第十一話 今後の目標
「ふぁ……」
ベッドから起き上がり、欠伸を一つかく。
寝ぼけ眼を擦りつつ緩慢な動きで廊下へと出る。
すると、リビングのほうから話し声が聞こえてきた。
一瞬、泥棒かなにかかと思い、目が冴える。
「――あぁ、そうか。そうだった」
ため息を吐きつつ、リビングの扉に手を掛けた。
「あ、おはようございます!」
「おはようございます」
キッチンに立つ朝陽が俺に気がつき、遅れて小杖がこちらに振り返る。
「あぁ、おはよ。随分と早いんだな」
「正式にギルドメンバーになって初日ですからすこし緊張してしまって」
「私もです。お陰で早くに目が覚めてしまいました」
「そうか、俺にも経験あるぞ。こういう時に限って目覚ましが鳴る前に目が覚めるんだよな」
笑いながらキッチンへと足を進める。
「この匂いは味噌汁か」
「はい。豆腐とわかめでシンプルに。卵焼きと鮭もありますよ」
「そりゃいい。日本人って感じがする」
しっかりした朝食を取るのも久しぶりな気がするな。
コンビニで適当に何か買って済ませるのがここ一年の日常だった。
腹が減ってきたな。
「そう言えば伊吹は?」
「まだ寝ています。一度起こしたのですが、そのまま二度寝してしまいました」
「じゃあ、洗面所は空いてるな。顔を洗ってくる」
洗面所に入り、朝食前にやるべきことをすべて終わらせてリビングへと戻る。
ちょうど扉を開けたところで、ようやく伊吹も姿を見せた。
「おはよーございまーす……」
「あぁ、おは――」
酷く眠そうな声音に釣られて目を向けると、伊吹はまだパジャマ姿だった。
しかも寝相が悪いのか、随分とはだけて肌色が目立つ。
「おっと」
すぐに視線を逸らして背を向けた。
「い、伊吹! そんな格好で!」
「えー? いつもこんなでしょー?」
「いつもは私たちしかいませんが、これからは違います」
「総也さんのことー? ふぁ……私、べつに気にしないもーん」
「お願いだから気にして!」
古びた壁を見つめ続ける経験は今までにないことだった。
「こりゃ大変そうだ」
§
「いただきます」
日本人的な料理が食卓に並び、四人揃って朝食の挨拶をする。
みんな思い思いに箸をつけ、俺は味噌汁を手に取った。
「ど、どうですか?」
「あぁ、うまいよ。市販品とは大違いだ」
「よかったぁ」
ほっとしたように朝陽は胸を撫で下ろした。
「朝陽ちゃんの卵焼きって本当に綺麗だよねー」
パジャマから着替えた伊吹は箸で摘まんだ卵焼きを目線の高さまで持ち上げている。
「褒めてくれるのは嬉しいけど、行儀悪いよ?」
「はーい」
大きく口を開けて一口で頬張った。
「総也さん。今日もダンジョンに?」
「あぁ、そうだな。食べながら聞いてくれ」
朝食を続けつつ、今日の話をする。
「当面の活動方針はダンジョンの攻略と資金調達になる。うちは見ての通り貧乏だ。床は軋むし、壁はボロボロ、雨が降れば雨漏りがする。おまけにテレビは勝手に電源が落ちちまう」
そう話したタイミングで、テレビの画面が真っ暗になる。
「これから四人で金を稼いでギルドを立て直す。そのためにもダンジョンでの活動範囲を広げないといけない。そこで今日の目標を発表する」
「それは?」
「第三階層への到達だ」
そう聞いて三人の箸が止まる。
「い、いきなり第三階層ですか?」
「自信ないか?」
「いえ、ただ私たちまだ第一階層でしか経験がないので」
「そうですね。今の私たちがどこまで通じるか未知数なので」
二人は慎重に物事を捉えている。
「えー? でも、私たち第一階層で一番強い魔物を倒したんだよ? サラマンダー」
しかし、伊吹は二人と違っていた。
「それってもう第一階層では敵なしってことでしょ? 私たちなら第二階層でも第三階層でも戦えるはずだよ!」
伊吹の考え方は大胆不敵で恐れ知らずのように見える。
悪く言えば無謀者で、よく言えば挑戦者だ。
「伊吹の言う通りかも。せっかく冒険者になったんだから挑戦しないと」
「私たちなら戦えると証明しましょう。それが自信になります」
慎重に事を構える二人を伊吹が引っ張っている。
そして伊吹が突っ走り過ぎるのを、二人がとどめているのだろう。
俺にはそんな風に見えた。
「話は纏まったな。今日、第三階層までいく」
「はい!」
声が揃い、意気込みは十分。
本当に戦えるのかはダンジョンで証明しよう。
「あ、そうだ!」
思い出したように伊吹がこちらに目を向ける。
「今日、第三階層まで行けたら私とデートしてください!」
「あぁ、いいぞ」
「えぇ!?」
「わお」
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