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「ううぅ……」
悲しみに暮れるような声。
振り向くと突っ伏していた倉敷が小さく、モグラみたいに顔を細い腕の中から出していた。
「一週間……一週間か……一週間なら何とか……」
呪詛のように『一週間』を繰り返す倉敷、どうやら〈紅葉荘〉に行けるようもうすでに気持ちを作っているようだったが、その姿はとても可哀そうで見ていられなかった。
「大丈夫、かな?」
倉敷の異様な様子に染谷さんは心配になりながらも、すっと細い体を立ち上がらせて皮のショルダーバックをその体にかけた。まるでモデル雑誌に出てくる人のような染谷さんはスマホで時間を確認しつつ最後に告げる。
「そうそう、8月1日にそれぞれの家に私が迎えに行くからそれまでに各自準備はしていてね。あっ、この事は速水君にもラインで伝えていてね。じゃ、私はまだやることがあるからそろそろ帰るね」
「分かりました。また」
そうして忙しなく染谷さんが出て行った後の部屋には自分と絶望に浸る倉敷の二人だけが残された。
「…………」
「…………」
とても気まずい沈黙――。
自分は倉敷にどのような言葉を掛けて、どう再起させようか考えていたら不意にテーブルに伏せていた倉敷がこちらを見て口を開いた。
「冴木先輩……」
「ごめんごめん、どうにもならなかったんだよ。分かるでしょ倉敷」
恨めしそうなその声には〈紅葉荘〉に行く羽目になった悲しさが含まれている。思わずすぐに謝ると倉敷は静観するようにジッと見つめてから、おもむろに顔を上げた。その倉敷の顔は全てを諦めほとほと疲れているような顔だった。
「はあ……別に謝らなくていいですよ。こうなったのは全部速水先輩の挑発に乗った私のせいですから」
そんな倉敷に自分は最大限の気を遣ってそっと告げる。
「少し早いけどとりあえず俺たちも帰る? それとも、またDVDでも見る?」
その言葉に倉敷は疲れた様にため息を洩らしながら少し考えて、そして答えた。
「……もう一回見ましょう」
「分かった」
倉敷の機嫌を取るように自分はすかさず机に置きっぱなしのDVDを手に取ると、それをDVDプレーヤーに入れてホーム画面の操作から再生まで全て行う。画面が暗転し再び心霊映像が流れると倉敷は疲れを癒すように前のめりに見始めた。
その逆に自分は一息つき、遠目でぼんやりと心霊映像を見ながら、この先泊まる予定の〈紅葉荘〉でこのような事が起きるのか、それとも別の衝撃が待っているのだろうかと思いを馳せる。
テレビ越しに見える青空の、夕立の仄暗い雲は、まるでこれから起きる出来事を憂う今の自分の心を暗示しているかのようだった……。




