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第七話 三人の訪問者


 付けっぱなしのテレビから、今日の日付が流れてきた。


「もうすぐ一年か」


 あと何日かすればこのギルドを立ち上げて一年になる。


「随分とミッションも埋まったな」


 ミッション一覧を眺めて過ぎ去った歳月に思いを馳せた。

 達成できていないミッションは残りほんの僅か。

 そのほとんどは今日にでも達成出来そうなものばかり。


「ん」


 指先を振り下ろすようにスクロールしていると、ふと未達成のミッションに行き当たる。

 ミッション名、帰るべき場所。

 達成条件、ギルド所属人数を二人以上にする。


「仲間か……」


 蘇るのは一年前の記憶。

 未だに夢にみる光景。

 俺の人生で一番最悪だった瞬間だ。


「まだ……俺にはいいかな」


 あの時と同じ思いをするくらいなら一人でいい。

 見たくないものを払いのけるように、ミッション一覧を掻き消した。


「それに肝心のギルドがこれじゃあな」


 歩けば軋む床木、年季の入った壁、今にも落ちてきそうな天井。

 いま腰掛けているソファーも元々ここにあったもので、腰掛けると軋んだ音がする。

 テレビも時々映像が乱れる始末だ。


「俺の稼ぎだけじゃ維持費で手一杯だしな……」


 つらつらと考えつつ唸っていると、来客を知らせるベルがなる。


「珍しいな」


 立ち上がって玄関へと向かい、扉を押し開ける。

 まだすこし肌寒い外気に撫でられて外に出ると、階段のしたに来客した誰かが見えた。

 真新しい装備に身を包んだ、少女の三人組だ。

 格好から察するに新人冒険者か。


「よう、どうかしたか? あぁ、わかった。道に迷ったんだろ」


 新人冒険者あるあるだ。

 一つ案内でもしてやろうと扉を閉めて短い階段を下る。


「この近くのギルドって言えばたしか……」

「あ、あの、道には迷ってません。ここで合ってます」

「ここで?」

「私たちの応募書類、届いてないんですか?」

「書類? ……ちょっと待った」


 郵便受けを開けてみると、手紙や書類の束が出てくる。

 それを急いで確認すると、たしかに三人の書類が出てきた。


「えーっと、風間伊吹かざまいぶき

「はーい!」


 元気よく返事をした拍子に明るい色の金髪が跳ねる。

 髪色と同じで明るい性格のようで声が跳ねていた。

 装備に得物が見られず、防具も動きやすさを重視している。

 戦闘スタイルは格闘メインのようだ。


日輪朝陽ひのわあさひ

「あ、私です」


 対照的に控え目に返事をした彼女の表情には緊張が見える。

 両方の手の平をがっちりと組んで力み、声にも若干の震えが見えた。

 こちらも目立った得物は見当たらない。

 だが、こちらは防御を重視しているようで機動性が劣っている。

 このタイプの装備は遠中距離を得意分野とする冒険者に多いスタイルだ。


真道小杖しんどうこずえ

「はい」


 彼女は三人の中でも小柄で、一番大人びている。

 表情から感情が窺えず、声音も平坦でとても落ち着いているようだった。

 装備は先ほどと同様に防御重視だが、彼女には得物があった。

 杖だ。


「魔法使い?」

「はい、そうです」

「マジか」


 世界広しと言えど魔法を使える者は多くない。

 選ばれし者とさえ呼ばれているほど希少な存在だ。

 魔法使いというだけで大手ギルドからスカウトがくるくらいだ。

 それがどういうわけか、ほぼ個人経営のような俺のギルドに来ている。

 頭の中はちんぷんかんぷんだった。


「先生が確認の電話をしているはずなのですが」

「電話? あー、そう言えば……」


 少し前にそんな電話があったような気がするな。

 ダンジョン帰りで疲れ切っていて、ほとんど話を聞かずに返事をしていたのをうっすら憶えている。

 あれって、この時の電話だったのか。


「……なるほど、だいたいわかった。でも、なんでうちなんかに?」

「やっぱり、憶えてないですよね」

「ん?」


 日輪の言葉が引っかかる。


「私たち逆月さかづきさんに助けてもらったんです。一年くらい前に」

「一年前……」

「ジャックフロストですよ、ジャックフロスト!」

「ジャックフロスト――あぁ、あのときの」

「思い出していただけましたか?」

「あぁ、思い出した」


 たしかに一年くらい前にジャックフロストの群れから学生三人組を助けていた。

 そうか、あの時の三人組が。


「あの日からギルドに入るなら絶対に逆月さんのところにしようって決めてたんです」

「ははー、そいつはありがたいが……」


 振り返ってギルドを視界に納める。

 廃墟と間違われてもおかしくない。

 掲げられた夜鳥ぬえの看板は、あまりにも不釣り合いだった。


「幻滅させたかもな」

「正直、ちょっとだけ」

「伊吹!」

「伊吹さん。正直過ぎます」

「でも、ちょっとだけですよ! ホントにちょっとだけ!」

「あぁ、いいよ。わかってる」


 自分でも思うんだ、当然だ。


「それで、これを見て気は変わった?」

「いいえ」


 三人の声が揃う。

 それは嬉しいことだが、変わってくれていたほうが正直ありがたかった。

 仲間を増やす気はまだない。


「うーん」


 だが、何もせずにこのまま帰すのも三人に悪いか。


「……よし、なら採用試験をしよう。これから」

「これから、ですか?」


 真道が小首を傾げる。


「準備などはよろしいのですか?」

「あぁ、ちょうどこれからダンジョンに向かう予定だったんだ。俺の仕事を手伝ってもらうことにする。それが採用試験、実力も見極められるしな。どうだ?」

「私はそれで問題ありません」

「私もー」

「異論はないようです」

「じゃあ、決まりだな。ちょっと待っててくれ。すぐに支度するから」


 ギルドに戻り、テレビを消して装備を調える。

 支度はすぐに済み、三人を伴ってギルド協会へと向かった。

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