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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
31/47

1-7


 億劫(おっくう)だった荷運びもようやく終わり、リビングのテーブル横に置かれていた荷物は綺麗さっぱり無くなった。



「やっと終わった……」

「お疲れです」



 この別荘に来てから初めてソファに座って疲れた体を休ませる。と、一足先に隣で休んでいた倉敷が話しかけてきた。



「ああ、倉敷もお疲れ。……それにしても慣れないよな、あれ」

「そうですね……」



 倉敷と共に向ける視線の先――その雑貨棚の前にはこちらの様子を撮影しているビデオカメラがあった。ジッと動かず、瞬き一つしないビデオカメラに撮られるのはさながら、牢獄で看守に見張られているようなそんな気分だった。



「確かにずっと撮られているのは気分の良いものじゃないですね」



 そう言って倉敷は雑貨棚前のビデオカメラのレンズから逃げるように体ごと視線をこちらに向けた。



「ところで冴木先輩、この別荘はどうですか?」

「ん? どういう意味?」



 突然の倉敷の質問はあまり要領を得られず聞き返す。すると倉敷はハッキリ口に出したくないのか言い難そうに質問を言い換える。



「えっと……つまりこの別荘に来てから幽霊の気配とか、何かあそこは嫌だなって思うような場所はありましたかっていう事なんですけど……」

「ああ、そういうこと。幽霊の気配、嫌な場所ねぇ……」



 ここに来てから今に至るまでの自分の感覚を思い返してみた。しかし幽霊の気配など微塵も感じたことは無い。また嫌だな、不気味だなと思ったのも最初だけで後は何も感じない……。

 真剣に見つめる倉敷に首を振ってみせる。



「そんなものは無かったな」

「そうですか……」



 それを聞いた倉敷の口からはホッと安堵したような声が出た。しかし、その安堵した感じとは裏腹に倉敷はどこか残念そうだった。幽霊を絶対に会いたくないけど信じている、決して見たくないけど速水に信じさせたい。そんな葛藤が今の倉敷の中で渦巻いているのだろう……。



「冴木君、そこは何か感じていないと困るよ~」

「無茶言わないでくださいよ。自分には霊感なんて無いんですから」



 後ろのダイニングの方から冗談交じりの声。自分はすぐに振り向いてその声の主――染谷さんに反発する。

 2リットル入りのお茶と四つのグラスを丸盆(まるぼん)に乗せ、こちらに来る染谷さんはその言葉に面白おかしく微笑む。



「ごめんごめん」



 染谷さんはそう言ってそのまま一人掛けのソファに腰かけると、丸盆をテーブルに置いた。



「お茶飲む?」

「え? ……ええ、お願いします」



 突然の染谷さんの言葉に少し呆気にとられるも、軽く頭を下げてお茶をお願いした。

 そうしてみんなの分のお茶を注ぎ始めた染谷さん。次々と注いでいき、四つ目のグラスに差し掛かったところで染谷さんは口を開いた。



「……話変わるけど、誰か私と一緒に買い物に行く人はいるかな?」

「買い物ですか?」



 お茶を注ぎ終わった染谷さんから自分のグラスを受け取る。



「ほら言ったでしょ、夜ご飯のこと」

「夜は手作りにしようってやつですね」



 今朝ファミレス出る前に染谷さんから聞いた夜ご飯事情。それは毎回の夜ご飯を四人の内の一人が決め、作っていくというものだ。それなりの手間はかかるだろうが、それぞれの個性ある料理が食べられるという事なので、この別荘で過ごす合間の楽しみの一つでもあった。



「うん。今日は私が作るけど四人分の食材を一人で持つのはきついから誰かついて来てほしいんだけど……」

「そっ、それ私が行きます!」



 染谷さんの話にお茶を飲んでいた途中の倉敷は慌てて傾けていたグラスを元に戻して手を上げた。



「あ、舞ちゃんが来てくれる?」

「はい」



 染谷さんの言葉に倉敷は大きく頷いた。やはり倉敷は少しの間でもこの別荘から離れ、幽霊が出るかもしれない恐怖から逃れておきたいのだろう。

 他に手を上げる者もおらず倉敷の同行が必然的に決まり、染谷さんは一口お茶を飲んでから倉敷に告げる。



「それじゃあお昼ごはん食べて、少し休憩してから行こうか」

「分かりました」



 倉敷は安心するように肩の力をスッと抜き、小さく「よかった」と呟いた。


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