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第1章 第1話 変化

 生まれた瞬間から1人でここに住んでいたかと問われれば、そうだとは言い切れないだろう。いつものように肌を撫でる風や鳥のさえずり、川のせせらぎはいつからか馴染んだものとなっている。こんなことを考えるのも初めてではなく、同じようなことを考えるたびになぜ自分には幼少期の記憶がないのかと考えても絶対に解決できないであろう問いを自分に投げかけるのだった。


 現在の時刻は朝9時。俺は毎日この時間に家を出て魔法の訓練を行う。定位置は決まってこの丘の上。確か王国の人たちにはセイカの丘と呼ばれていたか。おそらくこの名前は「セイカ王国」という名前から来たものだろう。意外と安直な名前だから憶えやすくてありがたい。といっても待ち合わせをする相手なんて1人しかいないんだけど。


 「ごめんウト、少し遅れた。」俺の名前を呼びながら走ってくる中年の男性がそう言う。

 「いえ、気にしないでください師匠。俺もちょうど都合がよくなったところなので。」師匠ことウラノスを前に俺はありきたりな嘘をついて気を遣わせないようにする。

 「そ、そうか。それじゃあ今日も始めるとしますか。」ウラノスは背伸びをしながらウトに対して告げる。

 「よろしくお願いいたします。」

 こうして日課である師匠との魔法訓練が始まった。


 訓練が終わり時計を見ると15時となっていた。

 「うわ、もうこんな時間ですね。師匠もう終わりにしましょう。」ウトはすっかり修行というストレス発散に集中しているウラノスに提案する。

 「そうだな。ウトも疲れているようだし、今日はこの程度にするか。」

 「はい。今日もありがとうございました。」

 ウトはウラノスに一礼する。

 「師匠、今日は夕食を王国で買おうと考えているのですが、いかがでしょうか?」ウトは気持ちよさげに水を飲んでいるウラノスに提案する。

 「ん?いいんじゃないか?お金はいつものところに入っているから好きなものを買ってきなさい。」

 「ありがとうございます。それではまた後で。」

 ウトはウラノスに別れを告げると家に立ち寄ってお金を回収し、その足でセイカ王国へと向かった。


-----------------------------------


セイカ王国はこの世界で最も小さい国である。それでも自給自足に優れた立地を生かして新鮮な野菜や魚、またそれらを活かした貿易によって割と裕福な生活を送ることができている人が多い。

(実際俺も師匠と暮らしていて不憫な思いをしたことなんてなかったな。まあそれは師匠の立場のおかげでもあるか。)


ウトは行きつけの食料品店で夕食の買い物を行い、ほかにも必要な日用品などを買い込んだ。


(買いたいものは買えたし、早く家に帰って夕食の準備をしないと師匠がまた駄々をこねるからな。)


帰路に就くため、入ってきた城門のほうへと足を運んでいたウトだったが、端のほうで国民がしていた噂話が気になり、こっそり聞いていくことにした。


 「なあ、聞いたか?また突然人が消えたらしいぞ。」

 「やっぱり霊か何かの仕業なんじゃないのか?」

 「やめてよもう!」

 「いや、それがな?霊の仕業だったらどれだけいいことかと思う事態かもしれないぜ?」

 「どういうこと?」

 「どうやら人が連れていかれるところを目撃した奴がいたらしく、そいつの話によると誘拐された人は城のほうに連れていかれたらしい。」

 「なんだって!?城に連れていかれただと?この国の王様は何を企んでいるかわからないって有名なのに・・・。もし王様の元まで送られていたら何をされているか・・・。」


 (なるほど。ただの誘拐ではなさそうだが、まあ俺と師匠に害のあるような話ではなさそうだな。)

ウトは自分に関係のなさそうな話だともうこれ以上は聞かずに帰路に就いた。


ウトは王国に来る際、いつも情報を仕入れるために聞き耳を立てるようにしている。その目的は今の平穏な生活を脅かされないかを調査するためなのだが。


家に帰ると、案の定師匠が駄々をこね始めたので急いで夕食を作った。今日のメニューは師匠と俺の大好物であるクリームシチューだ。


 「やっぱりウトが作るクリームシチューは絶品。世界で一番おいしいな。」ウラノスはスプーンを止めることなく言う。

 「ありがとうございます師匠。ところで、最近王国では誘拐事件が多発しているらしいですよ。まあ俺達には関係のない話だと思いますが。」

 「そうなのか。王国も大変なんだな。」

 「それが、国民の話を盗み聞きしたところ、その誘拐事件を起こしているのは王国自身らしいのです。」

 「なんだそれ。怖い話だな。」

 「そうですね。・・・もしかして師匠少し興味持ってます?」

 「うん、持ってる。しかも少しじゃなくてかなり。」

 「どうしてですか?」

 「実はな、俺がここに居を構えていることとも関係してくるんだが、セイカ王国とヒリン帝国は城に入ったことがないんだ。」

 「え、あの師匠がですか?」

 あの師匠とウトが強調したことには理由がある。ウラノスはこの世界に3人しかいないとされている「賢者」の称号を持つもので、基本的に賢者は行動を制限されることがない。にもかかわらず先述の2国の城には立ち入ったことがないというのでウトは驚いていたのだ。

 「ああ、何度も入ろうとはしているのだが何かしらの事情をつけて拒まれ続けている。それに、私だけではない。ほかの賢者も入ったことがないと聞いている。」

 「なるほど。これは何か深い闇がありそうですね。」

 「ああ、俺もそれを調査するためにここに居を構えていたのだ。何もしていないように見えていただろうが、王国に行くときはいつも情報を仕入れようとしていた。だが、ウト。お前が今日ゲットした情報は今までで一番の収穫だ。よくやった。」

 「ありがとうございます。では、師匠はこれからどうするおつもりで?」

 「そこが問題なのだ。私は顔が知れすぎている。王国の調査を行っていると知られたら当分王国も動くことはなくなるだろう。そこでだ。ウト、君に調査を頼みたい。」

 「俺ですか、まあ頼まれそうな気はしていましたけど。でもどうやって?」

 「簡単なことさ。誘拐されろ。」

 「え?」

 「ん?」

 「ああ、なるほど。直接王様を確認することができれば、どんな秘密があるかわかるかもしれないということですね?」

 「そういうことだ。」

 「で、でももし王様が俺を殺そうとしてきた場合はどうすればいいですか?」

 「その時は殺してしまえばいい」

 「そんなことできますかね?俺は師匠以外と戦闘をしたことがないんですよ?当然王様の周りには騎士団の人たちがいるでしょうし。」

 「心配ない。ずっと言ってはいなかったが、お前はもう俺と同等レベルの魔法師といっても過言ではない。」

 「本当ですか?」

 「ああ、実践経験は確かにないが、お前には最強の固有魔法がある。」

 「クリエイトですね。」

 「そうだ。自分がイメージした魔法を創造できてしまう固有魔法。そんな万能な魔法があれば大抵の敵とは戦える。ただ1つの弱点を除いて。」

 「はい、分かっています。師匠が常日頃言って下さることです。クリエイトを発動してから魔法が完成するまでにはタイムラグがあるから事前に敵の情報がないと優位に立つことができないという点ですよね?」

 「そうだ。もし相手が魔族だった場合、いくらお前といえども簡単に倒すことはできないだろう。」

 「そうですね。」

 「わかっているならば問題ない。お前1人でできるな?」

 「わかりました。できることをやってみます。」

 ウトは明日以降に自分がとるべき最善手を考えながら床に就いた。


だが、ウトとウラノスは知ることになる。自分たちの思い込みが間違いだったことを。

ありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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