プロローグ
初めまして、南東亥卯科と申します。
描きたい物語があったので投稿して行きます。
よろしければお付き合いください。
ご指摘等、感想等お待ちしております。
リビングのテーブルで頬杖をつきながら、神谷 誠二の視線は前方のある一点に注がれていた。
応募券か何かで当たったであろう安っぽい皿は、スプーンとぶつかるたびに間抜けな音をたて、静寂に包まれるリビングできっかけを探すかのように響いている。
音の主は俺の視線に気がつくと、少し居心地が悪そうに身を捩り、んんっと咳払いをした。
「お、おいしいです……」
視線の意図が感想を求めているとでも勘違いしたのか、彼女は丁寧な口調で感想を述べると、再びスプーンを動かし始める。
「……そりゃどうも」
俺は不意に送られた賛辞に多少照れ、視線を外しながら声がひっくり返らないよう努めて返した。
手料理を振る舞って褒められるのは悪い気はしない。
自分が食べるためにしか作ってこなかったからちょっと心配だったんだよ。お世辞かな、違うよね?
再び彼女に視線を戻すと、思わずその容姿に目を奪われてしまった。
細く真っ直ぐに伸びた鮮黄色の髪は腰まで達し、日頃の入念な手入れを感じさせる艶は、天使の輪を想起させる。
少しつり上がっている目が威圧感を与えないのは、ガラス細工のように輝くその大きな瞳と、華奢な身体が要因なのかもしれない。
彼女が同じ高校に通っていなければ、きっと同じ歳には見えないだろう。
その容姿の所為か、食事の所作もどことなく気品を伺わせ、育ちの良さを感じさせる。
「ごちそうさまでした」
彼女は俺の作ったオムライスを食べ終えると、両手を膝に置き、軽い会釈をしながらそう言った。
「おお、お粗末様。……家族と連絡は繋がったのか?」
「あ、うん! 後30分もしないうちに帰ってくるって」
「そっか、よかったな」
俺と彼女が出会ったのはつい一時間ほど前。
今日は短縮授業ということもあり、お昼過ぎには帰宅していた。昼食後、一通りの家事を済ませて明日の食材を買いにスーパーに行った帰りだった。
道中にあるタワーマンションの自動ドアの前に彼女が座り込んでいた。
気になり声をかけたところ、鍵をどこかに忘れ携帯の電池も切れてしまったらしく途方に暮れていたのだ。
「ありがとね神谷くん。充電器を貸してもらった上に、ご飯まで頂いちゃって………」
頬を赤らめながらお礼を言う彼女が見られただけで十分役得というものだ。
「気にしなくていいよ。それより学校が終わってからずっとあそこで待っていたのか?」
「いや、違くて! 少し用事があって出掛けていたの。神谷くんに声を掛けってもらったのは家に着いてからほんとすぐだったから!」
俺が少し心配そうに聞くと、彼女は少し慌てながらわちゃわちゃと両手を左右に振りそう答えた。
友達とでも遊んでいたのか?
いや、彼女が特定の誰かと仲良くしているところは見たことがない。
それに遊ぶような友達がいるんだったら、俺のような関わりの薄いクラスメイトではなくそいつを頼って解決しているような気がする。
俺は率直な疑問を彼女にぶつけてみた。
「用事って、友達とお出掛けでもしていたのか?」
「と、友達とかはあんまりいなくて……」
やっぱりいないのか……。
思わず苦笑いをしていると彼女は口をキュッと結び、鼻から小さく息を吸うと、まるで懺悔でもするかのように目を伏せ消え入りそうな声で言った。
「そ、その……、おじさん達と遊んでいまして……」
と、同級生 西宮 柚乃は告白した。