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第十四話 海の幸


「クララララララ」


 胡桃を擦り合わせたような音を鳴らし、振り上げられた鋏が振り下ろされる。

 俺たちはその場から飛び退いて攻撃を躱し、舞い上がる白砂の最中で攻撃へと転じた。


氷点下フローズン


 左手に宿した冷気を放ち、砂を叩いた鋏を凍らせる。

 巨大な氷塊と化した鋏が重くジャイアントクラブの動きを鈍らせた。


「今のうちっ」


 次いで背後に回り込んだ伊吹が風を纏う拳を見舞う。

 酷く鈍い音がしてジャイアントクラブの巨体が揺れる。

 だが、堅牢な外骨格に耐え抜かれ、浅くひびが入る程度に終わった。


「かったーい!」

「なら、私が!」


 次いで朝陽が光剣を放ち、一つの大きな大剣として剣撃を叩き込む。

 けれど、その太刀筋は見切られ、もう片方の鋏で断ち切られてしまう。


「私も駄目みたい」

「天穿ち そらより来たれ 流れ星」


 小杖の詠唱が聞こえると共に、砂の下から更に蟹の魔物が湧いて出た。

 魔法の発動を妨害しようとするように、それらは小杖へと襲いかかる。


「朝陽!」

「はい!」


 俺が呼ばずとも、朝陽はすでに動いていた。

 小杖へと向かう魔物の群れを、六本の光剣が次々に切り裂いていく。

 あのくらいのサイズなら光剣で十分に対処できるか。


「夜を焼き切り 刹那に馳せる」


 詠唱が終わる。


瞬々光雨(しゅんしゅんこうう)


 魔法は顕現し、天から無数の隕石が降り注ぐ。

 それらは蟹の魔物を打ち抜いて一掃してみせた。


「凄いな。けど」


 ジャイアントクラブの甲殻は、それでも貫けない。

 それに蟹の魔物もまた次々に湧いてきている。


「さて、どうしたもんか」


 有効打をまだ見つけられてない。

 氷漬けにした鋏も挟力が強すぎるのか、たった今、砕かれてしまった。

 分厚い甲殻に阻まれて凍結も届かないとなると残るは火炎か。


「――朝陽と小杖はそのまま雑魚を任せた」

「はい!」

「伊吹! 俺たちはでかいのの相手だ」

「はいはーい!」


 伊吹はすぐに側にきた。


「作戦はなにかあるんですか?」

「あぁ、一応な。とりあえず――」


 詳細を話そうとした途端、ジャイアントクラブから攻撃がくる。

 口から細かな泡が吐き出され、それらがこちらへと押し寄せた。


「回避!」


 泡を迂回するように互いに白砂を蹴る。

 その直後、背後で泡が弾け小規模な爆発が連続した。


「――どんな生態してんだ、あの蟹味噌!」


 爆発に追われる形で砂浜を駆け、極小の礫に背中を打たれながら隙を伺う。


「それなら、私の出番!」


 伊吹は回避を止めて立ち止まり、迫り来る泡の群れを自らのスキルで押し返す。

 吹き荒れる突風によって泡のすべてがジャイアントクラブへと帰っていく。

 それで自滅を期待したが泡は甲殻に吸着すると割れもせず形状を維持し続けた。


「て、手出し出来なくなっちゃいました」

「あんなのありか」


 下手に殴れば爆発が帰ってくる。

 ただでさえ硬いのに自動的に反撃されるようになってしまった。

 そしてその泡は攻撃に追加効果を付与するようにもなる。


「不味い」


 振り下ろされた鋏が地面を叩き、吸着した泡が大量に爆ぜた。

 通常の打撃に加えて泡の爆発が重なり、巻き起こる衝撃に身を攫われる。

 砂の波に呑まれたような感覚を味わいながら砂浜を転がった。


「総也さん!」

「平気だ!」


 すぐに立ち上がり、ジャイアントクラブと向かい合う。


「初見の魔物ってこんなに手強かったっけ」


 最近は千体ミッションを達成するために既存の魔物ばかりと戦っていた。

 だから、今のこの状況が新鮮で、どこか楽しいとすら思える。

 久しく忘れていた感情が蘇ったみたいだ。


「伊吹! 風を起こしてくれ! 最大出力でだ!」

「な、なんだかよくわからないけど、わかりました!」


 繰り出される鋏の一撃を大きく躱し、伊吹が最大出力の風を起こす。

 それは白砂を巻き上げ、巨体を揺らすほどの突風。

 だが、巨体が耐えられないほどじゃない。

 風を邪魔に思ったジャイアントクラブが伊吹のほうに注意を向ける。

 俺はその隙に冷気を操り、伊吹までの氷のコースを作り上げた。

 砂浜を駆け、氷を滑り、一息に伊吹の元へ。

 相対するジャイアントクラブを見据えて左手を翳すように伸ばした。


火炎の吐息(ブレスオブファイア)


 サラマンダーのごとき火炎のブレスが放射され、伊吹の風と混ざり合う。

 風に煽られて盛る火炎は威力を増し、特大の業火となってジャイアントクラブを呑む。

 表面に吸着した泡はすべて爆ぜることなく蒸発し、灼熱が甲殻を焼く。

 どれだけ鎧が分厚かろうと、この火力を無効化することは出来ない。


「いっけー!」


 更に風の威力が増し、業火はジャイアントクラブを焼き尽くす。

 火炎が掻き消える頃には白砂は赤く熱され、黒く炭化した亡骸だけが残される。

 それはゆっくりと身を崩し、熱い砂に身を沈めた。


「やったー! 私たち最強ー!」


 伊吹はぴょんぴょんと跳ねて全身で喜びを体現している。

 それを微笑ましく思いつつ、朝陽と小杖のほうに目を向けた。

 二人とも無事のようで蟹の魔物を全滅させている。

 そのことに安堵して、一息をつく。

 そして例の電子音が鳴る。


「ミッション達成、海の幸」


 達成条件、ジャイアントクラブの討伐。

 報酬、スキル怪力鋏シザーハンズ


「さて、あとはデートか」


 こうなってはジタバタもするまい。

 伊吹が喜んでくれるように努力するか。

 そう決意を固めてその日を終え、デートの日が来た。

 ミッション開始だ。

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