第九話 溶岩地帯の主
ダンジョンの通路を渡り、行き着く先は溶岩地帯。
「晴天 浮雲 蛍光 鈴虫 陽炎揺らいで風が鳴く――空魚風鈴」
真道が耐熱の魔法を俺たちに施し、暑さに強くなる。
基本、なんでも出来る魔法使いはかなり有望な人材だ。
大手ギルドがこぞって招きたがる理由もわかる。
「ここから先は危険度が上がるぞ。ジャックフロストの群れなんかよりもずっと危険な魔物が出てくる」
「は、はい」
一年前のことを思い出すのか、心なしか三人の表情が硬いように見える。
「大丈夫、だよね?」
「平気平気、もうあのときの私たちじゃないし」
「一生懸命頑張って来ました。遅れは取りません」
「そうだよね。よし、頑張ろう」
心配するほど深刻ではなさそうか。
「よし、じゃあ行こう」
ほどよい緊張感を保ちつつ、溶岩地帯を進む。
「そう言えば、さっきの人たちと知り合いだったんですか?」
風間が俺の正面のほうに回り込む。
「ん? あぁ。昔、同じギルドだったんだ。辞めたけど」
「へぇー。じゃあ、ギルドを辞めたのは自分で立ち上げるためってことですか?」
「まぁ……そんなところだな」
あの日のことを三人に話すこともない。
冒険者になったばかりなんだ、まだしばらくは希望を抱いていて許される。
俺自身、あの日のことを言葉にするのは抵抗があるしな。
「わぁー、なんか格好いいですね、そういうの。夢をまっすぐ追いかけてる感じがして」
「夢か……」
そう言えば昔の夢は自分たちで立ち上げたギルドを一番にすることだっけ。
今の今まで忘れてたな。
「ほら、おしゃべりは終わりだ。前を向いてろ、躓くぞ」
「はーい」
後ろ歩きを辞めて風間は二人に合流する。
目的地に到達したのはそのすぐあとだった。
「さぁ、仕事だ」
溶岩の海、岩場の崖、重苦しい天井。
起伏のある地形は毎日僅かに動いている。
地面が動けば、昨日までなかったものが現れることも多い。
「知っての通り、うちは貧乏ギルドだ。すこしでも資金が欲しい。よって三人には資源回収を手伝ってもらう」
「が、頑張ります」
「よーし、私一番乗り!」
「私は二番乗りに」
「あ、ず、ずるい! 私も!」
順々に走り出し、俺もその後に続く。
風間は風を操り滞空することで天井付近に咲く希少な花を摘み。
日輪は光剣を岩に連続して叩き付け、内部の鉱石や原石を狙う。
真道は魔法を使い、溶岩の海から魚を捕らえて引き上げている。
三人とも自身の能力を生かした方法で資源を回収し、すぐに雑嚢鞄をいっぱいにして帰ってきた。
「どうですか? 採用ですか?」
「だから、それはダンジョンから帰った後だって」
「えー、いいじゃないですか。私たち、こんなに集めて来たんですよー」
満杯になった雑嚢鞄を見せつけられる。残りの二人もだ。
これだけの成果を上げられると不採用にしづらいな。
「……冒険者には我慢強さも必要だ。採用不採用は帰ってから。わかったな」
「むー、そう言われるとしようがないですね」
なんとか誤魔化して事なきを得る。
「帰ってからが大変そうだな……」
どう切り出したものか。
そう頭を悩ませていると。
「シュルルルルルルルルルルルル」
魔物が発する音が響き、溶岩の海が破裂する。
飛び散った溶岩の塊が無数に飛来し、即座に冷気で氷壁をせり上げる。
熱気で濡れた氷は溶岩を受け止め、音を立てて溶けていく。
それがすべて水になるころ、溶岩が弾けた原因を突き止める。
溶岩の海から岸に上がる、二頭の魔物。
火炎の鱗を身に纏う火蜥蜴、サラマンダーだ。
「サラマンダーが、二体も」
「ジャックフロストよりずっと強いよね、たしか……」
「はい、この辺りでは一番強い魔物のはずです」
真道の言う通り、サラマンダーは第一階層の中で一番強い魔物だ。
新人が初陣で戦うにはキツい相手だろう。
ここは俺が一肌脱ぐしかなさそうだ。
「三人とも先に逃げてろ。俺があれの相手をする」
言いながら三人の前に立つ。
それにあと一体でサラマンダー十体討伐のミッションが完了するところだ。
一体余分だけど、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
「いいえ、私たちも戦います」
力強い言葉と共に隣に三人が並ぶ。
「私たち、あれから結構強くなったんですよ?」
「一年前とは違うという所をお見せします」
ジャックフロストよりも遙かに強いサラマンダーを前に、三人は退くことを選ばなかった。
一年前と同じにはならず、自分たちの意思で立ち向かうことを決めている。
なら、先輩としてその意思を汲んでやらないとか。
「わかった。じゃあ、片方は任せたぞ」
「はい!」
サラマンダーに向かって駆ける。
戦いの幕が上がった。
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