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注文してから暫くして――。
最後の速水のカツカレーが来て、これで全ての品がテーブルに並べられた。到着した順に好き勝手に食事をしていた自分たちは、速水もようやく食事を口にできると申し訳なさから解放されてほっとした。
速水がそのカツカレーを一口、二口、食べ胃に入れた所で、今まで黙々と食べていた自分は遠慮なくこれから行く〈紅葉荘〉がどういう所なのか目の前の二人に尋ねてみることにした。
「それで結局、〈紅葉荘〉ってどういうところなの? 倉敷に聞いた限りじゃあ幽霊が出る、ポルターガイストとラップ音が起こるとしか知らないんだけど……」
「あ~、そうだね。そういえば私もあんまり詳しいこと知らないや。そこの所どうなの舞ちゃん?」
朝食セットBのコーンスープをスプーンで一口飲んで、染谷さんは隣にいる倉敷を振り向いた。
パンケーキにクリームを乗せていた倉敷は、その手を止めて驚きの表情を見せた。
「二人とも、今から行く場所を調べてこなかったんですか?」
「うん、まあ」
丁度、朝食セットAの焼鮭を口に入れていた自分は喋ることが出来なかったので軽く頭を下げて〝ごめんね〟と平謝りをした。
「まあ……じゃ、ないですよ。染谷先輩、冴木先輩……」
その二人の様子を見て倉敷は呆れるようにため息を漏らすと、クリームいっぱいのパンケーキを口に入れる。そして食べながら倉敷はそのため息を解消したら、再度吐息をつきながら倉敷は口を開いた。
「分かりました。二人に教えてあげますよ」
「ありがとう」
染谷さんの言葉に倉敷はウンザリしながらも〈紅葉荘〉の説明を始めた。
「〈紅葉荘〉は借り別荘として二、三年前から貸し出されているそうですよ。外観は北欧風の二階建てのログハウス、そして俗世から離れた山の中にあるという事でとても居心地が良いと評判です。ですが、その評判と同時にある噂が絶えないそうです。その噂が『幽霊が出る』ということみたいです。パソコンで色々調べてみたんですが泊まった人は口々に『視線を感じた』や『物が勝手に動いた』などの心霊現象が起こったと言っていたみたいなので私は信憑性が高いかと思います」
「いや……信憑性ゼロだろ……」
カレーをかき込み、ようやく元気が出てきたのかここでいつもの様に速水が横やりを入れる。それに対して倉敷は一瞬、ムッとしたが無視して話を続ける。
「また心霊とかそういった界隈の掲示板で調べてもみたんですけど、どうやら噂では〈紅葉荘〉が建てられる以前にそこには別の別荘が建てられていたそうで、その別荘は夏の夜に火事で燃えてしまったそうです。それで一家全員が死亡……今も彷徨うその幽霊は失った家族を探して徘徊しているとかなんとか……」
「そ、そうなんだ……」
聞いておいて何だが、倉敷の重たく悲しいに思わず身を引いてしまった。隣にいる速水は「そんなの作り話だ」と鼻で笑っていたが、自分にはその話が妙にリアルに思えてならなかったのだ。
今更ながら後悔して口を開く。
「じゃあ結構ヤバめの所を選んじゃったんだね……」
「冴木先輩、気付きましたか」
そのヤバさを少しは認知してもらえた倉敷は染谷さんを振り向き大袈裟に身振り手振りして必死に伝える。
「染谷先輩、幽霊が出る所って言うのは大概そういうヤバいところなんですよ。だから今からでも帰りません?」
しかしその意見はトーストを片手に持つ染谷さんに一蹴された。
「さすがに無理だよ。ここまで来たんだから」
「……ですよね。はぁ」
意見を跳ね除けられため息を吐きながらガックリと肩を落とす倉敷は自身を元気づけるように甘い甘いクリームいっぱいのパンケーキを勢いよく頬張った――。




