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買い物に行っていた染谷さんと倉敷が帰って、そして夜になった――。
染谷さんと倉敷は買って来た材料で一緒に料理を作り、速水と自分はリビングでビデオカメラの映像データを外付けのHDDへ送信していた。
「速水これはどうするんだ?」
「これはこうするんだよ」
こういった作業はあまり得意ではないので速水の指示に従いマウスを動かす。
「よしっ、これでOKだな。一つ終わった」
「それを移し終わったらそれをあと五回だ」
隣から聞こえてきた速水の言葉に、テーブルに乱雑に置かれている残り五枚のSDカードを見る。
「あと五回か……」
これらは夕方、ビデオカメラの録画時間の問題で回収したSDカードで全部に約五時間ずつ、計三十時間もの録画映像が入っている。このSDカードを再使用する為には、全ての録画映像を全部HDDに必ず移す必要がある。ビデオカメラで撮影する為にはとても大事な作業なのだが、如何せんそのデータ移行の作業に時間が掛かってしまっていた。
「面倒だな……」
「ああ、面倒だな」
億劫そうに言いながらもさっきからテレビをずっと見て、指示しか出していない速水に物申す。
「お前はそこまで面倒じゃないだろう」
「ばれたか。だがずっと家の中に居るのが嫌なんだよ」
今もなお雨は降り続いていた。昼よりかは雨も弱まったが、外の暗い森の中ではパチパチと葉に雨粒が当たる音や、その雨粒が地面の水溜りに落ちてぴちゃぴちゃと様々な音を響かせていた。
ただただ後ろで指示を出しているだけの速水は悪びれもせずに喋る。
「あ~退屈で死にそうだ。早く雨がやまねぇかな。そしたら外で夜空でも見てUFOでも探せるんだが……」
「明日晴れるみたいだからその時、充分に見ればいいだろ」
速水の態度に呆れると再びパソコンに目を向ける。
「そりゃそうだが今日UFOが現れるかもしれないだろ」
「それは諦めろ」
「はあ……しょうがねぇか」
淡々と突き放して自分は黙々と作業を続けた。
夜もより一層深まり、カーテンから覗く暗闇はとても暗くなっていた。普段見ることのない外の真っ暗闇の光景にここが山の中だと実感させられる。と同時に、まるで現世から隔絶された幽世にいるようだとも錯覚させられた。
作業も程なく終わりそうになった頃、染谷さんから「こっちに来て」と声が掛かった。その声に速水と共に振り返ると、ダイニングテーブルにはこれから食べる晩ご飯が並べられているのが見えた。
作業は終わっていないが一旦一区切りつけてダイニングに行くと、テーブルには染谷さんが作ったトマトの冷製パスタが置かれていた。みんなが待つ中、最後に席に着くと染谷さんは手を合わせて「いただきます」と呟いた。それに倣って他の全員も「いただきます」をしたら、染谷さんの手料理を口に運んだ。
サッパリとした味のパスタに舌鼓を打ちつつ今日のあった出来事の話をする。
「今日過ごしてみてどうだった?」
染谷さんの言葉に速水は呆れたように首を横に振る。
「なんにもありません。というかあるはずないですよ。やっぱり噂はただの噂にすぎないんですよ」
「そ、そんな事……ないかもしれないじゃないですか。まだ……一日目だし……」
倉敷は速水の言葉を聞き反論するがその声はいつもより小さく、そして歯切れが悪かった。その理由は明白で、速水の言葉を反論するという事はこの別荘に幽霊が〝いる〟と肯定してしまうことで、怖がりの倉敷にとってそれは最悪な事だからだろう。
いつもより勢いがない倉敷に速水は勝ち誇ったように悪い笑みをこぼす。
「怖いのか? 怖いんだったら幽霊の存在を否定してみたらどうだ? そしたら恐怖心なんか無くなって楽しい合宿が送れるぞ」
「い、嫌です。私は絶対に否定なんてしませんよ」
「ちぇっ。やっぱりそうか」
まるでコントをしているかのようなやり取りに染谷さんは呆れながら、こちらに話しを振ってくる。
「で、冴木君は今日何も無かったの?」
「そうですね……」
不思議な事があったといえばある。それはビデオカメラが何の前触れも無く勝手に倒れた事だ。しかしあれは三脚のネジの絞まりがゆるかったからということで自分の中では一応の決着はついている……。
一瞬、その出来事を言おうかと迷ったが、結局染谷さんにその出来事を言うことなく首を横に振ることにした。
「特に何も無かったですね」
「そっか~、何も無かったのか~」
それを聞いた染谷さんは残念そうに、しかしどこかその答えを予想していたように肩を小さく落とした。
「何も無かったんですね。よかった……」
自分と染谷さんの会話を横で聞いてホッとする倉敷に、染谷さんはムッと一言。
「よくないよ。撮影できなきゃ怪研は解散だよ」
「それは分かってますけど……」
解散の危機を理解できても、どうしても幽霊への恐怖で本能が拒絶してしまう。そんな倉敷はとても複雑な表情をしていた。
パスタを巻きながら染谷さんは倉敷から視線をこちらに戻し会話を続ける。
「いつ幽霊が出るんだろうね?」
「そんなの分かりませんよ」
突然の、しかも答えが全く見えない質問に自分はつい〝分からない〟と答えた。すると染谷さんは眉をハの字のように曲げて悲しそうな顔をした。……どうやら染谷さんは希望となる答えが欲しいかったみたいだ。いつも明るい染谷さんが悲しい顔をしているのが嫌で、自分はしょうがなく染谷さんが待ち望む答えを言うことにした。
「……もしかしたら、明日にでも出るんじゃないんですか?」
「そうかな。そうだったらいいね」
それを聞いて染谷さんはニカッと楽しそうに笑った。
どれだけ幽霊に遭いたいの……と、そんな染谷さんに呆れながら自分はフォークにパスタを絡めてパクっと頬張った――。




