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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
39/47

2-6


 スノーグローブの舞い散るような満天の星空――。


 その下のウッドデッキでは速水が望遠鏡や椅子など出しUFOの観測の準備をしているのが見えた。どうやら玄関から人知れず出ていたみたいだ。一人黙々と作業する速水はこれから満天の星空を、そしてUFOを見つけられるかもしれないという想いでとても楽しそうだった。


 一方、その速水がいなくなったリビングでは静寂に包まれていた。染谷さんは眠りにつき、倉敷は口論相手がいなくなり不完全燃焼……行き場のない気持ちをどこにもぶつけられる事も出来ず一人曇った顔をしていた。

 とても気まずい雰囲気の中、自分はどう動けばいいのか思案しているとふと先ほどの速水と倉敷のケンカ話の中で気になったことを思い出した。だがそれを聞くという事は倉敷に先ほどのケンカを思い出させてしまうということであり、場合によっては面倒臭い事になるかもしれないということでもあった。

 しかしこのあまりの静寂に耐え切れず、自分はゆっくりと倉敷の方を向いて口を開いた。



「……なあ、さっきの速水との話しなんだけど、結局なんで倉敷は幽霊を信じているんだ? 何か特別なキッカケとでもあったのか?」

「えっ!」



 横から来た突然の質問に倉敷は少し驚いた表情を見せると、なんだか気恥ずかしそうに目を逸らし、そしてゆっくりと小さく首を横に振った。



「……いえ、特にそんなのはないですね」

「無いのっ!?」



 意外な言葉に自分は倉敷以上に驚いた。



「てっきりちゃんとしたキッカケがあって信じているのかと思った……」

「そうですね、そんなキッカケがあれば格好がつくんですけど、そもそも私が幽霊を信じるようになったのは小さいころテレビでやっていた心霊番組を見て単純にいるんだと思ったからです」

「ああぁ……なるほどね」



 幽霊を信じているわりにはなんとも不確かな理由だが、信じている理由としては充分に納得できた。何故なら誰しも子供の頃はテレビを屈託なく見るもので、幽霊やUFOなどの超常の存在があるのだと簡単に信じてしまうものだからだ。

 しかし、大きくなるにつれてCGやら演出などの言葉を覚え、段々と(うたぐ)り深くなって信じられなくなっていく……。

 自分はその信じ切れなくなってしまった中の一人である……。



「意外、というよりは普通だな……。幽霊を信じる理由がそんなものだったなんて」 

「まあそうですね。でも今は信じる理由は違いますよ。今は……」



 倉敷の話の正に途中で、リビングの大窓を開けてウッドデッキから観測準備を済ました速水が空のバッグを置きに戻ってきた。

 少し涼しげな、だけどどこかジメジメしたような空気がひゅう、と入る。



「速水早く閉めろよ。クーラーつけてんだからさ」

「まあ待てって、ビール飲ませろ」



 自分の注意などお構いなしに速水は悠々とビデオカメラと三脚が入っていた空のバッグをリビングの大窓の側に置くと、そのまま靴を無造作に外に投げ出し中へ入ってきた。そしてテーブルの上の最後のビールを何も言わずに手に取った。

 そんな速水に呆れながら視線を倉敷に戻す。



「ごめん倉敷話の途中だったな」

「いいえ、いいですよ……」



 気にしていないと言う倉敷。だが視線はビールを取りに来た速水の方向を向いていて、倉敷は速水にまるで言い聞かせるように改めて幽霊を信じる理由を語り始めた。



「今は幽霊が持つ『想い』を否定したくないから私は強くいると信じているんです。だってそれを否定してしまうと恨み、辛み、妬み、後悔などの負の感情を持った地縛霊や浮遊霊、悪霊と一緒に、愛や庇護といった正の感情を持つ守護霊とかも全部否定してしまう事になるからです。その守護霊とかを否定してしまうのは、あまりにも寂しい考え方じゃないでしょうか……」

「そうだね。確かに寂しいかな」



 倉敷の考えはこの世にはいない自身のご先祖を(とうと)ぶ考えだった。確かに幽霊を否定する事はご先祖が見守ってくれているという考えも同時に否定してしまうことになってしまうかもしれない。

 喋り終わっても倉敷は速水に視線を外さず『速水は寂しい考えの人』だと目で訴えているみたいだった。しかし速水はそんな倉敷の視線をまるで気にする様子もなくビールを側に置きながら無造作に放っていた靴を履き直すと、再びビールを手に持ち窓際でそれを開けた。


 ――かしゅ。


 音を鳴らして、すぐに飲むのかと思いきや速水は座ったままそこで一息。

 速水は「はあ」と悲しそうにため息を吐いてから倉敷の方を振り向いた。



「悪かったな、寂しい人間で……」



 怒りを(あら)わにするのではなく、また反発するのでもなく、ただその言葉を呑み込んだだけの速水はおもむろに大窓を閉めてウッドデッキへと歩いて行った。

 予想もしていなかった反応に倉敷は肩透かしを食らったかのようにポカンと間の抜けた顔をした。



「……えっ? なんですかあの反応」

「さあ?」



 暖簾(のれん)のような全く手応えのない態度は酔っているからなのか、それとも本当に寂しい人間と言われて拗ねたのか、その理由は速水自身にしか分からない……。が、この場でただ一つだけハッキリと分かることがある、それは――。


 ウッドデッキで観測を始めた速水から視線をチラリと、手前の一人用ソファでもたれて眠っている人に移した。


 ――それは、この寝ている染谷さんをどうにかしなければならないという事だった。


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