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振り出しに戻った話し合い。
再び怪研が解散されない為にどこで、どのような活動をすればいいのか考える。その時ある事に気が付いた。
「そういえばまだ染谷さんは何を調べてみたいか言っていませんよね?」
「ああ、そういえばそうだね。みんなの意見ばっかり聞いていたね」
染谷さん自身今気が付いたかのように声を出す。
「そうだね……」
染谷さんはそう言って、考えるように軽く握った拳を唇に近づけて視線を下に落とした。その時机の上に伏せられていた〈月刊アトランティス〉が染谷さんの目に留まった。そして思いついたかのように頷いた。
「うん、そうだね! 心霊現象でも調べに行きたいかな」
「心霊現象ですか?」
「そう。だってそれだったら冴木君と速水君の案より断然近場で探せるから時間もかからないし、機材もうちのビデオカメラで撮影するだけだからお金もかからないでしょ。それに撮影に成功する確率が一番あるのが心霊現象だからね。それに何より夏だし」
「なるほど。その夏だからっていう理由は置いておいて、確かにいい案ですね」
染谷さんの案は今までの案の中で一番可能性がある。そう感じ賛同し頷いていると、予想通りというか至極当然というか隣にいる速水が反対した。
「俺は嫌ですよ。例え怪研の活動でも心霊現象を調べに行くなんて」
「え~。速水君、そこを何とか折れてくれない。そうしてくれたら全員オーケーでもすぐにでも決定なんだけど」
「それでもですよ!」
「速水君、お願い」
どうしても嫌がる速水は梃子でも動かないつもりで腕を組み、目を瞑ってずっしりと構える。しかし、一つ上の先輩に懇願され速水はしょうがないと目を開け、苦虫を噛み潰したかのように口を開いた。
「ぐっ……。分かりましたよ、今回だけですよ。ただし、その他になんか楽しめる様なものをお願いします」
「それなら心配しないでいいよ!」
染谷さんは机の上のアトランティスを持って開きっぱなしだったそのページを見せる。
「ここに行こうと思うから」
そのページは最初、怪研に来たときに倉敷に見せてもあったあの特集だった。
それを見て速水はあからさまに嫌な顔をする。
「なんすかそれ……。そんな眉唾ものに行くんですか?」
「うん。でもほらよく読んでみて、これ軽井沢の山の中の別荘って書いてあるよ。ここだったらバーベキューとか天体観測とか、他にも花火とか色々できると思わない?」
「思いますけど……」
「じゃあ決まりだね。今回はこの〈紅葉荘〉に行く事になりました」
何か不満を言いたげな速水だが染谷さんは有無を言わせず決定してしまった。
「心霊現象か……」
行先が決まった事に歓喜するように染谷さんは軽く拍手をしている。と、ここでこの怪研に違和感を覚えた。それはこの決定に一番喜ぶはずの人物が喜んでいない。それどころか先程からずっと黙ったままだという違和感だった。
その人物――倉敷の方へ視線を向けてみると倉敷はとても血の気の引いた青白い顔をしていた。
「どうした?」
「あっ、い、いえ……何でもありません。何でもありませんから……」
倉敷はしどろもどろに呟きながら俯く顔を横に振った。
まるで触れてほしくないようなその態度にますます心配になった。
「本当に大丈夫か? 気分悪かったら帰ってもいいんだぞ」
「大丈夫ですから……」
頑なに首を横に振って理由を言わない倉敷にどうしようか困り果てていたら、このやり取りに気が付いた染谷さんが不思議そうに尋ねてきた。
「冴木君どうしたの~?」
「それが倉敷の様子が少し……」
「舞ちゃんが?」
染谷さんは隣にいる倉敷を向くと、俯いている顔をそっと覗き込みながら優しく声をかける。
「舞ちゃんどうしたの? 何かあったの?」
「…………」
しかし倉敷はまるで拗ねた子供のように染谷さんの顔から逃げるようにそっぽを向いた。
染谷さんはタジタジしながらも優しい声をかけ続ける。
「舞ちゃんが好きな心霊現象を調べに行く事になったんだよ。だから元気出して」
「――せん」
「へ?」
倉敷は染谷さんの顔をまっすぐ見て、そして心からの叫びを伝える。
「私は行きたくありません!」
あまりにも意外で衝撃的な言葉にこの場にいる全員が口をポカンと開いた。




