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倉敷は怒りの感情を含んで静かに口を開く。
「黙って話を聞いていればなに馬鹿げたことを言っているんですか! 死んだら無、なんてことは絶対にありえません。そこには必ず魂があります」
倉敷は自身の胸をトントンと叩き、魂はあるんだと主張する。それを見て速水「ふっ」と小馬鹿にするように笑う。
「ねぇよ。いいか、魂なんてものは俺たち人間がどうしても解明できない意識っていうやつを、しょうがなく魂というあやふやな考え方にして納得しようとして出来たものなんだよ」
「違いますよ! 魂っていうのは私達人が元々持つ生命、精神のエネルギーの事を言うんですよ。だから決して意識という訳ではありません! 想像してみて下さい、やかんの中のお湯を抜いたときの湯気を。お湯を抜いた後そこにはまだ湯気がありますよね? それと同じで命というお湯を失った肉体には、エネルギー体である魂が湯気のようにしばらくそこに残留しているんです!」
「は?」
確証もへったくれもない、スピリチュアルな話を聞き速水は呆れを通り越して訳の分からなといった顔で固まってしまう。固まってしばらくして、速水は「ったく」と鬱陶しそうに呟くと大きくため息を吐いた。
「全く意味が分からん……」
「分からなくありませんよ」
文字通りソファの上から床に座る速水に対して、余裕の表情で上から物を言う。
「いいですか、もう一度言います。魂とは生命、精神のエネルギー体です。そしてそれは永久不滅、輪廻循環の中にあり決して消滅する事はありません。ですが、生きていくうえで常日頃摩耗はしていきます。そうやって摩耗し、魂と肉体を繋ぎとめることが出来なくなり解離してしまったそのときに人は死ぬんですよ。だけどそれはこちら側の死であって、向こう側の世界ではまだ完全なる死ではないんです。さっきも言った通り人が死んでも魂は肉体に一時的に滞在します。そしてその間に現世での未練を断ち切ることが出来れば魂は向こう側の世界に行く事が出来るんです。これが言わば成仏ですね。ですがもし断ち切ることができずそのままこちら側に残ってしまったら魂は彷徨うことになるんです。そう、その彷徨う魂こそ幽霊の正体なんですよ」
「あっ、そう……」
倉敷のとんでもない持論が展開する中、速水はもう反論するのも話しを聞くこと自体すらも面倒臭くなってしまったのか棒読みの返事をして倉敷から顔を背けると再びビールを飲み始めた。
勝ち誇ったよう顔をする倉敷、その横でずっと二人の話しを聞いていた自分は倉敷のとんでもない理論が不思議でたまらず思わず口から声がこぼれた。
「……エネルギーねぇ」
予想にもしなかった所から聞こえてきた不審の声に倉敷はバッとこちらを向いて不機嫌そうに顔を顰めた。
「何ですか? 冴木先輩も疑うんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ……。ただ倉敷が言うようにもし幽霊が生命や精神のエネルギー体だったらどうやってポルターガイストとか起こしているんだろうかなって……」
すると倉敷はなんだ、と余裕そうに笑みを浮かべその疑問に答えた。
「ああ、それは幽霊の感情が爆発してポルターガイストが起こるんですよ。さっき私は幽霊のことを現世での未練を断ち切れなかった魂、って言いましたよね。つまりはほとんどの魂が恨み、辛み、妬み、後悔などの負の感情を抱いて現世に留まっている訳ですよ。それらの負の感情はですね、愛や庇護といった正の感情よりもかなりの力が強く、だから守護霊ではなく悪霊といった類の幽霊がよくポルターガイストを起こすんです」
「なるほどね……。うん、なるほど。何となく分かった」
倉敷の話は一ミリたりとも理解しがたいけど、自分は理解した風に返事をした。何故ならそうしなければまた同じような話が来ると思ったのだ。てきとうに頷く自分はこれで一旦話題が変わるだろうと確信する。……が、この態度が予想とは裏目の結果となってしまう事となった。




