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DVDを見始めてから、約四十分が経過した……。
ゴクリと固唾を飲み、いよいよ最後の一本となった心霊映像に集中して目を、耳を向ける。
最初の方はあまり真剣に見ていなかった心霊動画も、ラップ音や霊の声、電子音声現象などの不可思議に惹かれてしまい今や一瞬たりとも意識を離すことが出来なかった。最後の心霊動画が始まって数分、徐々に背中にゾッと悪寒が走ってきた。
今にも映像の中で怪奇音が発せられようとしている!
体が、脳がそう感じたその時、廊下の方から雰囲気を壊すように豪快な鼻歌が聞こえてきた。
「ん~、ん~、ん~、んん~~」
いつも通りの少し音程の外れた下手な鼻歌に、つい意識が廊下の方へ向いてしまう。
「あ、しまった」
おかげで心霊映像の最後のオチとなる怪奇音を聞くことができなかった。
「もう!」
どうやらオチを聞けなかったのは倉敷も同じだったようで、その下手な鼻歌に怒りながらもDVDを一旦止める。
「なんでこんないい所で……」
そして倉敷は愚痴を溢しながらテレビから視線を後方の扉の方に向けた。その扉に向ける目はとても険しく鋭くて、正に臨戦態勢だった。
「ん~、ん~、ん~、んんん~~、ん~、ん~ん~」
再び豪快で下手な鼻歌が鳴った。と、思ったら次の瞬間勢いよく扉が開かれた。
「うーっす」
少し気だるそうに、挨拶をして入ってきたのはシルバーの眼鏡をかけたとてもがたいのいい男だった。男は入ってきて早々、目に入ってきた心霊動画に不快そうに眉を顰めて眼鏡の奥の三白眼を鋭くして倉敷に向ける。
「倉敷お前、またそんなものを……。いい加減さ、幽霊なんて存在しないことを認めたらどうだ?」
男の上から目線の高圧的な喋りに倉敷はおもいっきり反発する。
「ふざけないでください幽霊は絶対にいます! それと〈呪いの心霊映像〉をそんなもの扱いしないでください。これは30巻も出ている人気作なんですよ」
「ああ、そう」
男は呆れたように呟くと、背負っていたバッグを長机の足元に置き自分の隣の席にどっしりと腰かけた。
隣に座ったこの男の名前は速水宗太という。自分と同じ二年生でこのサークルメンバーの一人でもある。180センチ以上もある身長にがっしりとした身体に、それに見合うでかい態度が特徴の人物だ。
速水は嘘が嫌いで、そしてその最たるものと言って嫌っているのが先程の態度から分かる通り幽霊の存在だ。幽霊を完全否定しているから倉敷とは水と油の仲、絶対に相容れない関係なのだが、そんな速水だが倉敷と同じように絶対的に信じているものが宇宙人や未確認飛行物体などの宇宙の神秘なのだ。
自分からしたらどちらもどちらだと思う。だが両人からしたら絶対に譲れないものなのだろう……。
「見ていないんだったら消せ!」
片肘ついて高圧的な命令する速水に倉敷はツンと顔を逸らして否定する。
「嫌です!」
「画面を止めていて全く見てねぇじゃねぇか」
「これは速水先輩が丁度いい所で来てしまったから止めたんですよ! だからこの映像をもう一回、最初から見ますから」
「はあぁ!?」
倉敷の言葉に速水はふざけんなと言わんばかりに倉敷を睨みつける。
「最初から? 消せって!」
「嫌です!」
しかし倉敷はそんな速水の睨みを無視して半ば強行的にDVDを巻き戻し、そして再生させた。