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午前11時過ぎ――。
一度全てのビデオカメラのSDカードを取り換え、全員でショッピングモールへ出かけた。次の取り替え時間までの5時間を考慮し、麓の町の一番大きいショッピングモールに向かった。スーパーや本屋、病院などの前を通り到着したそのショッピングモールはここ辺りで一番大きく見て回るには充分だった。
そこでまず約一時間それぞれ自由に過ごした。自分は雑貨店や本屋を巡り、暇つぶし用に数冊本を買った。そうして一時間経ったら集合し全員で食事をゆったりととり、その後食料品と必需品及び嗜好品を買うため二手に分かれた。
かごを手に持つ自分は後ろにいる倉敷に頼む。
「キャベツ半玉とトマト取って来てくれる?」
「いいですよ」
面倒くさがることなく、心地良く返事をした倉敷はせっせと野菜エリアへと消えていった――。
今現在、自分は倉敷と野菜エリアで今日の料理の材料を買い歩いていた。今日の夜ご飯の担当は自分だ。だから食料品は自分と、もう一人倉敷とで買いに行く事になったのだ。
「持ってきましたよ」
そう言って戻ってきた倉敷はキャベツ半玉とトマトをかごに遠慮なく入れると不思議そうに尋ねる。
「ところで何を作る気ですか?」
「豚の生姜焼きかな」
「豚の生姜焼きですか。なら、生姜もいりますね」
淡い青のロングスカートとふわりとした栗色の髪を揺らして、倉敷は自発的に生姜を取りに行った。
気が利く倉敷に感心しながら自分はスマホの生姜焼きのレシピを見て必要な材料を把握する。その間に買い物かごに生姜も入って次の材料を求めて再び歩く。
買い物かごを持つ自分。その一歩後ろで歩く倉敷はわざとらしく素っ気ない態度を取りながら聞いてきた。
「冴木先輩はどうして怪研に入ったんですか?」
「怪研に入った理由?」
自分は振り返ることなく、足を止めることなく答える。
「それは染谷さんに誘われたからだよ」
「そうなんですか!」
倉敷はぐるっと自分の前に回り込み、興味津々な顔を覗かせた。
「あ、ああ……」
思わず倉敷にその顔にたじろぎ足を止めた。が、すぐさま倉敷を避けて再び足を進め野菜エリアから鮮魚エリアに入った……。
後ろを歩く倉敷の気配を感じながら自分は一年生だった頃を思い返して語る。
「元々自分は怪研じゃなくて聞雑研――新聞雑誌合同研究会に入っていたんだよ。だけどまあ……そこで色々あってな」
「……そうですか」
諸事情を察した倉敷は声と共に歩幅を少しだけ小さくした。
鮮魚エリアから精肉エリアに入った。ここでは生姜焼きに一番重要な豚肉を買わなければならない。スマホの画面を見ながら必要な豚の部位を調べていると倉敷が先程の興味津々な態度とは裏腹にとても遠慮した態度で尋ねてきた。
「それでそこからどうやって染谷さんと?」
その質問に自分はスマホから視線を倉敷に移し、そして苦笑いして答えた。
「どうやっても何も……染谷さんは何の前触れも無く突然家にやってきたんだよ」
「えっ! 何の前触れも無く、ですか?」
「ああ、何の前触れもなくな」
当時の事を思い出し呆れながら話す。
「染谷さんはいきなり家に来て『怪研に入らない?』って言って来たんだよ。その時は本当に何言ってんだこの人って思ったよ。最初は勿論断ったけど、それでも何度も何度しつこく勧誘してきて、それで折れたんだよ」
「じゃあ怪研に進んで入ったじゃないんですね」
「まあ……それはな」
倉敷の言葉に神妙に返事をする。が、自分は笑みを浮かべ今が最高に楽しいと倉敷に伝える。
「だけど今は怪研にはいれたことに感謝しているよ。だから誘ってくれた染谷さんは恩人だよ、恩人」
「そうですか。それはよかったです」
倉敷もつられたように笑う倉敷。
自分はこれ以上なく染谷さんを褒めちぎる言葉にものすごく恥ずかしくなっていると、ふと倉敷が不思議な顔して首を傾げた。
「でも恩人の割には染谷さんの扱いが雑というかなんというか」
「色々あったんだよ。色々……」
恩人である染谷さんの扱いが雑になった理由は性格もあるが決してそれだけではない。去年の秋、シルバーウィークに行った九州怪談弾丸ツアーが染谷さんの扱いが雑になってしまった決定的な原因だ。この時、染谷さんの本性というか本領を自分は知ったのだ……。その本領を知らない方が身のためだと倉敷の為を思い、自分は倉敷の言葉を濁した。
ほどなくして豚の肩ロースを見つけた。必要な豚の肩ロース2枚入りを2パック買い物かごに入れて、最後にタレに使う調味料類を買い足すだけだと、思って再度レシピを確認しようとしたその時、画面に一通のラインが届いたことを報せた。
すぐにメールを開く。
『速水君と色々話してたら今日の夜に飲もうって話になったの。だからお酒を買ってきてくれない? あ、あとつまみもよろしくね~』
ラインはその恩人の染谷さんからだった。どうやら向こうは向こうでお酒の話で盛り上がっているようだ。
「…………」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
首を横に振ると、メールの内容を倉敷に見られないようスマホを伏せながら画面をレシピの画面に戻す。そして染谷さんにほとほとと呆れを感じながら、残りの必要な調味料類を覚えて、その調味料類と頼まれたお酒とつまみを買いに行った。




