第十五話 二人のデート
透き通るような夜空にぽつりぽつりと星が輝き出す頃。
それなりの格好をして待ち合わせ場所に立つ。
時間を確認するとまだ少しある。
「さて、上手くいくかな」
以前の俺が練ったプランに被らないように考えた。
とはいえ、これで伊吹が楽しんでくれるかどうかは実際にデートが始まってからでないとわからない。
人事を尽くして天命を待つ。そんな気分だ。
「総也さーん!」
しばらくして伊吹の声が聞こえてきた。
目を向けるとめかし込んだ伊吹の姿が見える。
いつもと化粧の仕方が違うのか、すこし大人びた雰囲気だ。
「どうですか?」
くるりと一回転してスカートがふわりと舞う。
「あぁ、よく似合ってるよ。そのネイルも」
伊吹の爪は淡いピンク色をしていた。
「えへへ。いつもは邪魔になるから出来ないんですけど、今日は特別な日ですから」
ピンと伸ばした指先を見て、伊吹は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「明日には外さないといけないのが残念だな」
「そうなんですよー。でも、冒険者ならしようがないですよね」
「良い心がけだ」
だからこそ、今日くらいは許される。
「突っ立っててもなんだし、行くか」
「はい! あ、でも、その前に一つ良いですか?」
「あぁ、なんだ?」
「ちょっと言い辛いんですけど」
「うん?」
§
伊吹をつれて歩くことしばらく、俺たちは目的地に辿り着いた。
目の前に建っているのは冒険者御用達の魔道具店だ。
「本当にここでいいのか?」
「はい! 行きましょー!」
どういう心境の変化か、伊吹は雑誌に載っていたデートスポットではなく、この魔道具店に行き先を変更した。
俺としては行きつけの店だし、こっちのほうが楽ではあるけれど。
伊吹は本当にそれでいいのか?
そんな疑問を抱えつつ、伊吹に次いで魔道具店に足を踏み入れた。
「総也さん。たくさん種類がありますけど、携帯食料ってどれがいいんですか?」
「そうだな……なるべく安いほうがいいけど」
「じゃあ、これとか?」
「あぁ、それは駄目だ。食えたもんじゃない。近い値段のこっちのほうが絶対いい。俺のおすすめ」
「なるほどー。なら、これにしよっと。じゃあ、次はー」
陳列棚を巡り、いろいろな質問をされた。
俺はそれに答えているだけでいいのだけれど、やはり気になる。
なぜ行き先をここに変更したのか。
「あー、伊吹」
商品を眺める伊吹に呼びかける。
「そろそろ聞いて良いか?」
「行き先を変更したことですか?」
「あぁ」
そう返事をすると、伊吹は小さく笑う。
「私って結構、耳がいいんです。風に乗って音が届くから」
「……全部、聞かれてたか」
「はい。総也さんがデートのことを誤解してたのも知ってますし、私のために頑張ってプランを練ってくれたことも。私、それが嬉しくて」
「それで行き先を?」
「はい! わざわざ有名なところに行かなくても総也さんとなら絶対楽しいデートになりますから。なら、場所はここがいいなって思ったんです。それに」
目と目が正面から合う。
「先輩のアドバイスがほしいなって」
伊吹はにっと笑ってみせた。
「そっか」
そんな風に思っていてくれたなんてな。
「なら、期待に応えないとな。なんでも聞いてくれ」
「はい! じゃあ、早速なんですけど」
それから伊吹とのデートは続き、いろいろなアドバイスをすることができた。
魔道具店から出た伊吹はとても満足そうに買い物袋を揺らしている。
とりあえず、デートは成功したってことでいいのかな。
そう思っていると、例の電子音が鳴る。
「緊急ミッション達成、デート大作戦」
達成条件、風間伊吹とのデートを成功させる。
報酬、好感度アイテム。
そこまで認識すると、右手に包装されたプレゼントが現れる。
それを持った瞬間、その効果も理解できた。
これを渡した相手の好感度が上昇する、というもの。
このプレゼントで距離を縮めろ、ということらしい。
「余計なお世話だ」
俺はそのプレゼントを握り潰し、消滅させた。
「総也さん?」
「あぁ、今行くよ」
手を払う仕草をしつつ、先にすこし進んだ伊吹の後を追う。
「そういえば……」
デートを誤解していたことが筒抜けだったってことは、俺と亜紀の会話も聞こえていた可能性がある。
伊吹はなにも言わなかったが、聞こえていなかったのか、それとも俺に気を遣って聞こえないふりをしたのか。
どちらにせよ、言葉に出さないほうがいいことはある。
俺も、このことは忘れよう。
せっかくのデートに水を差すのもなんだしな。
そうして伊吹に追いつき、デートは大成功で幕を閉じた。
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