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第三話 ゴブリンの兵士


 俺を見るなり鋭く睨み付け、携えた大剣を大きく掲げた。


「ギャババババババババッ!」


 号令を発し、数多のゴブリンが地面を蹴る。


「あぁ、くそッ」


 引きずった剣を構え直し、柄を握った手に力を込めた。


「やってやる!」


 止血薬と薬草でさっきよりは状態はマシだ。

 でも、体中が痛むことに変わりはない。

 踏み込むたびに電流の如く走る痛みに顔をしかめつつ、ゴブリンに斬りかかる。


「ギャバァッ!?」


 ゴブリン特攻のお陰で小物は難なく処理できる。

 すべてを掌握し、必要最低限の動きで回避と反撃を繰り返す。

 そうして幾度か剣を振るい、何体かの死体が地面に転がる。

 そして見かねた真打ちが打って出た。


「ギャバババババババッ!」


 高く跳ねて剣を構え、勢いのままに大剣が振り下ろされる。

 寸前の所で躱したが、大剣は地面を割るように打ち砕く。

 破片が飛び散り、頬を掠め、予感させる。

 もしまともに食らったら、真っ二つになるに違いない。

 攻撃はすべて躱さないと。


「ギャバァァアァアアアアアッ!」


 屈強な体格から繰り出される乱暴な剣が身に迫る。

 躱すたびに地面が割れ、壁が盛れ、岩が砕けていく。

 その最中を特攻による予兆を頼りに回避し続ける。


「――くっ」


 だが、それも長くは続かない。

 健康体ならまだしも、今の俺は満身創痍。

 動きが次第に鈍くなり、躱し切れなくなる。

 腹を、足を、腕を、頬を掠め、次第に大剣は俺を捉え始めた。


「このままだとッ」


 なにかないか?

 この状況を打破できるスキル。

 詳細を知らないのは一つだけ。

 後回しにした、あのスキル。


「――」


 瞬間、大剣によって砕かれ、飛び散った岩の破片が脇腹の傷を打つ。

 思いがけない衝撃と激痛に全身が強張り、致命的な隙を生む。


「ギャバババババババババッ!」


 迷う暇はなかった。

 賭けるしかない。


花吹雪ブルーム


 苦し紛れに発動した詳細の知れないスキル。

 それが効果を発揮した瞬間、視界に無数の花びらが降り注ぐ。

 それを引き裂くように大剣が振り下ろされ、刃が俺の体を真っ二つに引き裂いた。


「ギャババババババッ!」


 ゴブリンソルジャーが勝利を告げるように雄叫びを上げる。

 だから、まだ気がつかない。

 真っ二つになった俺の体が花びらになって宙を舞ったことを。

 スキル花吹雪ブルームの能力は対象を惑わせ幻覚を見せること。

 花吹雪に紛れて俺を斬ったと誤認させた。

 大剣は俺の隣に落ち、再び地面を割っただけ。


「笑いながら死ね」


 足腰に力を入れて跳ね、真正面から花吹雪を突き破る。

 目と鼻の先にまで迫り、ゴブリンソルジャーはようやく俺に気がつく。

 だが、もうなにもかもが遅い。

 その笑いが止まる前に剣を振るい終えていた。

 弧を描いた剣閃がゴブリンソルジャーの首を断ち、刎ね上げる。

 大きな頭がゴトリと落ちて、残された巨体がぐらりと崩れた。


「まだ……やるか?」


 ゴブリンソルジャーを倒し、次に残ったゴブリンに剣を向ける。

 すると、奴らは敵わないと見たのか、大急ぎで逃げていく。


「……薄情者」


 ぽつりと呟いて剣を下ろした。

 それと時を同じくして、またあの電子音が鳴る。


「ミッション達成……力自慢」


 達成条件、ゴブリンソルジャーの討伐。

 報酬、強撃スマッシュ


「――」


 急に目眩がし、体が浮いたような感覚がして、近くの壁にもたれ掛かる。

 手足が異様に軽く感じて心臓の鼓動がやけに大きく聞こえてきた。

 視線を下げてみれば脇腹の傷から血が滲んでいるのが見える。


「こりゃいよいよ不味いな」


 剣を杖代わりにどうにか前へと進む。

 前へ前へ。

 足も体もなにもかもを引きずるような思いで魔法陣を目指す。


「やっと、見えた……ははっ」


 かすむ視界の中に魔法陣を見つけ、その幾何学模様を血で汚す。

 倒れそうになりながらも踏ん張っていると、魔法陣が淡い光を放つ。

 転移は無事に完了し、気がつけばギルドを管理している協会に立っていた。


「ようやく……だ」


 重い足を動かしてエントランスへと向かう。


「うわっ、どうしたんだ? あれ」

「ひどい怪我……」

「あいつ一人か? 生き残り?」

「おい! 誰か医療スタッフ!」


 誰もが血まみれの俺を見るなり道を空ける。

 お陰で簡単に見つけることができた。

 あの見覚えのある忌々しい後ろ姿を。


「おい」


 声を掛け、仁が振り返る。

 俺はその憎たらしい顔面に向けて、握り締めた拳をぶち込んだ。


「仁!? ――うそ、総也」

「そんな……」

「い、生きてたのか?」

「あぁ、残念ながらな」


 そう返事をしながら倒れた仁を睨み付けた。


「立てよ、おい……仁、立ち上がれ。まだ殴り足りないんだ」


 胸ぐらを掴みあげる。


「ちょっと退いて! 怪我人はどこ!? いた!」

「なにしてるの! そんな体で!」


 もう一発見舞おうと拳を握り締めたところで、医療スタッフに羽交い締めにされる。


「離せ! こいつを殴らなきゃ気が済まない!」

「駄目! あなた死ぬわよ! 見て! 血だまりが出来てる!」

「知るか! もう一発殴らせろ! 俺を置いて行きやがって! 見捨てやがってッ!」


 そう叫んだ瞬間、ぷっつりと何かが切れたような感覚がした。

 そのあとすぐ全身に力が入らなくなり、目の前が急速に暗くなっていく。

 硬く握り締めていた拳もほどけ、腰が砕けたように崩れ落ちる。

 そして抗う余地もなく、俺の意識は途切れてしまう。

 次に目が覚めたのは、それから三日後のことだった。

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