第二十一話 四人のギルド
ギルドへと戻ると、玄関先に朝陽の姉の美月が立っていた。
こちらに気がつくと、待ち構えていたように向かい合う。
「お姉ちゃん」
「遅かったわね」
「うん。ダンジョンに行ってたから」
朝陽の態度は堂々としたものでこの前とは大違いだった。
「準備は出来てるの?」
「ううん、してない」
「してない?」
「私、ここに残るから」
そう宣言すると伊吹と小杖がガッツポーズを取る。
とても小さく喜びの声も上げていた。
たぶん、やったー、だ。
「私の言うことが聞けない?」
「聞けない。私はもうお姉ちゃんに甘えないことにしたの。自分で決めて、自分で責任を取ることにする。私はここでみんなと冒険がしたいの」
そう言い切ると彼女は沈黙した。
長いようで短い間が過ぎて、ようやく口が開く。
「そう……わかった」
意外にも引き下がった。
二人もそれが以外だったようで、小首を傾げている。
「マスターさん。あなた、名前をなんと言いましたっけ」
「逆月だ。逆月総也」
朝陽の隣に並ぶ。
「そう、逆月さん。貴方に大事な妹を預けます。もし何かあったら許しませんから」
「あぁ。俺より先には死なせない。約束する」
「……そう。なら、もう何も言うことはないわ」
そう言って彼女は俺たちに背を向けた。
「あぁ、そうだ。一つ言い忘れていたわ。朝陽」
「なに? お姉ちゃん」
「すこし見ないうちに大きくなったわね」
彼女は再び背を向けてゆっくりと歩き出す。
見えなくなるまで一度も振り返らず、去って行った。
「すぅ……はぁ……」
大きく息を吸い、大きく息を吐く。
緊張から解き放たれたように、朝陽は胸を押さえていた。
「大丈夫か?」
「はい、ちょっと足が震えてますけど」
朝陽にとっては魔物より姉と対峙するほうが大変らしい。
「よかったぁ! これで一緒にいられるね!」
「うん。ずっと一緒だよ」
「約束ですよ」
「うん、約束」
三人で同時に指切りを交わし、友情を新たに結び直す。
それがすこし羨ましくもあって、だからかとても眩しく見えた。
§
「結局、あのお姉ちゃん優しい人だったね」
エンディングが写るテレビ画面を眺めつつ、伊吹はそう口にした。
「そうですね。度重なるいじわるもすべて妹である主人公のためでした」
「和解できてよかったね。擦れ違ったままだと悲しいし」
「そうだねぇ。思ってた展開とは違ったけど、これはこれでいいよね」
そんなドラマの感想会が行われ、三人は物語の余韻に浸る。
この光景が今後も続いていけるようになってよかった。
「俺も頑張らないとな」
三人を遠巻きに眺めつつ、目を手元のミッション一覧に移す。
未達成のミッションを一つ一つ確認し、すぐにでも達成できそうなものを把握していく。
次にダンジョンに行ったら、ミッション達成を意識しておこう。
「強くならないと」
この日常がこれからも続いていけるように。
「終わった終わったー。今日の夕食当番誰だっけ?」
「私です。腕によりを掛けて作りましょう。なにかリクエストはありますか?」
「うーん。あ、総也さんはなにか食べたいものありますか?」
「ん? そうだな……」
思考を巡らせてみる。
「そうめん、うどん、ラーメン……」
「どうしてそんな麺類ばっかり?」
「いやぁ」
脳裏に浮かぶのは鎧蜘蛛の糸だった。
朝陽も気がついたようで、苦笑いしている。
「いや、麺類は駄目だな」
「えー?」
「では、青椒肉絲にしましょう。細長いです」
「それだ!」
そんなことがありつつも、いつもの日常がまた終わる。
明日からもこの四人で頑張って行こう。
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