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怪研見聞録 ~第一の記録・心霊現象~  作者: 長山真也
第一章 怪奇現象研究サークル
13/47

3-3


 突如として告げられた解散についての会話が行われる中、一人その会話について行けない者がいた。


 それがまだ一年生の倉敷だった。


 ずっと首を傾げていた倉敷は、染谷さんと速水が会話している最中に長机に少し身を乗り出して小さな声で質問してきた。



「冴木先輩、どういう事ですか?」

「ああそうか。倉敷は一年だから分からないのか」



 気持ちちょっと倉敷に上体を近づけ染谷さんと速水の会話の意味を説明する。



「倉敷はこの大学にかなりの数のサークルがあることは知っているよな?」

「ええ、勿論。入ってきた時その多さにびっくりしましたからね」

「じゃあそのサークルが毎年の長期休暇明けに入れ替わるのは知っているか?」

「いいえ、それは初耳です」



 意外そうな顔をして首を振る倉敷に続きを語る。



「実はこの大学は夏・冬の長期休暇明けに前以て申請されていたサークルを設立するんだよ。そしてそれに(ともな)って解散もね。だから休み明けにはかなりサークルの顔ぶれが変わっていることもあるんだ」

「なるほど。……って。じゃあこのサークル棟が対象ってのは!」



 何となく感づいているだろう倉敷に無言で頷き返事をした。



「サークル数がかなり多いからこの第一サークル棟の中で解散させるサークルを絞ったっていう事だよ。活動していない、成果を出せていないサークルが確か解散の基準だったはずだけど、どうやら今回その基準に怪研が引っかかっちゃったみたいだね」

「……失礼ですけど、よく今まで解散されずに残っていましたよね。確か出来てから今年で二十年以上って聞きましたけど」

「それについては自分も分からない。この怪研の最大の謎だと思う」

「そうなんですか……。まあともかくその解散は絶対なんですか?」



 倉敷の少し不安げな質問を自分は明るい声で否定した。



「そんな事ないよ。長期休暇が終わるまでにさっき言った基準をクリアすれば解散する必要はないよ。だけど基本、基準に引っかかるサークルは活動していないと見なされているサークルだから、有無を言わせないぐらいの成果を出さないと回避は難しいかも……。例えばスポーツ系なら大会に入賞とか、文化系なら雑誌、新聞に取り上げられるとかテレビに紹介されるとか……」

「それ……相当難しいじゃないですか」

「まあね。でも実際それで解散を免れたサークルは去年いくつかあったからね」

「そうなんですか……。説明ありがとうございます」



 解散されない方法に倉敷は(うれ)いを感じつつもちゃんとお礼をいいながら乗り出していた体を元に戻した。それに(なら)い、自分も気持ち近づけていた上体を元の位置に戻したら今度は染谷さんに向き直った。



「で、染谷さん。これからどうするんですか?」

「どうするもこうするも、夏休み中に何とかしないとね。それが唯一、怪研が解散されない道だからね~」

「それをどうするか聞いているんですよ」



 当たり前の事を言う染谷さんに自分は呆れていると、染谷さんはおずおずと窺い聞いてきた。



「冴木君、怒っている? 何かいつもより少し言い方きつくない?」

「怒っているんじゃありません、呆れているんです。あんな大事な事を言い忘れていたんだから当たり前じゃないですか」

「それはごめんだけど……もうちょっと私に優しくしてよ」

「ダメです」



 染谷さんがどんな事を言おうが今は絶対に厳しく接すると自分は決めていた。何故なら怒る時は怒るのが副部長の務めだからだ。


 キッパリと首を横に振る自分に染谷さんは口を尖らせる。



「おに!」

「おに! じゃありません。そんな事より、本当にどうするんですか?」



 子供のような態度の染谷さんに本当に心配そうに尋ねると、その心配が伝わったのか染谷さんは尖らせていた口を元に戻し、改めて気を取り直して話し始めた。



「どうするって……まずはとりあえず夏休み中に何をするのかを早急に決めないと。みんな、何か良い案はないかな?」

「それなら行きたい場所があるんだが」



 速水はゆっくりと手を上げる。



「どこかな?」

「アメリカに行ってみようぜ」



 それを聞いて染谷さんは思わず聞き返した。



「あ、アメリカ?」

「ああ。どうせ夏休みで時間もあるから、アメリカのネバダ州のエリア51に行こうよ。そこはUFOの聖地だから絶対UFOの映像が撮れるぞ」

「それはさすがに無理だよ。時間はあってもお金がないんだから」



 笑って速水の意見を却下する染谷さんに自分は厳しく付け足す。



「時間もありませんよ」

「もう……本当、今日はきびしいな」



 チクチク刺さる一言に染谷さんは嫌な顔をする。



「じゃあ、そこまで言うなら冴木君は何か良い案あるの? 時間もお金もかからないとっても良い案が」

「良い案ですか? そうですねちょっと待ってください……」



 自分は倉敷みたいに幽霊だけ、速水みたいに宇宙人だけ、などと何か特定の物を盲信的に信じている訳ではない。だから突然言われても中々パッと出てこなかった。腕を組み、怪研の活動目的に最適な場所はどこか考える。

 その最中、染谷さんは自分の返事を待たずに隣にいる倉敷の方を向き明るい声で話しかける。



「舞ちゃんはとりあえず心霊スポットに行きたいよね?」

「えっ、それは……」



 慌てる倉敷に染谷さんは首を傾げる。



「違うの?」

「違くは無いんですが……」



 酷く動揺した様子の倉敷。染谷さんは答えを待ったが、しばらく待っても返ってこなかった。染谷さんは不思議そうに首を傾げたままこちらに向き返る。



「それで冴木君は何か思いついた?」

「まあ、はい多分……」



 あまりない知識の中でお金もかからず、時間もかからず、そして怪研が解散されないぐらいの成果が残るものと考えた結果、出した答えはこうだった。



「〝ヒバゴン〟なんてどうでしょう?」

「……さ、冴木君なんて渋いものを。確かに私も興味はあるけど、それは速水君の案よりダメだね」



 染谷さんは驚きながらも、その案を一蹴した。



「どうしてですか?」



 そう聞くと染谷さんはその理由を述べる。



「確かにヒバゴンの目撃情報は広島県だから速水君の案より大分お金はかからないし、もしかしたら運よく三十日以内に見つけられるかもしれない……。だけどその目撃情報の場所は比婆山連峰の森の中で迷う可能性があるから、とてもじゃないけどみんなを行かせるわけにはいかないよ。それにヒバゴンは類人猿型の未確認生物だし、もしも本当に出会ってしまったら危険かもしれないからね」

「そうですか。まあ、そうですよね……」



 もっともこれが採用されたとしても、三十日で見つけられる可能性は皆無な事は承知していたのですぐに自分から却下するつもりだった……。


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