第十六話 月と太陽の姉妹
「えへへ、昨日は楽しかったなー」
「もう、伊吹それ何回目?」
「数えた限りでは十三回目かと」
「だって楽しかったんだもーん」
やれやれと言った風に朝陽と小杖は肩をすくめた。
「ほら、出来たぞ」
「待ってました!」
出来たてのフレンチトーストとコーンスープ、コーヒーを食卓に運び、自分も席に着く。
「いただきます」
しっとりとした食感と甘い味が口に広がる。
我ながら良い朝食が作れたもんだ。
「総也さん。今日の予定はどうしますか?」
「そうだな」
コーヒーを一口飲む。
「この前は第三階層まで行ったから、今度は第六階層まで目指してみるか」
「いいですね、第三階層も余裕だったし私たちなら楽勝ですよー」
「そうやって油断してると足下救われちゃうよ?」
「えー? でも、自信あるでしょ?」
「それは……そうだけど」
「挑戦してこそ冒険者とも言います。恐れずに進んでみましょう」
「そう、だね。うん。あ、でも、油断はしないようにね?」
「はーい」
話は纏まった。
「決まりだな」
再びコーヒーを手に取ると、来客を知らせるベルが鳴る。
「おっと、来たみたいだな」
「来た? 誰ですか?」
「人じゃなくて物だよ」
席を立ちながら返事をして、床を軋ませながら玄関へと向かう。
扉を開けると配達員が大きな段ボールを抱えて待っていた。
「お疲れ様です」
サインを書いて段ボールを受け取り、ギルドへと引き返す。
ガムテープを引きはがして出てくるのは、新型テレビだ。
「わぁ! 買ったんですね!」
「あぁ、この前の真珠が高く売れたからな。これでこのポンコツともおさらばだ」
古びた中古のテレビに肘を置くと、その衝撃からかまた画面が暗くなった。
とりあえず古いテレビを台から下ろし、新型テレビを据える。
手早く配線を済ませて電源を入れると、これまでとは比較にならないほど綺麗な映像が流れ始めた。
「綺麗だし、大きいし、勝手に暗くならないし、反応もいい!」
リモコンを持った伊吹が次々にチャンネルを変えていく。
「あ、録画も出来るよ」
「やったー! これでドラマも追っていけるね。あのお姉ちゃんが滅茶苦茶いじわるな奴!」
「そうですね。見ていて主人公が可愛そうになるので、私はあまり好きではありませんが」
「あはは、私もちょっと苦手かな」
「えー? そこからの逆転劇が面白いのにー」
三人はリモコンを操作して、番組録画の設定を済ませていく。
こういうことも中古のテレビでは出来ないことだった。
やっぱり家電は新しいものに限る。
「さて、こいつは後で引き取りにくるから、どこか別のところにっと」
中古のテレビを持ち上げ、玄関近くにまで運ぶ。
新型テレビよりも小さいくせに重量は重いと来ている。
一歩進むたびに床が大きく軋み、玄関まであと少しのところで派手な音を鳴らして床木が折れた。
「おおっと!?」
床が抜けてバランスが崩れるも、どうにか持ち堪える。
酷く不格好な体勢になりはしたが、転倒は避けられた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、なんとかな」
朝陽に返事をしつつ足を引き抜く。
「はぁ……テレビの次は床だな」
そのためにも金を稼がないと。
§
床に空いた穴は適当なもので塞いで置いた。
不格好だが改修するまでの我慢。
ひとまずはダンジョンに行くことになった。
そんな折り、本日二度目となる呼び鈴が鳴る。
「誰だ?」
把握している限り、来客はないはずだけど。
そう思いつつ玄関扉を開けると、一人の女性が立っていた。
長い髪をした大人びた印象で、恐らくは俺よりも年上。
身に纏う雰囲気にはどこか覚えがあるような気がした。
「どちら様?」
「こんにちは、朝陽はいますか?」
「朝陽……知り合いで?」
「はい。私、朝陽の姉の美月です」
道理で雰囲気が似る訳だ。
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