3-2
女性部屋の眼前まで来た自分は、恐る恐るその部屋へと足を踏み入れた。数歩歩いて、おもむろに左右を確認する。
左は誰もいない、右は――右も誰もいなかった。
ほっと胸を撫で下ろす。が、それも束の間、薄暗い部屋に再び恐怖が込み上げそれを解消すべく、まっすぐに歩きバルコニーへと繋がる大きな窓へ行き、そしてカーテンと窓を全開した。
太陽の暖かい光と、自然の優しい風が同時に頬を撫でた。その瞬間、真に恐怖で強張っていた気持ちが緩まった。
太陽の光を数秒浴びてから自分は改まって振り返ると部屋の扉を開けた要因を調べてみる。染谷さんと倉敷が過ごす部屋は、ビデオカメラの位置も変わらず特に変わった様子はない。初日入った時から唯一変わっている点があるとすれば、ドレッサーに化粧用品やそれに関する小物が置かれているぐらいだ。
扉を閉める要因が分からない事に、自分は首を傾げ顔を顰めた。
「分かんないな……」
扉が開く原因として簡単に考えられるのは〝風〟だが、その風が入る窓は先程開けたばかり、そしてそもそも扉は内開きだから風で扉が勝手に開くはずはないのだ。それなのに倉敷は勝手に扉が開くところを見たという……。
あまりにも理解し難く不可解な出来事に何だか頭が痛くなりそうだ。
「はあ……」
ため息を吐くと同時にここで一旦考えるのを止めて、自分は染谷さんの要望のビデオカメラと二人のスマホを持ってとっととこの部屋を出て行った。
ビデオカメラと二つのスマホを手に次に来たのは自分と速水が過ごしている部屋だった。その部屋に入って左側の二台のベッド――染谷さん達の部屋と同じ配置――の廊下側のベッドで速水はぐっすりと寝息を立てて寝ていた。
あんな倉敷の叫び声があったのによく寝ていられるなと思いながら声をかける。
「おい、起きろ」
「…………」
起きる気配は全くないので、今度はさっきよりも少し声を張ってみる。
「速水!」
その声にやっと速水は反応した。が、ただ煩そうにして寝顔を背けただけだった。こんな緊急事態にもかかわらずどうしても起きる気配がない速水に自分は業を煮やし実力行使で起こしにいくことを決意する。
両手に持っていたビデオカメラとスマホを左手だけに持つと、空いた右手で速水の体をゆさゆさと大きく揺さぶる。
「今すぐに起きろ!」
するとようやく速水はその大きな体をだるそうにして起こした。壁に凭れながら眠そうな顔をした速水は少しイラつきながら口を開いた。
「なんだよ……。人が気持ちよく寝てたのに……」
突然起こされてイラつくのはとてもよく分かるが事が事だから致し方が無いだろう。その速水のイラつきを無視して、持っているビデオカメラを見せつけて続ける。
「ポルターガイストが撮れたかもしれない。だから起きて一階に来い」
「ポルターガイストォ? なに馬鹿な事を言ってんだ?」
ほとほと呆れたような顔をして一向に起き上がる気配がない速水に自分はイラつき怒気を込めて一言。
「とにかく一階に降りて来い! ほら!」
そして最後に強引に速水の腕を掴み上体を起き上がらせてから、自分は先に一人で一階に下りて行った。




