3-6
心臓をバクバクさせながら自分はその床に落ちてきた物体に視線を移すとそこには、ぐちゃぐちゃになった無残なビデオカメラと三脚の姿があった。レンズは割れて散らばり、液晶モニターはどっかに放り投げだされ、そして三脚は一つの脚がポッキリと折れてとても見るに忍びない状態になっていた。
「……………………」
自分はヘッドホンで聞いているかのように大きな心臓の音を感じながら頭上のビデオカメラが落ちてきた二階を見上げる。
するとそこには手すり壁があった。
ホールの奥に置いてあったビデオカメラどうやって手すり壁を越えて落ちてきたのか全くの理解不能だ……。
何が何だか分からないそんな中、ずっと砂嵐状態だったテレビが突如正常に戻った。夕方のローカル番組の明るい声が部屋に流れるが、それは虚しいぐらいこの場に寂しく流れていった……。
「さ、冴木君大丈夫⁉」
そのテレビの声でハッとしたのか染谷さんが大急ぎで駆け寄ると心配そうに肩を揺らして安否を確認してきた。
自分はゆっくりと染谷さんに振り向き頷いて答えようとするが、その頷きも喋りも恐怖で自分でもハッキリ分かるぐらいに震えていた。
「え、ええ、大丈夫です……。ぎ、ギリギリ当たりませんでした……」
「本当? ならよかった……当たらなくて」
それを聞いた染谷さんは心の底から安心したのかガクッと体の力が抜けた。
恐怖と混乱に支配されしんと静まり返ると中、一番初めに声を上げたのは速水だった。
「俺ちょっと見て来るわ!」
速水はそう言って少し狼狽した様子で持っている菜箸とエプロンをキッチンに置くとバタバタと大きな足音を立てながら螺旋階段を上がっていった。
再びの静寂…………。
未だ肩に手を置いたままが動かない染谷さんの体重が肩に圧し掛かる。自分はそっと胸元にいる染谷さんに視線が向けると――そこで捉えたのは染谷さんではなく、足元に落ちたビデオカメラと三脚だった。……もしこれが自分の頭に落ちてきていたら、という最悪を想像しそうになったその時、
「冴木君とりあえずここから移動しようか」
と、言いながら染谷さんが顔を上げた。その顔は安心させるように笑みを浮かべていたが、染谷さん自身不安に押し潰されてしまいそうな程に顔を引きつらせてもいた。
自分は染谷さんが我慢しているのに恐怖を表に出してしまっては格好悪いと、心の底から込み上げる恐怖に対してぐっと蓋をして平常心を保ちながら「はい」と答えた。




