長女と第一王子4
次の日出社すると、セオが見当たらず、代わりに見覚えのない可愛らしい女の子が立っていた。
私がきょとんと目を丸くしていると、その子が先に口を開いた。
「今日から補佐を務めさせていただきます、メアリといいます。よろしくお願いします。」
どんどんどんと廊下に響き渡るほど執務室のドアを強く叩くと、「どうぞ」とリアム様の声が聞こえて、勢いよく中に入る。
扉を開けた先には、部屋の中央に置かれた立派なデスクに彼が座り、その横にはエリオットさんが立っていた。
「そんな慌ててどうしたの?」
絶対に何のことか分かっているのに、とぼけた風にリアム様が首を傾げた。
「セオをどこにやったんですか!」
リアム様が座る大きなデスクに近づきながら声を荒げる。
「ああ、セオ君ね。君があまりに優秀だというから、直属の部下に引き抜いたんだよ」
彼がデスクに頬杖をつきながら、反対側から身を乗り出す私に顔を近づけて答えた。
リアム様は「彼には僕の下できっちり働いてもらうよ」と言った後に「そう、きっちりね」と小声で付け加えながら、にこりと笑った。
「セオ以外にも優秀な部下はいるでしょう、どうして……」
悪い顔で笑う彼に背筋を凍らせていると、リアム様は「なぜって君のファーストキスを奪ったんだ、側には置いておけないよ。僕だって寝てる時にしかしたこと無いのに」と口を尖らせて開き直り始めた。
思わず頭を抱えた。とんだ公私混同である。
トップの座につく者としてあるまじき行為だ。
そこで、もう一度リアム様に言われたことを頭の中で反芻して、思考が停止した。
「今なんと?」
目を見開いて、リアム様の顔に視線を向けた。
「君のファーストキスを奪ったんだから、僕の下でこれまで以上に働いてもらうよって」
「違います!そこじゃなくて!」
デスクにバンッと勢いよく手をつく。
「何か言ったっけ?エリオット」
リアム様が隣に視線を向けると、「いえ、特に」とエリオットさんが表情を変えずに答えた。
「あれは初めてではなかったのね……?」と独り言のように呟くと、「起きている君とはファーストキスだよ」と悪びれる様子もなく口にした。
「我慢してただなんて……」
騙されたことへの屈辱感やら、昨日自分がした行為への羞恥心やらでいっぱいいっぱいになって、それ以上は何も言えずに、リアム様をきっと睨んでから踵を返し、勢いよく扉を開けて執務室を後にした。
「さて、お姫様に機嫌を直してもらうために、美味しいスイーツでも買いに行くかな」と声を弾ませる僕に「お願いだから仕事をしてください…」とエリオットが肩を落とした。