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「みんなくつろぎたいところ悪いんだけど、早速カメラを仕掛けるよ」
「えっ、もう?」
二人用ソファでだらけていた速水は面倒臭そうに顔を上げた。
「そう、もうだよ。だっていつ何が起きるか分からないんだからね」
「……了解」
幽霊なんて信じていない速水はビデオカメラを設置する事に嫌々そうだが、先輩の命令だからと渋々ソファから立ち上がった。
染谷さんは振り返り、自分と倉敷を見る。
「冴木君も舞ちゃんもいいかな?」
「はい、別にいいですよ」
「私もいいですけど……」
ここは染谷さんの言い分が正しいので自分は快く承諾する。
倉敷も特に嫌がることなく頷く。が、その顔には少しだけ不安が混じっていた。その様子にすぐに気付いた染谷さんは倉敷に話しかける。
「舞ちゃんどうしたの?」
「あの……そのカメラを仕掛けるのですけど……できれば誰かと一緒に作業をしたいなぁ……」
「ああ、そっか。舞ちゃん一人はダメだったね」
「は、はい……」
染谷さんは思い出したように声を上げた。
倉敷はこの場の誰よりも幽霊を信じているからこそ、この場の誰よりも幽霊に対し恐怖心を抱いてしまう……。
染谷さんはそんな倉敷の恐怖を和らげるよう肩にそっと手を置き、優しく言う。
「それじゃあ舞ちゃんは私と一緒に設置しようか」
「あ、ありがとうございます」
その言葉を聞いた倉敷は安堵し、恐怖に染まっていた顔を明るくさせた。
染谷さんは〝私がいるから大丈夫〟と、ぽんぽんと倉敷の肩を二、三度叩くと、自分と速水の方を振り向き告げる。
「という訳だから、私と舞ちゃんは一階の各部屋にビデオカメラを設置するね。だから二人は二階の方をお願いね」
「はあ……。いいですけど……」
自分は倉敷と比べてなんともぞんざいな頼み方だなと思った。
多少の戸惑いを感じつつ設置の際の注意点――特に女性部屋のビデオカメラの設置について尋ねる。
「二人が使う部屋のビデオカメラはどうすればいいんですか? まだどちらの部屋を使うか決めていないですけど、てきとうに置いても気分悪いでしょうし」
「ああ、そうか。そうだね……」
特に何も考えていなかったのか染谷さんは腕を組み、そしておもむろに二階右側の部屋を指差す。
「じゃあ私たちの部屋はバルコニー側でいいよ。それでビデオカメラの方はとりあえず組み立てて設置しておいて。もし、そこが不愉快に感じたら私たちが後で勝手に設置し直すから」
「分かりました」
「冴木君……センスのいい場所に置いてね」
「センス、ですか……」
染谷さんは簡単に〝センス〟と言ったが、それはあらゆる面で置く場所を考えなければならない何とも難しい言葉だった。先程の頼み方にも垣間見えたがほとほと染谷さんはいい加減だと思いながら自分はぼさぼさの髪を掻き上げ、頭を抱えた。
「ま、まあてきとうに出そうだなって思ったところに置けばいいんだよ。だからさっきの言葉は気にしないで」
そんな困っている自分の様子を見てか染谷さんはどれだけ無茶な事を言ったのか自覚し改めて言い直すと、後方にあるビデオカメラの入ったケースと三脚の入ったバッグをそれぞれ三つずつ、計3セットを押し付けるように渡してきた。
「はい、二階の方お願いね」
「え、ちょっと……まっ」
「じゃあね」
自分の言葉など意に介することなく染谷さんは倉敷を連れて逃げる様に一緒に客室へと行ってしまった。
染谷さんが出て行った廊下への扉を見つめながら自分はしみじみと思う。
具体的な指定もなかったし、結局プライバシー面も考えなければならないから言っていること変わらないのでは、と……。
立ち尽くしたまま自分はゆっくりと首を傾げた。
「幽霊が出そうな所って、どこだ?」




