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見終わって、幽霊など絶対に信じない速水は納得いかないと倉敷に向かって言葉をブン投げる。
「何だよこれ、お前が何かやったんじゃないのか!」
「やってませんよ……」
普段なら壮絶に反論する倉敷だが、この映像の出来事に遭ってから全くといって良いほど元気がなくただ弱弱しく首を横に振るだけだった。
しかし、速水はお構いなしに睨み続ける――。
「やめてやめて。ケンカしないで」
気まずそうな空気が走りそうになったその時、染谷さんが速水の視線に割って入り制止する。
「速水君、疑うのもいいけどそう頭ごなしに言うのはよくないと思うよ」
「……ちっ」
バツ悪くなった速水は最後まで映像に納得いかないといった様子で、この場から去って行った。
とりあえずの危機を回避して染谷さんは「ふう」と息を吐いて一人用ソファに座り直すと、視線を二人用ソファに座る自分と倉敷に向ける。
「で、冴木君、これは心霊現象だと思う?」
「…………」
先程のこともあり倉敷はまだ会話できる状態ではない。だからまずは自分の見解を染谷さんに伝える。
「その可能性は高いと思います」
速水の言う通り倉敷の自作自演という可能性も無くはない。だが映像を見ていて扉が開いたその先に誰も、仕掛けもなく、ほぼタイムラグなしで倉敷の叫び声が聞こえた事から映像の信憑性は高かいと感じた。
そして何より、隣の倉敷の怯えきった様子が本当の出来事なのだと思った。
染谷さんはそれを聞いて少し嬉しそうに笑む。
「来たのかな?」
「来たんじゃないんですか」
こんな状況にもかかわらず笑う染谷さんに自分は呆れていると、隣の縮こまっている倉敷から恐怖に染まった震えた声が聞こえてきた。
「そ、そ、染谷さん帰りましょうよ……。やっぱりここ雑誌に書いてあった通りすごくヤバいんですよ」
「う~ん、そうしてあげたいのも山々なんだけどもね……」
ワクワクが止まらない染谷さんは困りながら笑うというよく分からない事をしながら告げる。
「映像がこれじゃあね……。もっと衝撃的で決定的なもの撮れまで帰るわけにはいかないよ」
「しょ、衝撃的で決定的って」
倉敷は染谷さんの前に置かれているビデオカメラを手に取って映像を巻き戻した。そしてある場面で止めると、砂嵐は走る前の何の前触れも無く映った透明の埃と赤の埃みたいなものを指さした。
「これもダメなんですか? これ全部オーブですよ、オーブ。こんなに撮れたんなら衝撃的で決定的ですよ」
オーブ、それは玉響現象といわれるもので一説によれば正体は霊魂だと倉敷に聞いたことがある。様々な色があり、その色によってオーブの感情や正体が分かると言われているみたいだが……。
染谷さんは憐れむように倉敷を見ながら首を横に振った。
「残念ながらダメだね」
「なんで?」
「前も言ったけど、怪研を存続させるには誰もが一目で心霊映像だなと分かるようなものを撮らないといけないの。舞ちゃんが言いたい事も分かるけど、そのオーブだけじゃあちょっと弱いかな」
「よ、弱い……。そうですか……」
全ての望みが潰えたことに倉敷はまるで漫画に描いたような落ち込む人のようにガックシと肩を落として項垂れた。
あまりの落ち込みようにさすがに心配になり自分はそっと声をかけてみる。
「大丈夫か?」
「はい。でもすごく残念です……」
「……そうか。怖いだろうがあと四日、頑張って我慢してくれ」
何とかしてあげたいが染谷さんの言う事がこの怪研にとって今一番大切な事だ。だから倉敷にはただ安心させるような声をかける事しか自分にはできなかった。
「よ、四日ですか……。分かりました、頑張ってみます」
あと四日という現実に倉敷は気が遠くなったのかふらつき背もたれにもたれたが、倉敷は自身の中でそれを何とか呑み込んで最後はしっかりと気を持って返事をした。




