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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第一章 怪奇現象研究サークル
22/47

5-3


 車が走り始めて一時間が経った――。


 少なかった車も徐々に増え始め、ようやく眠っていた人々が本格的に動き始める時間帯になってきた。行き交う車に乗っている人、歩道を歩く人たちはこの夏休み何をするのだろうか? もしかして海外旅行にでも行くのだろうか? と、意味もなく他人(ひと)の未来を気にしながら雲行きが怪しくなってきた外を眺めていると、前の座席から火山が噴火してしまう前兆のようなとてつもなく大きな音が鳴り響いた。



 ぐぅ~、ぐるる~。



「は……腹減った」



 どうやらその音の正体は速水の空腹を(しら)せる音だったみたいだ。


 朝ご飯食べずに走り続けて1時間……あのようなお腹の音が鳴るのもしょうがないだろう。かく言う自分も胃が空っぽすぎて速水みたいにさっきからずっと小さく音を鳴らしていた。



「……そろそろどこかに朝ご飯食べに寄ろうか」



 そんな車内の空腹の雰囲気を感じ取ってか染谷さんは運転しながらもさり気なく呟いた。しかしその声はイヤホンをして音楽を聞いている速水には聞こえていなかったので代わりに自分が答えた。



「お願いします」



 バックミラー越しに頷いた染谷さんはすぐそこで発見した二十四時間営業のファミリーレストランにハンドルを急遽(きゅうきょ)切った。そうして駐車場に入ったら全員でファミリーレストランに入店していった。


 店内は朝だからか数人しか座っていなかった。


 そこで店角の奥の禁煙席を選び、そこでみんなで座ると同時に染谷さんはみんなに申し訳なさそうに謝罪する。



「とりあえず、ごめんね。朝早くに」

「別にいいですよ。はい、これ」

「ありがと」



 自分は気にしていないと言いながら二つのメニュー表の内の一つを速水に、そしてもう一つを染谷さんと倉敷に渡す。


 ぐぅ、と鳴るお腹。


 もう少しの辛抱だと言い聞かせるように自分はそのお腹を押さえつつ、速水に渡したメニュー表を見ようとする。が、なんとそのメニュー表は食い入るように見る速水によって独占されてしまっていた。


 さらにぐぅ、と鳴るお腹……。


 自分は一人で見る速水に、一人で見る為に渡したんじゃないと怒りにも似た感情を覚えるが、鬼気迫る表情でメニュー表を見る速水に何を言っても絶対に離さないだろうなとメニュー表を共有する事は諦めることにした。

 速水が決め終わるまでの間、自分は仕方なくあとどれぐらいで目的地に着くかを染谷さんに尋ねる。


「で、染谷さん〈紅葉荘〉まであと何時間ですか? 結構走って来ましたけど……」

「う~ん、あと二時間って所じゃない?」



 二人でテーブルに広げたメニュー表を見ながら染谷さんは答えた。



「そうですか。まだまだ掛かりそうですね」

「そうだね」



 染谷さんは朝食セットのページを見ながら「よし、決めた」と呟くと、メニュー表から顔を上げた。



「みんなは決めたかな?」

「ああ」

「はい」



 速水と倉敷はどうやら決めたようだ。メニュー表をまだ見ていない自分は勿論決まってはいない……。慌てて速水からメニュー表をぶんどるとパラパラと捲り、ふと目についた今日のおすすめというページからある一品を決めた。



「決まりましたよ」



 それを聞いた染谷さんは軽く頷くと呼び出しボタンを押した。すると厨房の方から自分たちと同い年ぐらいの若い男のウェイターが来た。



「ご注文はお決まりですか?」

「私は朝食セットBで」



 染谷さんは今日のおすすめのページの『朝食セットB』を指し示しながら頼む。続けて倉敷が同じように指し示す。



「私はパンケーキセットとホットミルクをお願いします。あ、パンケーキのクリームは多めでお願いします」



 女性陣が頼み終わったら今度は男性陣の番。

 速水はかなりお腹が空いてイライラした様子でぶっきらぼうに頼む。



「カツカレー大盛り、辛さは控え目。できるだけ早くお願い」

「朝食セットBにパンケーキセットのクリーム多め、ホットミルク。カツカレー大盛りの空さ控え目ですね。それでそちらの方は」



 染谷さん達のメニュー表を回収し、元あった場所に戻しながら自分は先ほど決めた一品をウェイターに伝えた。



「朝食セットAをお願いします」

「朝食セットAですね。では、少々お待ちください」



 そう言ってウェイターはぺこりと頭を下げて厨房の方へ戻っていった。


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