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ビデオカメラが入ったバッグを両肩と、右手に持つ。これが荷台に入っていた最後の荷物だ。先ほどより少し強くなってきた雨の中、自分は素早く車の荷台を閉めて小走りで玄関まで向かう。雨でビデオカメラが壊れないように手で持っているビデオカメラは抱え、空から降ってくる冷たい水の感触が消え去ったら自分は顔を上げた。
「荷物はこれで全部ですよ」
「ありがとう。それじゃあ入ろうか」
全ての荷物を運び終えた事を知った染谷さんは荷物を持つ自分の代わりにバルコニー下の玄関のドアを開けて、そして染谷さんと共に紅葉荘に入っていった。
淡い黄白色の材木で造られた廊下からは湿り気を持ったような独特の木のにおいがしてきた。
無機質なコンクリートマンション暮らしの自分はまず嗅がないにおいに少し驚きながらも、この廊下の先がどうなっているのだろうと好奇心が湧いてきた。さっきまで抱いていた恐怖心もいつの間にか消え去り、なんの躊躇いもなく染谷さんの後に続く。
納戸とトイレと客室のドアを通り過ぎ、廊下の一番奥のリビングの扉を抜けた。
「おお、すごい」
リビングで真っ先に目に入ったものに思わず驚嘆の声を洩らした。それはリビングとダイニングの丁度中間にある木造の螺旋階段だった。螺旋階段はかなり拘っているのか小柱の一本一本がまるで砂時計みたいな形をしていて圧倒的な存在感を放っていた。
その華麗な螺旋階段に目を奪われつつ、手に持っていた荷物をリビングのテーブル横にまとめられて置かれている場所に下ろした。そうして肩が軽くなったら「ふう」と一息ついて改めて部屋を見渡した。
まず目の前に入ったのはリビングだった。
廊下と同じように木の雰囲気が感じられる広いリビングで膝丈ぐらいの木のテーブル、暖かみのあるベージュの二人掛けのソファ、そしてもう一ついかにも一家の大黒柱が座るような立派な一人用のソファが窓側に置いてあった。
視線をさらに動かすと角に雑貨棚が置いてあるのが見えた。そこには適当に本や絵が並べられていた。雑貨棚の横にはテレビ台とお金持ちが持っているような大型テレビ、そして――。
「へぇ、こんなものがあったんだ!」
テレビ台の横で物珍しいものを見つけた。それは猫足の薪ストーブだった。
この部屋に入って真横にあったみたいだが、目の前の螺旋階段に目を取られて気付かなかったみたいだ。でもそういえば確かに外から煙突が見えていた気がする……。
ちょこんと置いてあるその薪ストーブから無骨な煙突が天井まで伸びていて、それが妙なアンバランスさで不思議と可愛らしかった。
普段お目にかかれない薪ストーブにテンションが上がり、蓋を開けて中を覗いてみたり火掻き棒を持ってみたりするが、今は夏だ。絶対に使う事はない薪ストーブを少し残念に思いながら火掻き棒を元に戻すと視線をリビングから、螺旋階段、そしてさらに奥のダイニングの方へと向けた。
食事を取るのに打ってつけの四人掛けのダイニングテーブル、そこにはブラウンのペイズリー柄の絨毯が敷かれていた。テーブルとログハウスの木の雰囲気とブラウンのペイズリー柄の絨毯はとても似合って食事の時に華を添えてくれそうだ。
そんなダイニングの隣にはどうやらキッチンがあるようだ。ここからじゃ全貌は見えないが結構大きめの冷蔵庫がこのリビングからは見えるので、それを考えたら充分に大きいキッチンがあると予想できた。
十分な広さ、そして満足できそうな空間に、これからの楽しいひと時を想像していたら突然染谷さんの声が掛かった。




