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次女と第二王子2

 今日は土曜日。

 ノア様と教会のバザーに行く日だ。


 迎えにきてくれたノア様の馬車に乗り込んで教会に向かう。


 ノア様と二人で馬車に乗ったのはいつぶりだろう、と思いながら、彼を盗み見ると、いつもの無表情で外を見つめていた。

 相変わらず私たちの間に会話はなく、私はなんだか教会までの道のりがいつもより長く感じた。



 教会に着くとノア様を連れて、調理場に向かった。


 バザーは12時からのため、バザーで売るためのお菓子は午前中に準備することになっている。

 既にシスターたちがクッキーやマフィンを作り始めていたので、私はすぐにお菓子作りの手伝いを始めた。


 料理経験のないノア様に手伝ってもらうのは酷だったので作っている分が焼き上がるまで待ってもらうことにした。

 焼き上がったら次はラッピングだ。



 ノア様は手持ち無沙汰な様子で私のクッキーを捏ねる手元をじっと見つめている。とてもやりづらい。


 すると、しばらく無言で見つめていたノア様が、「良い奥さんになりそうだな」と小さく呟いた。


 私はその言葉に内心ぎょっとしながらも特に反応をしめさないように務めた。


 今のはどういう意味だろう……。


 クッキーが焼ける女性が良い王妃になれるとは思わず、良い奥さん、良い奥さんと自分の中に落ちない単語を心の中で繰り返した。




 焼きあがったクッキーやマフィンを子供たちと一緒にラッピングするようにノア様にお願いした。


 すぐに次のお菓子を焼く準備をする必要があったから押し付けたまま放置してしまったが、大丈夫だっただろうか。

 自分が作った分のお菓子を抱えて、ノア様たちがいる食堂に足を進める。



 食堂の中の様子を入り口から少し覗いて、目を見張ってしまった。

 意外にもノア様と子供達が楽しそうに作業をしている。


「見てみて、ノア様。このリボン可愛いー?」

「ああ、すごいな、上手だ」


 オリビアが掲げた袋につけたリボンを見たノア様がオリビアの頭を優しく撫でて、「そうだ」と小さく声を上げた。


 すると、ノア様はピンク色のリボンの切れ端をとって、オリビアの髪を少しすくい、器用に蝶々結びを作った。


「うん、可愛い」


 彼女の顔を見ながら、ノア様が目元を緩めて優しく微笑んだのに、オリビアはぽっと頰を赤らめて、へへっと照れたように笑った。


 それを見ていた他の子たちが「私もー!」とノア様に押し寄せたところで慌てて声をかけた。



「ノア様」


 ノア様ははっと私の顔をみて、バツが悪そうに「悪い……サボっていたわけでは……」と呟いた。


 今まで見たことがない彼の表情がなんだかおかしくて、ふふっと思わず笑いながら、「またたくさん焼けたのでこちらもお願いします」とお菓子を差し出した。



 その後はノア様たちと一緒にラッピングの作業を行った。

 子供達に囲まれる彼は終始優しく微笑んでいて、ノア様がノア様じゃないみたいなんて失礼なことを考えてしまった。




 バザーが始まるといつもよりずっと早く売れるものがなくなってしまった。

 ノア様のおかげである。


 どこから噂が流れたのか、始まって一時間もしない内に、見目麗しい第二王子を一目見ようと人が集まってきたのである。

 本人はいつもの無表情から少しだけ困ったように眉を下げていたが、私やシスターたちはこれ幸いとばかりに見物客に売りさばいた。

 いつもより良い売り上げに、これで子供達に美味しいものを食べさせてあげられそうとシスターたちと喜んでいた。



 後片付けの間、ノア様にはまた子供達の相手をしてもらった。

 魔法で小さな氷の動物を作ってあげていたようで、子供達にこれもあれもとせがまれていた。




 日が傾いた頃、ノア様と帰りの馬車に乗り込み、帰路に着いた。

 彼は相変わらず無表情で外を見つめているが、その横顔がなんだか行きとは違って見えるのは気のせいだろうか。



「ノア様、今日はありがとうございました。」

「大したことはしていない」


 ノア様が外からこちらに視線を移した。


 「いいえ、とても助かりました」と微笑むと、ノア様は表情を変えず「そうか、なら良かった」と短く答えた。



 しばらく黙った後、「子供お好きなんですね」と今日の出来事を思い出しながら声をかけた。


「そうだな…レオやアプリコットの面倒を見ていたのもあるが……」


 ノア様は言葉を切って、少し考えた後に続けた。


「子供は素直で肩書など見ずに接してくれるからな」


 その返事を聞いて、思わず目を丸くしてしまった。


 ノア様が私と同じことを考えていたことに驚いてしまって。


 「どうした?」と声をかけられて我に返る。

 ノア様の顔をまじまじと見てしまっていたらしく、「ああ、いえ、なんでも」と慌てて視線を落とした。


 その後はいつもと変わらず、馬車の中はしんと静まり返っていたが、なぜか行きの静寂とは違って心地よく感じた。


 馬車に揺られながら、ノア様が子供たちと遊ぶ姿と先ほどの言葉を思い出すと、胸のあたりがじんわり温かくなった気がした。

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