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第十九話 白の縄


「私も行きます」


 朝、装備を調えた朝陽はそう言った。


「大丈夫なの? 昨日の今日で」

「うん、平気だよ。怪我も完全に治ったし」


 朝陽はその場で足踏みをする。


「無理、していませんか?」

「してないよ。今度はヘマしないから安心して」


 空元気という風にも見えないし、足も完治しているみたいだ。

 これならダンジョンに行っても大丈夫だとは思うが。


「本当に大丈夫なんだな?」

「はい!」

「よし、じゃあ行こう」


 昨日断念した第六階層を目指そう。


§


 光剣が弧を描いて振るわれ、牙を剥いた食虫植物の魔物を引き裂いた。

 溶解液を漏らしながら枯れたように魔物は息絶え、魔石化する。


「調子はいいみたいだな」

「はい。油断もしないように気をつけてますから」


 そう話している間にも、襲いかかってきた猿の魔物を光剣が貫く。

 その様子は憑き物が落ちたようで、恐らく朝陽の中で結論が出たのだろう。

 このギルドを出るか、姉について行くか。


「あ、第六階層が見えましたよ」


 朝陽の活躍もあって俺たちは無事に第六階層まで到達できた。

 第五階層が緑に覆われていたこともあり、第六階層もその影響を受けている。

 いや、第六階層の影響を第五階層が受けているというのが正しいか。


「わー、大きな木」


 伊吹が見上げるのは樹齢何千年かと思うような立派な大木だ。

 しかもそれがそこら中に生え、天井を枝葉で覆い尽くしている。

 第六階層は森林地帯となっていて、生息する虫や魔物は今でも更新され続けているらしい。


「蛍が沢山飛んでいます。まるで天の川のよう」

「そうだな。しかも実際に流れてるみたいに見える」


 頭上を見上げて神秘的な風景を目に写す。


「さて、資源回収だ。いっぱい稼いで床を張り替えるぞ」

「はーい」


 森林地帯とあって現れる魔物は昆虫の類いが多い。

 巨大なバッタや蜘蛛、カマキリなどを相手にしつつ、魔石を回収する。

 そうしていると例の電子音が鳴る。


「ミッション達成、インセクトキラー」


 達成条件、虫系の魔物を十体討伐。

 報酬は虫特攻+1だ。


「こんなミッションあったっけ?」


 ふと気になってミッション一覧を開いてみると一目で違いに気がついた。

 明らかにミッションの数が多くなっている。

 すこし前まで未達成のミッションは数えるほどだったのに、今では数えるのも億劫になるくらい多い。


「更新されたってことか」


 どうやら何かのきっかけでミッションが増えたみたいだ。

 思い当たる変化と言えば、ギルドに仲間が増えたことくらいだけど。

 なら、あの帰るべき場所のミッションがキーになっていたのか。

 それをクリアしたから、次のミッションがアンロックされた。


「採用して正解だったな」


 改めて、そう思った。


「さて、と」


 散らばった魔石の回収はクレイゴーレムに任せてある。

 一カ所に集まったそれを回収して三人に目を向けた。

 風が舞い、剣が唸り、魔法が飛ぶ。

 順調に魔物を倒し、合間合間に資源を回収している。

 この分なら床の張り替えも近い。

 そんな風に思っていると、不意に嫌な予感がする。

 それは先ほどのミッションで得た虫特攻による予兆。

 なにかがくる。

 そう確信した刹那、暗い茂みの億から白い縄が飛び出した。


「これはッ」


 咄嗟に引き抜いた死命に絡みつく白い縄。

 間近でみたそれは縄ではなく、粘着性のある糸だった。

 糸、蜘蛛の糸。

 そこまで思考が回ってすぐ、第二射がくる。

 それらはクレイゴーレムたちが防いでくれたが、絡み取られてしまう。

 糸の先が生きているみたいに動き、瞬く間に繭になった。


「こりゃ不味いな」


 蜘蛛の糸で引っ張り合いだ。

 気を抜くと死命を持って行かれそうになる。

 森で火を使うのは避けたい、凍らせるか。


「朝陽ちゃん!」


 スキルを使おうとして、伊吹の声を聞く。

 視線を向けると茂みの奥へと引きずり込まれる朝陽の姿が見えた。

 糸を吐いたのは俺だけじゃなかったのか。


「くそッ――二人はそこから動くな! 俺が助けにいく!」


 引っ張り合いを止め、茂みの奥へと飛び込む。

 糸に引かれて長い距離を飛び、辿り着いた先には蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

 その最中に降りたって朝陽を探すと、引きずられていく姿を見つける。


「朝陽っ!」

「だ、大丈夫です!」


 朝陽はなんとか足に絡みついていた糸を光剣で切る。

 糸は切れたワイヤーのように跳ねて、奥の暗闇に消えていった。


「ひとまず安心だな」


 スキルで死命の刀身に冷気を宿し、蜘蛛の糸を凍らせる。

 柔軟性を失い砕け散った糸は、ほの暗い闇に吸い込まれた。

 ちょうどその解き、俺たちの頭上を蛍の群れが飛んでいく。

 その蛍光はこの場所を明るく照らし、闇から魔物を炙り出す。


「クチチチチチチチ」


 俺たちをここまで引きずり出したのは一匹の巨大な蜘蛛。

 鎧蜘蛛だ。

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