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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
38/47

2-5



「じゃあじゃあ! 冴木先輩なんで心霊写真が撮れるのか知っていますか?」



 てきとうに頷く自分の様子を見て、倉敷は話を理解してくれたと思ったのかかなり上機嫌になり矢継ぎ早に次の話をしてきた。

 予想に反しての倉敷の言動に自分は呆気にとられる。



「い……いや、知らない」

「実はですね、幽霊と私たちの間には少し次元のズレがあるんですよ。でも、写真撮影のときのフラッシュによってそのズレが強制的にほんの一瞬だけ合うんです。正に写真でピントを合わせるようにね。またその時、稀に私たち側があちらの次元にズレてしまうこともあるんです。そうなってしまった場合、私たちの体は歪みますがすぐに戻るので気付くことが無いでしょう。気付くとしたら写真を現像したその時です……。そうして心霊写真が出来上がるんです」

「へえ……」



 到底理解できない倉敷の話しに自分は聞き流すようにチューハイを一飲みする。と、不意に倉敷が少し哀しそう俯きに小さくため息を吐いた。



「ど、どうした?」



 落ち込みを見せる倉敷だが心配かけないように笑いながら首を横に振り、俯くその顔を上げた。



「いいえ、なんでもないです。ただ最近心霊の特番とか減ってしまったなあ、と思って……」

「確かに、そういえば見ないね。何か理由でもあるのかな?」

「それは多分……」



 倉敷は恨めしそうにテーブルに置いてある自身のスマホに視線を向けた。



「スマホが普及して、みんな写真をデータで保存するようになったからだと思います。また、昔みたいに撮った写真を現像してそれをじっくり眺めるなんてこと無くなって心霊写真そもそもが見つからなくなってきたのも原因の一つだと。……昔みたいに使い捨てカメラで撮ってフィルムを現像する、なんてことがあれば心霊写真は増えるかもしれませんけど、それはほぼ無いですね……」

「そりゃそうだろ! というか、カメラが優秀になってちゃんとした写真を撮るようになっただけだろ。心霊写真なんか元々ブレや現像の際の失敗で写真が歪んだだけで、本当は全部ただの変哲のない写真なんだからな!」



 (うれ)う倉敷に挑発的な声が降りかかった。

 その声の主は勿論(もちろん)――速水だった。

 あれからも飲み続け完全に酔っぱらってしまった速水は揺蕩(たゆた)う目を倉敷に向けながら今度は呆れ果てたように呟き始めた。



「はあ、心霊写真なんて馬鹿げたものを信じる奴の気持ちが全く理解できないわ。絶対全部偽物に決まってんのに……。なんであんなものを信じるのかね、なあ冴木」

「ちょっ……いきなりなんだよ。巻き込むなよ」



 急に飛んできた速水の言葉に飲んでいたチューハイを吹きそうになった。

 速水の言葉に当然倉敷は憤慨し、揺蕩う目をする速水をキッと睨む。



「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ! 嘘っぱちのCG映像ばっかの宇宙人やUFOなんか信じている速水先輩こそどうかしていますよ! ね、冴木先輩」

「……お前ら」



 白熱する二人のやり取りに巻き込まれ冷や冷やとする。染谷さんに助けを求めようと左側に視線を送るが、なんと染谷さんはソファにもたれ目を瞑っていた。悪い予感がし、耳を澄ましてみると「すう、すう」と寝息が聞こえてきた。どうやら三本目の途中で酔っぱらってしまい、いつの間にかダウンしてしまっていたようだ。

 唯一の頼みの綱が無くなり、このままではまたいつもの様に大ゲンカが始まると予感する。が、事は意外な方向に向かっていった。



「……宇宙人、UFO」



 酔っぱらう速水は〝UFO〟の言葉を聞いて、何かを思いだしたかのようにゆらりと立ち上がると、玄関側の廊下を見て呟く。



「そうだった……。今日は観測……しようと思ってたんだ」

「へ?」



 唐突な言葉に戸惑う倉敷。だがそんな倉敷をお構いなしに速水は自身の観測機材を置いてある客室に覚束ない足取りで向かって行ってしまった。

 全くもって予想もしなかった速水の行動に倉敷は口をあんぐりと開けたままその後ろ姿を見送った……。

 空きっぱなしのままの扉、それを見ながら倉敷は呟く。



「な、何なんですか……あれ?」

「さあ? とりあえず助かったわ」



 酔っぱらいの行動なんて例え未来を見通せる占い師がいたとしても予測はつかないだろう。しかしこれで速水と倉敷がケンカに巻き込まれずに済んだ。焦りでカラカラになった喉を潤すようにチューハイを流し込み、おつまみのピーナッツをパクリと食べて「ふう」と一息ついた。



「逃げたから今回は私の勝ち? ですよね……」



 いつもケンカしている倉敷もモヤモヤとしている様子で、開けっ放しの扉を見ながら何度も首を傾げる。

 自分はてきとうに答える。



「そうなんじゃない」

「そうですよね……」



 これ以上考えても仕方ないと倉敷は無理矢理納得するように頷いたが、結局その曇り顔は晴れなかった……。


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