2-5
バチバチと速水と倉敷の視線がぶつかり合う中、睨み上げる倉敷は語気を強めて先程の言葉を繰り返す。
「だから! 幽霊よりUFOや宇宙人の方が怪しいって言ったんです!」
「お前ふざけるのも大概にしろよ! 圧倒的に存在の可能性が低いのは幽霊の方だろうが! こっちはな、あのNASAが『宇宙人は存在する』って発表しているんだぞ。それに地球に似た惑星がこの宇宙、外宇宙に何個あると思っているんだ。それを考えれば知的生命体がいるということが分かるだろうが!」
随分と信憑性のある速水の発言。だが倉敷はそれを一蹴した。
「でも実物見つかっていませんよね?」
「な……それはお前……」
「見つかっていませんよね!」
たじろぐ速水を見て倉敷は好機ととらえ、ここぞとばかりに攻める。が、速水も負けじと反撃する。
「そういうお前の幽霊も存在がいるかどうか怪しいじゃねえか! 幽霊の正体は結局パレイドリア現象で見る錯覚に過ぎねぇんだよ」
その言葉に倉敷は嘲笑し、何言っていんだとキッパリと答える。
「あんなのは嘘、幽霊を信じたくない人のでっち上げに決まっているじゃないですか」
「……は?」
予想外の答えに速水はあんぐりと口を開けた。
そんな速水を余所に倉敷は続ける。
「そもそも幽霊が存在するって科学では証明できません、というか絶対にそんな事はさせません。幽霊の存在を科学的に証明するという事は幽霊を〝想い〟の存在からただの〝なにかのエネルギーの塊〟という存在に貶めることになるからです」
「……幽霊が〝想い〟の存在? お前、頭大丈夫か?」
「大丈夫です! いたって普通です!」
速水の心配が癪に障ったのか倉敷は声を荒らげた。
いつまで経っても終わらない二人のケンカ、DVDを仕舞い終わって静かに座っていた自分はほとほと呆れ返っていた。
「全く……」
これがこのサークルに来たがらなかった理由、面倒事の一つだ。
倉敷と速水は決して融和することがない水と油のような関係性だ。だから毎回顔を合わせればどんな些細なことであってもケンカをしてしまう。特に幽霊、宇宙人がらみの事に関しては永遠に終わらない程に……。
そんな終わらないケンカを終わらせるために、誰かが二人の間に入って止めなければならい訳だが、それは幽霊も宇宙人もそれなりに信じている中立の人物しかできない。そう、つまり部長の染谷さんがいない今、副部長である自分しか止める事ができないのだ。しかし自分が二人のケンカを止められる確率は限りなく低い……。
ちらりと自分は未だ睨み合う二人を見て、そしてしょうがないと息を吐いた。
とても厄介で、面倒で、帰りたくなるほど疲れてしまうが、副部長としてこれ以上ケンカするのは看過できない。
意を決した自分は睨み合う二人の間に割り込んだ。
「はいストップ。今日はここまで」
突然中止宣言に二人はとても不服そうにこちらを向いた。
「ちょっと待てよ! まだ倉敷との話は終わっていないんだぞ」
「そうですよ。今日こそ速水先輩との決着をつけようと思っていたのに」
止められた際にいつも使う二人の決まり文句に自分は頭を抱える。
「じゃあ、今日はどうすれば決着がつく?」
すると二人は同時に答えた。
「そりゃあ倉敷を負かすまでだ」
「それは速水先輩が負けたと言うまでです」
息ピッタリの答えに自分は思わずため息を漏らして、そしてずっしりとのしかかった精神的な疲れと共に椅子に座った。
「はあ……。そうですか……」
自分は呆れを通り越した諦念の目で二人を見た。
幽霊を絶対に信じる倉敷、片や幽霊を絶対に信じない速水、この二人のケンカを止める事なんてやっぱり無理だろう……。そもそも二人が『負けた』なんて屈辱的な言葉を出すはずがない。
途端に止めるのを諦めシャキッとしていた副部長としての態度から一変、だらりと投げやりな態度になって二人に尋ねる。
「二人ともさ、『負けた』なんて言葉絶対に言うつもりないだろう?」
二人はまた同時に答えた。
「ああ」
「ええ」
やっぱり、と再びため息を漏らす。
「はあ……」
このケンカは絶対に止まらない。
そう確信し、自分はほとほと呆れて天井を仰ぎ見た。




