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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
34/47

2-1


 8月2日――。


 今日の空は、昨日の雨が嘘だったかのように青々と晴れ渡っていた。



「よっしゃ!」



 誰よりも朝遅く起きてきた速水は窓から入ってくる陽光を浴びながら嬉しそうにガッツポーズをした。

 あまりの喜び様にリビングのソファでスマホをしていた倉敷は手を止めて目を丸くした。



「晴れたことがそんなに嬉しいんですか?」



 ケンカ相手である倉敷の声に速水は冷静さを取り戻すかのようにゆっくりとガッツポーズを下げ、一呼吸入れる。そうしていつもの冷静さを取り戻して振り返るが、その顔には隠しきれない笑みがこぼれていた。


「まあな。この天気だったら夜、外に出てUFOを探すことができるからな」

「そ、そうですか……」

「そういうことだから、顔を洗ってくるわ」



 ぽかんとする倉敷を余所に速水は笑みをこぼしたまま洗面台がある脱衣所へと歩いて行った。

 自分はコーヒーを一口飲み、ダイニングテーブルに置いてからゆっくりと口を開く。



「あんなテンションが高い速水を見るのは〈田代峠〉以来かな?」

「そうかも。あの時は終始速水君のテンションは高かったよね。まるでDVDを見る舞ちゃんみたいにウキウキしてたね」



 同じくリビングのソファの座る染谷さんも速水の異様なテンションに少し驚いていた。

 自分と染谷さんの会話を聞いていた倉敷はソファから顔を覗かせて質問する。



「すみません。〈田代峠〉って何ですか?」

「〈田代峠〉っていうのはUFOや妖怪で有名なオカルトスポットのことだったはずだよ」



 自分はコーヒーが入ったマグカップの暖かさを感じながら説明する。



「UFOも妖怪も見る事はできなかったけど、ウキウキする珍しい速水君が見る事ができたから私はすごく楽しかったな」



 そう言って染谷さんは思い出し笑いながら話しをしていたら、


 ガチャ!


 と、勢いよく脱衣所の扉が開いた。

 不愉快そうに眉を顰める速水は倉敷から自分、染谷さんと見渡すと怒ったように冷静に告げる。



「お前ら、全部聞こえてんだよ」

「あれっ……本当?」



 話しが聞こえていたことに染谷さんはしまったといった顔で今更ながら慌てて口を塞いだ。首を突っ込んできた倉敷も速水の登場に我関せずといったようにさりげなくスマホに視線を落とす……。

 そして自分はというと、とりあえず怒る速水に対して謝るしか他なかった。



「ごめんごめん」

「……はあ。ったく」



 速水は大きくため息を吐くと後ろを向いている倉敷に視線を移し、しょうがなさそうに、面倒臭そうに改めて〈田代峠〉の説明を始めた。



「いいか倉敷……〈田代峠〉っていう所はな、冴木の言う通りUFOが多数目撃されている場所で、そして昔自衛隊機が原因不明、理解不能の墜落をした場所でもあるんだ」

「……謎の墜落ですか?」



 スマホに視線を落としていた倉敷は速水の話に興味を持ったのか再びソファから顔を出した。

 その倉敷の顔を見て速水は頷く。



「ああ、そうだ。倉敷、普通飛行機が墜落した場合飛行機は粉々になるっているのは想像できるよな。だけど〈田代峠〉で墜落した自衛隊機は粉々になるどころか目立った外傷も無く、ほぼそのままの姿で墜落していたんだ。しかも周りの林に一切被害無くな……。こんなありえない出来事、UFOが関係している以外ありえないだろ」



 速水の口は段々と饒舌(じょうぜつ)になる。



「しかもUFOが関わっている可能性を示唆(しさ)する手記だってある。それには『緑色のガスに包まれいつの間にか辿り着いた洞窟で墜落した自衛隊機の一部のプレートを発見した』『緑色の光線を浴びて気を失い、いつの間にかその洞窟から出ていた』と書いてあった。また数年後、その話の真偽を確かめに雑誌記者が取材に来た時に同じような体験をし、洞窟内で自衛隊機のプレートを発見したと言っていた。さらにそこで銀の円盤を見たともな……。その二人は洞窟を見た後すぐ亡くなっているから、その話の真偽は分からなくなってしまったが、目撃者が二人もいること、さらに内容がほぼ一致している事から俺はこの話の信憑性は高いと思っている」

「ふ~ん。そんな所があるんですね……」



 全てを言い終え愉悦に浸る速水。しかしそれを倉敷は呆れたような目で見ていた。どうやら速水の話しが長すぎたようですっかりと聞き疲れてしまったようだった。思いのほか反応が良く無かった事に速水は不満そうな顔をしてキッチンへ歩いていった。


 倉敷も再び視線をスマホに落とし静かな時間が訪れる……。


 ニュースキャスターの淡々とした声が流れるリビング、それをBGMにしながら自分は冷たくなったコーヒーを飲んでいると、隣にいる染谷さんが突然全員に向かって質問をする。



「……みんな今日どうする?」

「どうする、って」



 あまりにも漠然とした質問に自分は眉を顰めた。



「幽霊が現れるのをここで待つしかないんじゃないんですか?」

「それはそうなんだけどさ」



 染谷さんは自身の心内を吐露(とろ)するように言葉を並べていく。



「別荘から出ないでずっとここにいるのも気が滅入るでしょ……。だから折角晴れたんだから、どこかにみんなで行きたいなと……」

「そういう事ですか」



 染谷さんの意見は別荘で幽霊を捉えるという点であまり良くはないだろう。だが何もせずじっと別荘で過ごすと気が滅入るのも確か。昨日自分一人、何もせず過ごし実際に気が滅入ったので実証済みだ……。

 ならば外に出るか出ないかと言われたら、それは断然外に出る方に意見だった。



「じゃあ、何をしますか?」



 良い返事を聞けた染谷さんは顔を明るくさせた。



「そうだね。どこ行こうか?」



 そうして染谷さんと二人でどこに行くかあれこれ意見を出し合っていると倉敷が話しに割って入ってきて、その答えを簡単に告げた。



「ショッピングモールでショッピングなんてどうですかね?」

「ショッピング! いいね、それ。それだったら録画時間の5時間の間に帰ってくることができるし、何より今日の夜ご飯の材料も買えるね」



 倉敷の答えに染谷さんは即決する。



「冴木君、今日はショッピングでいいね」

「いいですよ」



 昨日からずっとこの別荘にいる自分としては良い気分転換になるだろう。

 染谷さんは視線をキッチンからダイニングに戻ってきた速水に向ける。



「速水君もいい?」



 話に一回も入ってなかった速水だがどうやらショッピングでいいらしく牛乳パック片手に、もう片方の手でグラスを傾け牛乳を飲む速水は小さく頷いていた。



「よしっ、じゃあ今日はショッピングに行こうね。行く時間は次のSDカードの交換時間を考えて……今から三時間後の11時ね!」



 染谷さんの弾んだ声がリビングに響いた。


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