5-1
あの突如として解散を告げられた日から一週間と少しが経ち、日付は8月1日になった。
テスト期間が終わりそのまま夏季休暇に入った泉陵学院大学の生徒たちは皆思い思いに日々を過ごすことだろう。就活に部活、サークル活動、研究やその他バイトや帰省したりなどなど……。そんな中、怪奇現象研究サークルこと怪研に所属している自分――冴木明仁はその怪研を解散させないために心霊現象が起こると云われている軽井沢の別荘、〈紅葉荘〉に行かなければならなかった。
午前7時――。
風に揺れるカーテンの隙間から、朝の木漏れ日が顔に当たる。その柔らかい光と、煌々と点いている人工の光で自分の目は覚めた。天上の灯りがあまりにも眩しくて自分は一度寝返りを打ち、うつ伏せの状態でそのまま十秒して。
「……朝か」
朦朧とした意識の中、自分に言い聞かせるように呟いた。
自分は重たい体を両腕で支えて起き上がると煌々と光る照明に目をやる。
「電気点けっぱなしで寝たのか……」
何故このような事をしてしまったのかを昨日の夜の記憶をぼんやりした頭で思い出す。そしたら段々と昨日の夜のことを思い出してきた。
「そういえば寝る前、別荘についてのやり取りをしてたんだっけ……。それでそのまま寝落ちしちゃったんだっけ……」
周りを見渡しベッドの下に落ちているスマホを発見した。画面を表示してみると染谷さんから新着のラインが一通来ていた。どうやら深夜の1時頃に届いたらしい。
襲ってくる睡魔に負けないように必死に目をこすってすぐさまそれを確認する。
『渋滞と雨を考慮して早朝迎えに行くから。ちゃんと起きててね~』
自分は眉を顰め、首を傾げた。
「渋滞と雨を考慮して早朝……。早朝って、何時頃なんだ?」
今、正に早朝なのだが詳しく何時頃に迎えに来るかは書いていない。だからもうすぐにでも来るのか、それともあと一、二時間程して来るのか全く予想できなかった……。しかし、可能性としてこんな早い時間帯に来るはずはないだろう。
とにもかくにもあのマイペースな染谷さんのことだから様々な可能性を考慮し、現状確認のラインを送ることにした。
自分はスリープしたスマホを起こし文字を打つ。
「よしっ、これでいいか」
メールを送り終わったスマホをベッドの上に放り投げ着替えようとよれよれのTシャツに手をかけた時、
――ピーンポーン。
と、インターホンが軽快に鳴った。
「えっ、うそ、今かよ?」
慌てて着直して玄関に向かおうとする。が、その前にさすがに起き上がりの状態だと失礼なので顔を洗って、口をゆすいだ。
インターホンが鳴ってから少し経って、ようやく玄関に着いた自分はドアを開ける前に覗き穴を見てみる。するとそこには首傾げ、まだ出てこないのかと怪訝そうにして待つ染谷さんの姿があった。
だらしない姿、そしてあと部屋の中身をあまり見られないように自分は少しだけドアを開ける。
「……おはようございます」
「あ、ようやく出てきた。おはよう冴木君、迎えに来たよ」
染谷さんはにっかりと笑う。
そんな染谷さんのテンションに、ずっしりとした心労を感じながら早すぎではないのかと苦情を入れる。
「今何時だと思っているんですか……。朝ご飯も何もかもまだなんですけど」
すると染谷さんはキョトンとした顔をする。
「何言っているの、ラインを見た? 今からすぐ行かないともしかしたら渋滞しちゃうかもしれない、昼ごろから雨が降るみたいだから早めに行かないといけない。って、伝えたよね?」
「それは……そうですけど」
確かに染谷さんはラインでそのような旨を伝えていたには伝えていた。しかしそれにしても早すぎる。このまま一度染谷さんにはお帰り願いたいが、染谷さんがまだ来ないと決めつけてしまった自分にも非があるのは明白だ。その為、強く出る事も出来ず染谷さんの言う通り今すぐに家から出るしかなかった。
「……分かりました。でも少し待っててください。すぐに準備するので」
「あっ、朝ご飯は食べてこなくていいからね。後でみんな一緒に食べに行くから。じゃあ私は先に車の方に待っているね」
「……はい」
染谷さんの言葉に軽く頷き、そしてそのまま顔を上げることなく扉を閉めた。




