第二十二話 石のゴーレム
ダンジョン第四階層。
沼地の多い湿地帯。
「蜘蛛の巣」
手の平を中心に拡散する糸が周囲に張り巡らされる。
それは風や草木の揺れ、沼に走る波紋まで感知し、震動が伝わる優れもの。
今それに魔物が触れ、糸が自動的に絡め取る。
そして俺が指先を動かせば、魔物を簡単に絞め殺すことができた。
「慣れてきたな」
亡骸が魔石となり、沼に落ちる。
そこへクレイゴーレムが飛び込み、魔石を拾い上げた。
この作業も十数回目ともなれば流石に慣れる。
「ありがとな」
クレイゴーレムが持ってきた魔石をアイテムボックスに収納する。
すると、例の電子音が鳴る。
「ミッション達成、動く石像」
達成条件、魔石の百個回収。
報酬、強化スキル石細工。
「粘土の次は石か」
その予想は当たり、クレイゴーレムたちが変化する。
粘土の体が石に置き換わり、より無骨なデザインへと変貌した。
「ぐごごごごご!」
強くなったことをアピールするように地面を何度か叩いている。
「お前たちも強くなるんだな」
これもミッションが追加されたお陰だ。
更にゴーレムを強化できるかも知れない。
その時が楽しみだ。
「さて、まただ」
ストーンゴーレムを眺めていると、蜘蛛の巣にまた魔物が引っかかった。
絡め取ったそれを絞め殺すと、続けてまた例の電子音が鳴る。
「ミッション達成、矛と盾」
達成条件、猪亀の討伐。
報酬、スキル攻防一体。
ちょうどそのスキルを手に入れると、頭上から鳥の魔物が落ちてくる。
蜘蛛の巣の範囲外からの襲撃に対して、左手を翳すように向けた。
「攻防一体」
スキルの発動と共に目の前に大きな盾が出現。
それが弾丸のように射出され、鳥の魔物を直撃する。
酷く鈍い音が鳴り響いた。
「うわ、痛そう」
盾の直撃を喰らった鳥の魔物は嘴と頭蓋が割れて魔石となる。
それに眉を潜めつつ、新たなスキルの感触を確かめた。
「今日の所はこのくらいでいいか」
ゴーレムたちのお陰で収集物も集まっている。
呪耐性+1毒耐性+1自然治癒+1とか、得られた能力も多い。
あともう一つ。
いろんな物を収集したからか、一つスキルが解放された。
観察眼だ。
「帰ろう」
蜘蛛の巣を掻き消し、湿地帯を後にする。
転移魔法陣からギルド協会に戻り、帰路につく。
玄関先まで戻ってくると、郵便受けが満杯になっていた。
「今朝はこんなになかったのに」
不思議に思いつつ郵便物を回収し、ギルドへと帰還した。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
扉を開けると、三人揃って出迎えてくれた。
まぁ、テレビの前のソファーからだけれど。
ドラマを見ているようだった。
「手紙やら葉書やらが来てるぞ。えーっと、伊吹」
「はーい」
美容院かなにかの葉書を伊吹に渡す。
「朝陽」
「はい」
姉の美月からの手紙を渡す。
「これは俺か」
ギルド関係の書類が入った封筒を懐にしまう。
「あとは小杖」
「はい」
とことこ歩いてきた小杖に何らかの書類を渡す。
「ん? これも小杖か」
似たような書類をまた渡す。
「あれ、これも、これもか。というか、あとは全部小杖のだな」
郵便受けが満杯になるほどの郵便物は、そのほとんどが小杖宛てだった。
「ありがとうございます」
両手に大量の郵便物を抱えた小杖はその足で部屋の隅へと向かう。
そして宛先を確認すると、中身を読みもせずに次々とゴミ箱へ捨てていく。
その異様な光景に声を掛けずにはいられなかった。
「小杖? いいのか? 読まずに捨てて」
また手紙を書くことになるぞ。
白山羊さんから黒山羊さんに。
「構いません。これらはすべてほかのギルドからの勧誘なので」
それを聞いてこの場の誰もが目を丸くした。
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