何も見えなかったが、今となっては打たれた瞬間に師匠の魔法を識別することは容易になった。そうなると魔法の弱点は何だろう・・・。師匠の魔法でも誰の魔法でも見えてしまうから防がれる可能性が上がる。あっ!それなら・・・)
ウトは王国への道中でひらめいた魔法を、自身の固有魔法クリエイトで作成し始めた。どうやらこの魔法は完成までにおよそ4日かかるらしい。
(結構長いな、まあ師匠にクリエイトで魔法作成を許可されたのはつい最近のことだし、2回目のクリエイトだからまだ練度が低いのか。4日・・・か。この4日間は情報収集に充てることにしよう。ん?)
ウトはどこからか向けられる奇妙な視線を感じ取り、あたりを向けられる。
(またか、1日数回は誰かに見られているような感覚があるんだよな。まあ小さいころからずっと続いているしあまり気にしないでいいんだろうけど、でもやっぱりうざいな。)
慣れているものではあるが、誰かに自分のことを隠れて見られ続けるのは気持ちがいいものではない。ただ、15年間生きてきてこの視線の元を辿れたことは1度もなかった。
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クリエイトを使用しながら歩いていると王国にはあっという間に到着した。誘拐事件の調査という名目で来ているが、国内はいつもと同じ様相を呈していた。まあ、誘拐事件が発生していることを知っているのはごく一部の人だけということを踏まえれば当然ではあるが。
ウトは誘拐事件に関しての情報を得るために国内の人が多い施設を回ることにした。図書館に始まり、レストランやバーなど。情報を得ることができそうな場所をとにかくめぐっていく。情報を持っていそうな人物に片っ端から声をかけていくが2日間は何の情報も得ることができなかった。
そして調査を開始して3日目。ウトはきりがないと判断して、お金を用意し、裏情報屋から情報をもらうことにした。裏情報屋は国の端も端、その地下に居を構えていた。
情報屋は表面上、武器屋ということになっているため、店には多くの武器が置かれている。そして店のカウンターには1人の老人が座っていた。
「本日はどのようなご用件で?」情報屋は入店したウトに尋ねる。
「実は隠しのほうで。」ウトはバーで得た合言葉を言う。すると情報屋は表情を変え、ウトを裏の部屋へと案内した。
「ずいぶんお若いようですが、このようなところで何の情報を手に入れたいのでしょうか?」
「俺が得たい情報は、今王国で発生している誘拐事件の真相についてです。」
「ほほう?具体的にはどのようなことを知りたいのですか?」
「誘拐事件が王国によって引き起こされているかもしれないということを耳にしてその詳細、更にはそれに関する情報をいただければと。」ウトは淡々と説明する。
「なるほど。それは大変タイムリーな話題ですね。ですが、きっとあなた様のご要望にかなう情報を提供できると思います。金額は金貨10枚でいかがでしょう」
この世界の人が1年間で稼ぐことができるお金は平均で金貨30枚。つまりこの情報には労働4ケ月分の価値があるということだ。
「それでお願いします。」
(思っていたよりも安く済んでよかった。金貨を100枚も持ってきたのは大げさだったな)
ウトは言われた金額を支払った。
「確かに受け取りました。それではかの情報をお伝えいたします。まず誘拐事件に関してですが、王国によって行われているというのは事実でございます。国王様の命によって城の兵士が誘拐をしています。その目的は分かりませんが、ここ1か月ですでに15人もの国民が誘拐されているようです。」
「なるほど。本当に国王が。」
「それに加えて、本日も2度同じ場所で誘拐があったらしいのです。場所は城の近くにある果樹園。もしかしたらもう1度くらいは誘拐事件が発生するかもしれないですね」
情報屋は何やら含みのありそうな言い方で持つ情報を伝えた。
情報屋を出た後、ウトは情報屋に言われた果樹園に向かうことを決意した。だが1度、銀行によって金貨90枚を預けた。何かあった時にこれだけの額を失うのは師匠に申し訳がない。
急いで銀行によってお金を預け、果樹園へと向かった。果樹園は日中一般開放されているため多くの人が果物を求めて果樹園を訪れる。それでも、果樹園はとても広い敷地にあるため、人の目がない場所で誘拐事件が発生したのだろう。
今の時間は16時。今日は長期戦になるだろうという覚悟をして、ウトは果樹園内の木陰に身を潜めた。
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4時間待っても城の兵士が表れる様子はない。果樹園には管理者と思わしき夫婦が果物の手入れをしているだけだ。
(もう今日はここで見ている必要はないな。)
ウトはそう思って家へと引き返そうとしたとき、夫婦のもとに忍び寄る複数の足音を聞いた。
(来た・・・。)
ウトが見つめる先には王国の兵士が10人。疑うこともしない夫婦は兵士と普通にあいさつを交わし、果樹園の管理を再開しようとした。その時、兵士たちは夫婦の口に何かを当て、意識を奪った。
(さて、ここからどうしようか。俺はまだ、誘拐されるわけにはいかない。となると一度帰ってまたこの果樹園を見張るか。いやでも明日もこの場所で誘拐が起きるとは言い切れない。)
ウトは再び事件現場を見る。
(なんて手際がいいんだ。兵士8人であんなにも早く誘拐を・・・。ん?まさか!!!)
ウトは頭を走る痛みに襲われる。
(くそ、考えれば周りに見ている人がいないかどうかは確認するに決まっていた。やばい、意識が・・・。)
ウトは頭への衝撃によって意識を失った。
意識を失った3人は兵士たちによって場内へと運び込まれる。しかしその姿を確認した国民はいないのだった。
ありがとうございました!
次回もお楽しみに!