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第二十九話 過ちの代償


「わかってるよね……あのときのことだよ」

「あぁ」

「僕は……怖かったんだ」


 か細い声を絞り出すように仁は続ける。


「総也が僕を庇って……刺された時……怪我を見て……死にたくないって……そう思った。それしか……考えられなく……なったんだ」

 俺はそれを黙って聞き続けた。

「だから……総也を置いて……僕は逃げた……自分が助かりたい……一心で……最後まで冷静でいなくちゃいけない……パーティーのリーダーが、真っ先に折れてしまった」


 その両目から涙が溢れ出す。


「僕が折れなければっ……勝てていたんだっ……僕が立ち向かうことを、選んでさえいればっ……ゴブリンの群れなんて、撃退できたんだッ!」


 声は叫びとなって洞穴に木霊する。


「僕は総也との友情を裏切った……その代償が、これだよ」


 蠢くパラサイトに顔を歪めながら、仁は告げる。


「あの時のことは……すべて僕の責任だ」

「違うだろ」


 隣にいた翔流がそれを否定する。


「総也を置いて行ったのは俺たちだ。俺たちの責任だろ」

「私たちは仁の選択に甘えて逃げた。自分が決めたことの責任は自分で取るべきよ」

「そうよね。私たちはずっと目の前の現実から逃げていたんだわ」


 全員の視線が俺に向かう。


「許してくれとは言わない……でも、言わせてくれ。本当にすまなかった」


 もしかしたらずっとそれが聞きたかったのかも知れない。

 待ち望んでいたのかも知れない。

 心の中がぐちゃぐちゃで、自分の感情なんて理解できそうにない。

 でも。


「あぁ……わかった」


 今この目から流れた雫だけは真実だ。


「ぅぐっ……」

「仁!」

「不味いぞ、もう薬の効果がっ」


 蠢いていたパラサイトが再び活動を活発化させる。

 皮膚の下を動き回り、体内を食い荒らし始めた。


「総也……頼みがある」


 例の電子音が鳴る。

 表示されたのは緊急ミッション。

 達成条件は秋宮仁を救うこと。


「助けてくれ」


 仁は差し出すように頭を垂れ、俺はそっと柄に手を掛けた。

 抜刀し、鋒を天に向ける。

 刀を掲げた俺を見て、三人もそっと仁から離れた。


「任せろ」


 力を込め、踏み込み、振り下ろす。

 一刀は狂いなく肉体を切り裂いて過ぎる。

 仁は力なく地面に倒れ込んだ。


「くそッ」


 地に伏す仁を見て、翔流は壁を殴る。

 亜紀と絵美も互いに寄り添って声を押し殺した。


「……この刀の銘は死命って言うんだ」

「え?」

「生きることと死ぬこと。自在剣、死命。活殺自在で生かすも殺すも自分次第。だから――」


 倒れた仁が、動き出す。


「仁を生かして、パラサイトだけを殺した」


 起き上がった仁の真下にはパラサイトの魔石が落ちていた。


「どう……して」

「助けてくれって言っただろ」


 だから、助けたそれだけだ。


「傷の手当てを。終わったらダンジョンを出る」


 そう告げて出口へと向かう。


「ありがとう……すまない……ありがとう……」


 何度も繰り返す言葉を耳にしながら、その場を後にした。


「緊急ミッション達成、生かすも殺すも」


 達成条件、秋宮仁の生存。

 報酬、スキル鎖状刃チェーンブレード

 伊吹たちの元に戻った。


「あ、総也さん」

「どうなりましたか?」

「万事上手くいったよ、幸いなことにな」


 そう言うと三人はほっと安堵の息をつく。

 三人ともまだ誰かの死を直接見たことがない。

 面識のほとんどない者でも、死を意識するのは堪えただろう。


「あの……大丈夫ですか?」


 そんな中、伊吹が遠慮がちに問う。


「あぁ、憑き物が落ちた。そんな気分だ」

「そうなんですか? なら、よかった」


 本当によかった。

 本当に。


「総也」

「あぁ」


 手当が終わった仁を連れて、翔流たちが現れる。


「行こう」


 四人を連れて、洞穴を出た。

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