第四話 粘土のゴーレム
退院してまず一番にやったことはギルドを抜けることだった。
ギルド協会で手早く手続きを済ませ、書類にサインを書く。
そして二番目に自分のギルドを立ち上げた。
別のギルドに入って同じことの繰り返しになるのは御免だ。
なら、最初から一人のほうが気楽でいい。
ずっとって訳にもいかないだろうけど、今の俺には冷却期間が必要だ。
「よし、行くか」
ギルドを立ち上げてすぐ、俺は自分のスキルを深く知ることにした。
俺のスキル実績解除は課された使命をこなせば報酬が得られる。
スキルであったり、特攻だったり、まだほかにもあるかも知れない。
それを確かめるため、病み上がりの体で再びダンジョンに舞い戻ろうとしている。
「さて……ミッション一覧ってのがあるな」
立体映像のような半透明のプレートに綴られた文字。
そこには使命の数々が表示されている。
「ゴブリンを百体討伐、千体……気の長い話だな」
ゴブリン関係は今は置いておこう。
「……とりあえず適当に魔物を討伐するか」
そうしていれば勝手に使命がこなせている。
そう決めて転移魔法陣でダンジョンへと転移した。
§
「クレイゴーレムか」
ダンジョンに転移して最初に出会ったのは、クレイゴーレムだった。
粘土を固めて作られた無骨なデザインの魔道人形。
奴はこちらを見つけるなり、襲いかかってきた。
「グゴゴゴゴゴゴゴゴッ!」
声とも駆動音とも取れる音を発するクレイゴーレム。
それに対してこちらも剣を構えて肉薄する。
秒と掛からず間合いに捉え、握り締められた拳が振り下ろされた。
迫力のある一撃を見切って躱し、地面を叩いた腕に剣を振るう。
「かったッ」
だが、剣が通らず反動で手が痺れる。
「粘土のくせにっ」
間を置かずに二撃目の殴打が繰り出され、安全を取って後退した。
飛び退いて距離を空け、手の痺れを取るように二度か三度ほど振るう。
「ただの攻撃じゃ通じないか。なら」
痺れの取れた手で剣を握り締め、再びクレイゴーレムに肉薄する。
あっという間に距離を詰め、繰り出される拳に向かって剣を薙ぐ。
「強撃」
剣と拳が接触する直前、スキルを発動する。
繰り出した一撃は勢いと重みを増し、強烈な一撃となって粘土の拳を切り裂いた。
「これなら行ける!」
勢いのまま剣を翻し、すくい上げるように強撃を見舞う。
一撃は切り裂いた腕を刎ね上げ、クレイゴーレムから右腕を奪って見せる。
「次ッ」
振り向きざまに一撃を振るい、すでに振るわれていた左腕を切断した。
「グゴゴゴゴゴゴゴゴッ」
両腕を失ったクレイゴーレムを機能停止に追い込むため、剣先を持ち上げる。
狙うのは命のない体を動かすためにあるコア。
人の心臓がある位置を狙い、強撃を乗せて突きを放つ。
「グ、ゴゴ……ゴ……」
粘土の胴体を貫いた剣は、見事にコアを破壊していた。
動力部を失ったクレイゴーレムは、文字通りの人形のように倒れ伏す。
そしてもう二度と、動き出すことはない。
「ふぅ……そういやゴーレムって魔石になるんだっけ?」
ふと頭に浮かんだ疑問はクレイゴーレム自身が回答してくれた。
粘土の体が圧縮され、貫かれたコアごと一塊となって結晶化する。
それがダンジョンで死亡した魔物が辿る末路、魔石化だ。
「よし。回収」
そう告げると共に、地面に転がった魔石が掻き消える。
アイテムボックスのスキルから中身を確認すると、きちんと収納されていた。
そして例の電子音が鳴る。
「ミッション達成、人形遊び」
達成条件、クレイゴーレムの討伐。
報酬、スキル粘土細工。
「粘土細工か」
スキルを発動すると、地面から湧き出るように粘土が現れる。
それらは独りでに練り上がると、クレイゴーレムと同じ姿となった。
ただし、複数のミニサイズで。
「ぐごごごごごご」
膝の丈ほどもない、子供のオモチャのようなクレイゴーレム。
それらはよたよたと歩き、俺の側に集合した。
「硬いな」
しゃがみ込んで指先で触れると硬い感触がする。
「結構、重い」
持ち上げてみるとなかなかに重量感がある。
中身が詰まっているようだ。
「えーっと、一、二、三……十二体か」
思ったより数が多い。
「さて、お前たちはなにが出来る?」
「ぐごごごご」
「まぁ、答えられるはずもないか」
立ち上がって歩き出す。
「付いてこれるか?」
「ぐごごご」
振り返るとよたよたとクレイゴーレムたちが歩き出すのが見える。
「上出来」
とりあえず、このまま連れ歩いてみよう。
なにかの拍子に使い道がわかるかも。
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