2-3
昇っていた太陽がようやく落ち、外は明かり一つない闇に包まれ二日目の夜を迎えた。
自分が作った夕食の生姜焼きはまずまずの評価で、もし次料理を作ることがあるのならば得意料理の一つのチンジャオロースを振る舞おう。と、そう考えながら食べ終わったみんなの皿を洗っていく。
「よしっ、終わった」
最後の皿を乾燥機に入れ終わったら、冷蔵庫から缶チューハイを二本取り出してとっととリビングに向かった。
そこでは染谷さんと速水が一足先にお酒とおつまみをテーブルに広げて酒盛りが始まっていた。まだ二十歳ではない倉敷はソフトドリンクで参加している。
「何の話をしているんですか?」
速水の隣のテレビの前で胡坐をかいてに座り、そのテレビの台座に背を預けながら自分は持って来た缶チューハイを開けた。
一人用のソファでお酒を持ちながら頬を紅潮させている染谷さんはこちらを振り向いて答える。
「ああ、じつは……」
「染谷先輩さっきから言っているだろ! 幽霊ってのは魂とかそういうものじゃなくて、幽霊ってのは生きている人間が見るただの願望、妄想だって!」
突如、速水が会話に割り込んできた……。いや、どうやら元々染谷さんは速水と会話中だったみたいだ。その所為で染谷さんの口から直接話題を聞くことはできなかったが、割り込んできた速水の言葉のおかげですぐに現在の話題を察することができた。
お酒を飲みつつ染谷さんは速水に向き直り、口を〝へ〟の字に曲げて悲しそうに言う。
「そんな事ないと思うけど……」
「普通に考えてみろ、死んだらそこに何が残る? どんな事象が起こる? 死んだら、そこに残るのはただの死体、ただの肉塊だろ。そこには魂なんてものはない! だから死んだら人間は無に還るだけだよ、無に……」
まるで倉敷に接しているかのように暴論を吐く速水に酔っているのではないかと思い、速水の前のテーブルを見てみると空になったお酒の缶が三本置かれていて、今飲んでいるのも含めて四本目に突入していた。
このスピードは二本目を飲んでいる染谷さんの倍のスピードだった。
「おいおい、飲み過ぎじゃないか?」
「馬鹿だな。まだまだこれからに決まってんだろ」
真っ赤な顔をした速水は楽しそうに笑いながら持っている缶ビールを見せつけるように掲げた。
四本ものお酒を飲んでいるのにも関わらず意識も滑舌もハッキリしている様子から速水はまだ酩酊状態には至っていないみたいだが、いつもより箍が外れた言動や先輩である染谷さんに対して尊大な態度をとってしまっていることから酩酊状態まであと一歩、いやあと半歩といったところだろう……。
そんなのんべえ過ぎる速水に自分は呆れてものも言えず、ただただ脱力してチューハイを一口飲もうと缶を口に近づけたその時、突然倉敷が速水に向かって声を荒らげた。
「ちょっと待ってください!」
「なんだ?」
笑っていた速水は途端に真剣な顔になって、二人用のソファの片隅に一人で座っている倉敷を睨んだ。
空気が一瞬張り詰めた――。
「…………はぁ」
自分は小さくため息を吐いた。
突如訪れた空気、おかげでチューハイが飲みにくくなってしまって自分はチューハイをゆっくりとテーブルに置くと右足を立て、そしてその右足に腕を置き、しばらくはこの二人の会話を静観する事に決めた。




