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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
30/47

1-6


 ――部屋は思っている以上に広かった。奥行きも程々にありながら、特に横幅が一階の和室と廊下とトイレ分もあるのでリビングとダイニングを合わせた広さとあまり遜色は感じられなかった。


 部屋に足を踏み入れた自分は右側――丁度和室の上にあたるこの部屋の一番広い場所を見てみる。するとそこには二つのベッドが横並びで置かれていた。そしてさらにベッドの間にはそれぞれが使える大きめのサイドテーブルもあった。

 部屋の右側の確認ができた自分は、今度はその逆側を確認する為に体ごとゆっくりと左へ動かしていく。バルコニーにつながる窓を視認し――木製のドレッサー、腰高の窓、そして最後にクローゼットを確認した。


 ざあざあと降る雨の音の中、自分は持っているビデオカメラと三脚のセットを置いて腕を組んだ。



「さて、どうしようか……」



 染谷さんからは〝てきとうに〟と言われたが、自分の性格上てきとうに置くことは許されない。できる事ならばちゃんとプライバシー面に配慮しつつ、幽霊が出そうな所に設置して憂いなく一階に下りたいところだ。

 部屋を見渡しながらその二つの条件に該当する場所を考え、そして自分はある場所へと歩き出した。



「とりあえずこっちはないだろう」



 そこはベッドが置いてある場所だった。

 

 先程の染谷さんと倉敷がリビングの全域を映るように設置していた事から自分も部屋の四隅のどこかに設置する事は決めていたが、もし左側に設置するとベッドが映り染谷さんと倉敷の寝姿が晒されてしまう。


 それだとプライバシーの欠片も無いだろう。


 ビデオカメラを設置するとしたらベッドがある方のバルコニー側か廊下側、自分はすぐにこの二択しかないだろうと思った。



「どっちかな……」



 自分はそれぞれのベッドの端に行ったり来たりして、ビデオカメラを設置した時の写角がどうなるか考える。



「う~ん……こっちだな」



 色々考えた挙句、自分はビデオカメラを設置する場所をバルコニー側に決めた。その決め手となった点はまずプライバシー面でドレッサーが死角になる場所だから、そしてもう一つは扉、クローゼット、窓が映る場所だったからだ。

 その二つの中でも特にこの扉、クローゼット、窓は重要だ。何故なら以前倉敷が『扉を隔てた向こう側や、鏡の向こう側はまれに異界に繋がっていることもある』と話していた事があり、心霊現象を撮るには扉とクローゼットと鏡となる窓は画面に入れておいた方がいいと思ったからだ。


 この部屋のビデオカメラの設置場所を決めたら自分は早速作業に取り掛かる。


 部屋の真ん中にそのまま置いておいたビデオカメラと三脚を持ってくると、三脚の脚を伸ばしビデオカメラを固定する。次にビデオカメラに充電器を繋いだら、写角を整えそして最後に録画ボタンを押す。



「よしっ」



 とりあえず設置完了、あとはこの場所が気に入らなかったら染谷さんと倉敷が勝手に移動するだろう。

 自分はまだ残るビデオカメラと三脚を持って次の場所――螺旋階段を上がってすぐのホールへと向かった。


 ここの写角はすぐに決まった。


 それは速水が歩いて行った廊下だった。


 レンズをそこへ向けてホールの隅に、三脚のネジをしっかり締め、先ほどよりも手早くビデオカメラを設置して録画ボタンを押した。「ふう」と、ようやくの終わりに自分は一息吐き、空になったビデオカメラのバッグと三脚の袋を持ちながら背伸び――そして螺旋階段を下りていった。



 空のバックを持ちながら、先ほどまで荷物が置いてあったリビングのテーブル横に戻ってくると荷物が先程より減っていた。段ボールやらビデオカメラのバッグやら荷物はどこに行ったのだろうと不思議に思っていたら、染谷さんが面倒臭そうな表情をした速水を引きつれながら客室の方からやってきた。



「あ、冴木君も終わった?」



 後ろの速水の表情に何か嫌な予感がする……。



「はい、一応……」



 自分はおずおずと返事をすると染谷さんはニコッと笑い、そこに置いてあった染谷さんのベージュのキャリーバッグを指差して告げる。



「じゃあ、次はここにある私たちの荷物を各部屋に持っていって」

「えぇ……」



 予感は的中した。


 今さっき二階から一階に戻ってきたばかりなのに、なんで二階に逆戻りしなければならないか……。問答無用で「はい」と染谷さんからキャリーバックを手渡されながら、自分は面倒くさそうな声を洩らした。



「あ、そうそう。そうだ」



 染谷さんは思い出したように、自分が持っていたビデオカメラの空バッグを半ば強引に受け取った。



「冴木君の持っているこれは私が客室に置いておくね。それじゃあ荷物の方よろしくね」

「はい……」



 染谷さんなりの気遣いだったのだろうが、自分は今からまた二階に戻らなければならない事実にかなり滅入っていた……。


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