第三十話 これまでのすべて
ダンジョンから脱出するため、手負いの仁を庇いながら撤退する。
何度もスキルを切り替えて安全を確保し、すこしずつ転移魔法陣を目指す。
「総也のスキル……そんなに色々と出来たんだね」
「あぁ、まぁな」
ストーンゴーレムが魔物を殴り飛ばし、亡骸を魔石に変える。
「俺たちスキル不明組も総也が一番の大当たりだったか」
「お陰で幾つか命を拾えた。このスキルに感謝しないとな」
妙な気分だ。
またこうして仁たちと普通に会話をする日がくるとは思わなかった。
夢を見ているんじゃないかとすら思う。
本当に妙だな。
「げふっ……げほっ」
「だ、大丈夫っ!?」
転移魔法陣までまだすこし距離がある中、仁が吐血する。
パラサイトは斬ったが、その前に負ったダメージが大きすぎるようだ。
早く連れ帰って医者に診せないと、せっかく助けた意味がない。
「急ぐぞ」
「あぁ、頑張れよ。仁」
足を速め、第十階層を横断する。
見渡す限りに冒険者の姿はない。
手は借りられない。
「――ッ」
不意に感じる予兆に足が止まる。
「ど、どうした?」
「不味いぞ、群れに見つかった」
「群れって、まさか」
予兆は現実となり、再び魔物が大量に現れ始める。
すぐに群れとなって俺たちに牙を剥くだろう。
手負いの仁を連れて逃げるには、数が多すぎた。
「お前たちは先にいけ。俺が残って足止めする」
「なっ!? おい、嘘だろ!」
「この中で一番生き残る確率が高いのは俺だ。俺が残る」
「ま、待てッ……駄目だ、そんなことッ」
血反吐を吐いて、仁が反発する。
「それじゃッ、あの時と同じだッ!」
「同じじゃない、大違いだ。そうだろ?」
「総也……」
仁は更に吐血し、亜紀に支えられる。
もう時間はない。
「総也さん。私たちも――」
「駄目だ。一緒にいけ」
「でも――」
「行ってくれ。頼む」
三人の目は見ず、魔物だけを見据える。
この状況で三人に気を配っている余裕はない。
怪我をしても、治せるのは自分だけなんだ。
「わかりました。なるべく早く援軍を連れて戻ってきますからね!」
「ありがとう。助かる」
死命を抜き、魔物の群れに立ち向かう。
「必ず……生き残ってくれ」
「あぁ」
それを最後にみんなの足跡が遠のき、魔物の足跡が近くなる。
「なんでだろうな」
左手に火炎を灯す。
「あの時ほど絶望的じゃないのは」
目の前にある魔物の群れの脅威は、ゴブリンの群れとは比較にならない。
それでもあの時よりは随分とマシに思える。
きっと心持ちがまったく違うからだろう。
「よし」
死命で風を斬り、火炎を盛らせる。
「死にたい奴から掛かってこい!」
地面を蹴って駆け、魔物の群れへと突っ込んだ。
「キシャアァアァアアァアァアアッ!」
刀身を振るい、飛びかかってきた猫の魔物を斬り伏せる。
続けざま、死命を翻して周囲の魔物を薙ぎ払う。
一撃で複数体の魔物を切り伏せ、次の獲物に目を向ける。
「ワォオオォオオォオオオオオッ!」
だが、数が多い。
隙を付かれ、狼の魔物の牙が左腕に食い込んだ。
「ぐッ――火炎の吐息」」
脳を貫くような痛みに耐え、即座に左手の火炎を盛らせる。
食い千切ろうと暴れるその毛並みに燃え移り、一瞬にして火だるまとなった。
「再生」
腕を振るい、魔物の亡骸を引き剥がすとスキルで自身を再生させる。
噛み傷は目に見える速度で治癒され、放っておけば完治するだろう。
「氷点下」
スキルを切り替え、冷気を周囲にまき散らす。
無差別に精製される氷塊が近くの魔物を巻き込んで凍結する。
それでも数が減った気がしないのは冗談だと思いたかった。
「ギャギャギャッ!」
飛びかかってくる猿の魔物に攻防一体を喰らわせ、複数体の魔物を蜘蛛の巣で縛る。
外皮の硬い魔物には怪力鋏で断ち切り、攻撃を食らいそうになれば花吹雪で幻覚を見せる。
「鎖状刃」
鎖の一つ一つが鋭利な刃物となった得物が伸び、魔物を貫き、切り裂いて行く。
触れるものすべてを切り裂くそれは鞭となってうねり、数多の魔物の命を奪う。
「石細工」
「ぐごごごごご!」
ストーンゴーレムたちも全員出して死角を任せる。
辺りは瞬く間に血の海となり、それらがすべて魔石となって転がった。
いったいいつまでそうしていたかはわからない。
長くもあり、短くもあったと思う。
これまで取得してきた特攻や耐性、スキルを駆使し、戦い抜いた。
そしてとうとう最後の一匹を斬り伏せる。
「はぁ……はぁ……終わった」
その場から崩れ落ちると、半壊したストーンゴーレムが支えてくれた。
「ありがとな。お疲れ様」
「ぐご……ごごご」
ストーンゴーレムに寄りかかり、地面に腰を下ろす。
疲労のせいか視界がかすむし、手足が痺れる。
もう腕も上がらない。立ち上がれそうもない。
スキルによる再生にも限度があるようだ。
「あぁー……疲れた……」
意識が遠のく。
手繰り寄せようにも無理だった。
瞼が重く、抗えない。
まるで海の底に沈んでいくみたいに自分が薄れていく。
「――総也さん!」
意識を手放す刹那、俺の名を呼ぶ声がした。
三重のそれは伊吹と朝陽と小杖のもの。
たしかに、そうだった。
よければブックマークと評価をしてもらえると嬉しいです。




