第八話 不意の再会
「はい、たしかに」
役員が書類を確認し終え、三人のネームタグが渡された。
ダンジョンで命を落とすと、その肉体は魔物の餌だ。
誰が誰だかわからなくなってしまうが、このタグがあれば遺族にきちんと死が伝わる。
このタグこそが冒険者の証だと言うものもいるくらい、重要なものだ。
それを手にし、三人のもとへと戻る。
「人が多いな、今日は」
右を見ても左を見ても、真新しい装備が目立つ。
誰も彼も新人の採用試験という訳だ。
人混みをかき分けつつ戻ると、三人がどこかのギルドの人間と話しているのが見える。
誰かが先輩風を吹かせているのだろうと近づいてみると、それは見知った顔だった。
忘れもしない。俺を囮にして置き去りにした、張本人たち。
仁、亜紀、翔流、絵美だ。
見た瞬間にこみ上げた怒りをぐっと堪えて、三人に合流した。
「よう、なにしてるんだ?」
「あ、逆月さん。今、アドバイスをもらっていて」
「へぇ」
日輪から視線を移すと、連中は揃ってばつが悪そうな顔をする。
「どんなアドバイスをしてもらったんだ? 俺にも教えてくれ」
「えーっと、腕のいい鍛冶屋さんとか、ダンジョンに持って行くと役立つものでしょ。あとは消耗品を安く売ってる所とか!」
「それに心構えを教わりました。仲間を大切に、と」
「……なるほどね」
改めて連中に視線を向ける。
「流石、含蓄ある言葉だな。説得力が段違いだ」
「総也、俺たちは――」
「さて、もう行くぞ。ちゃんと礼は言ったか?」
「そうでした。ありがとうございました」
「あ、あぁ」
三人は連中に礼を言い、それを見届けて背を向ける。
一度も振り返ることなく、ギルド協会施設にある転移魔法陣へと向かう。
その上に揃って立つと、魔法陣が淡く光を放ち始める。
「そうだ。さっきのアドバイスは全部忘れていい」
「えー? どうしてですか?」
「どうせダンジョンから帰ってくる頃には忘れてるからだよ」
「……それだけ過酷だということですね」
「そういうこと」
「き、気を引き締めないと」
魔法陣の光が強くなり、俺たちはダンジョンへと転移した。
§
「風間伊吹、行っきまーす!」
溌剌とした声が響き、風を纏う拳が魔物を穿つ。
風間伊吹のスキル、颶風。
全身に風を纏い、身体能力を限界以上に引き上げる能力。
風間はそのスキルを遺憾なく発揮し、次々に魔物を打ち砕いていく。
虚空を断つかのように鋭い一撃が狼型の魔物の顎を捉えて打ち上げる。
下顎が砕けると共に折れた牙が飛び上がり、ダンジョンの天井に突き刺さった。
「わ、私だって!」
負けじとスキルを発動し、光の剣が空中を舞う。
日輪朝陽のスキル、光剣。
切れ味抜群の光の剣を複数本展開できる能力。
現時点で六本同時に操り、すべてが別の軌道を描いている。
光剣の隙間を縫い、一体が日輪に迫るがその牙は届かない。
新たに三本の光剣が現れ、盾のように重なることで攻撃から身を守ったからだ。
攻撃に失敗した魔物の末路は言うまでもなく、切り刻まれて命を落とした。
「唸れ 唸れ 牙持つ者たち 焦がれた獲物はすぐそこに」
それは魔法の詠唱。
杖がぴんと伸ばされる。
「陰影軍牙」
真道小杖、魔法使い。
発動した魔法は影から獣を生み出し、影の持ち主に牙を向く。
腹を貪られ、一斉に大量の魔物が息絶える。
どのギルドも魔法使いを欲しがる理由がそこにあった。
「これでラスト!」
最後は風間の裏拳が決まり、最後の一体が片付く。
周囲には死屍累々と亡骸が転がり、さながら地獄絵図が広がっている。
「えへへ、どうでしたか? 私たち! 結構、いい線いってると思うんだけどなー」
「あぁ、思った以上に優秀だよ、三人とも」
「やったー! いえーい!」
「いえーい!」
「いえーい」
三人でハイタッチを交わしている。
「じゃあじゃあ、私たち採用ですか?」
「それを決めるのはダンジョンを出たあとだ」
三人には悪いが、適当な所で切り上げて不採用にしよう。
あのボロギルドを見てるし、金銭面の問題とでもしておけば傷つかないはずだ。
見れば見るほど惜しい人材ではあるけどな。
「さぁ、魔石の回収をするぞ。それが終わったら先に進もう」
「はーい」
「回収している間も警戒しないと」
「私も注意しておきます」
出だしは順調そのもの。
この後の活躍にも期待しつつ、ダンジョンの奥へと向かった。
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