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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第二章 紅葉荘
26/47

1-2



 雨の中を進んで行くこと数十分――。



 窓の外の景色が変わった。


 先ほどまで忙しなく車が行き交っていた街並みは、ひっそりと木々が生える自然豊かな場所になった。しとしと雨に濡れしっとりとする自然は――葉や苔などの緑色を、幹や枝などの茶色を、土や石などの黒色を濃厚にさせ、妖しくもとても美しかった。


 心惹かれながら窓の外のその自然を眺めていると木々や青草が深くなっていった。


 どうやら山に入ったみたいだ。


 手を伸ばせば枝葉に届きそうな距離のその道をしばらく進んで行くと、舗装されていた道から外れ車は獣道と呼んでも過言ではないほど青草が鬱葱(うっそう)と生えている道に入っていった。そこが道路と分かるのはかろうじて(わだち)があるぐらいだった……。



「この先ですか?」



 獣道のような道路に入り、さすがの速水も不安になっていた。



「うん……。どうやらこの先らしいよ」



 鍵を受け取った際、同時にもらった別荘までの地図とカーナビを頼りにここまで来た染谷さんもさすがに半信半疑みたいだ。


 クリスタルのようなキラキラと輝く小さな(しずく)を青葉に垂らす木々、その雫が落ちて周りの草花はカサカサと音を立てながら上下に揺れる……。それはまるで〈紅葉荘〉へと馬鹿な奴らが向かって行く、と山自体がせせら笑っているようだった。


 車は不安さ、不気味さを抱えながら轍の上をなぞってゆっくりと走る。泥を跳ね、リアフェンダーを黒茶色に汚しながらも止まることのなく進むと今までの窮屈で鬱葱としていた道から抜け出した。



 そこは今までの窮屈で鬱葱としていた道の先にあるとは思いもよらない、大きく(ひら)けた場所だった。広く、とても綺麗に整地された場所。その拓けた場所の真ん中に、まるで現世から隔離されたかのように異様な雰囲気を放ちながら(たたず)むログハウスがあった。


 そのログハウスこそが目的地の〈紅葉荘〉だった。


 目的地についた染谷さんはホッとして安堵の声を出す。



「よかった……」

「結構立派ですね」



 近づくにつれて前方の車窓を大きくはみ出す〈紅葉荘〉を、染谷さんの座席を掴んで覗いていた倉敷は唖然と口を開いていた。



「うん、そうだね」



 運転している染谷さんはそれに適当に返事をして、ミニバンを〈紅葉荘〉の前の広場に止めた。



「ふう……。よしっ、みんなお疲れ。無事に着いたよ」



 染谷さんはずっと握っていたハンドルを離すと、振り向きながらシートベルトを解除する。それに倣うように速水、倉敷、自分もシートベルトを解除すると一斉に車の外へと出ていった。


 ――ベチャ。


 約二時間ぶりに地面に足を着ける。



「やっと着いた~」



 まだしとしとと雨が降っているのもお構いなしに自分はグッと大きく背を伸ばす。窮屈に縮こまっていた背や腰が再び大きく動けるようになり、陰鬱だった気分は一気に吹き飛ぶ。



「ふうぅ」



 開放感を十分に味わったら一旦、伸ばしていた背を元に戻して大きく息を吐くと眼前を見据えた。



「ここが〈紅葉荘〉か……」



 倉敷の言っていた通り北欧風の二階建てのログハウスだった。どこかノスタルジックを感じるそれは周りの自然と馴染むように淡黄褐色(たんこうかっしょく)のとても温かみのある材木で作られていた。大きな特徴があるとすれば二階からせり出すように作られている大きなバルコニーと、一階のバーベキューが出来るぐらいの大きなウッドデッキ。そして屋根を突き出ている黒く細い煙突だろう。



「いい所だな」



 ログハウスという普段あまり見ることが出来ない建物に少し舞い上がり一瞬何をしに来たか忘れてしまう。が、ふいに視界の隅に見えたドアの十字格子の窓――その吸い込まれそうな真っ暗闇に、すぐに何をしにここに来たのか思い出した。



「そうだった……」

「冴木君~」



 後方から染谷さんの声がした。振り返ると染谷さんは荷台の方から顔を出し、ちょいちょいと手招きをしていた。



「こっちに来て」



 どうやら今から荷卸しを始めるみたいだ。



「分かりました。すぐに行きます」



 自分はそう返事をして染谷さんの元に向かおうとする。その際ふと先ほどのドアが気になり目を向けると、十字格子の向こうは変わらず全てを呑み込んでしまいそうな真っ暗闇が広がっていた――。


 幽霊がいると聞いたからか分からないが真っ暗闇の向こうから誰かかがこちらを覗いているようなそんな気がした……。



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