第一章 「はじめまして、妖精さん」その四
今回も説明パートです。
後に困るから最初にしておいた方がいいと思うのですが、長くなると展開が遅くて読む気が失せてしまう。
この辺りの匙加減がどうにも難しいですね。
さて、今回も楽しんでいただけると幸いです。
すっかり暗くなった帰り道。
隣には年端もいかない女の子。
……この子が妖精でなければ、誘拐に見えるのでは?
そんな考えが頭をよぎったが、見える人の方が少ないだろうしきっと大丈夫。
……多分。
「体」
「ん?」
ソラと別れてからめっきり喋らなくなったアカネが口を開く。
「大丈夫? 冷やしたりしてない?」
「うん、大丈夫。だいぶ寒さも緩んだみたいだし……」
というより、先程感じた、氷が全身に当てられたような異常な寒さは、アカネの力が原因って解釈でいいんだよな?
「ね、さっきすごく寒かったのってさ、アカネの能力なんだよね? 他の妖精も似たようなことができたりするの?」
「できるでしょうね。私達妖精は、生きていた時から不思議な力を使えたわけじゃなくて、妖精になってから使えるようになったの」
「そりゃ生きてる時にこんなことできたら、クーラーも扇風機も必要ないもんね」
「夏と冬の評価の差が凄そう、って話が逸れてるから。それで妖精になって得た力が三種類」
「一つは身体能力。元の体よりも強くなったり弱くなったりしてるわ」
「もう一つは属性由来の能力。戦う時の武器になる」
「最後が個人由来の能力。これが多分一番厄介でね、少なくとも私は、私の能力を持った相手と戦いたくないわ……」
心の底から面倒臭そうに項垂れる。
「ちなみにどんな能力なの?」
「今はまだ言わなくてもいい? 誰が聞いてるかわからないから」
「それなら仕方ないね。代わりにじゃないけどさ、さっきの戦いで何やってたか教えてくれない?」
「いいよ」
本当に何も見えなかったんだ。どうなっていたか気になって仕方がない。
と、言うより気になることが多すぎる。
まだまだ答えて貰わなければ。
「まず、貴方を真っ直ぐに狙った四つ分の遠距離攻撃を、武器を使って弾いたわ。次の時は、四つ分の遠距離攻撃が前から三つ、後ろから一つ来ていたから、ソラが瞬きした時に全部弾いて、瞼が開いた時に距離を詰めて、魔力を凍らせてソラの背後に壁を作り、距離を詰める時にスピードと全体重を乗せた膝蹴りを浴びせたわ。この時、顎の下の方から蹴りを入れることで頭を大きく動かすことと、薄い氷をソラとの間に何枚も張って勢いを殺しながら近づくことがポイントね」
僕のことを思ってゆっくりと喋ってくれていた。
そう感じられるくらいに、僕の目を見て、僕がしっかりと理解できるように話してくれていた、のだろう。
「はっきり言います。さっぱりわかりませんでした!」
「……そりゃそうね。私もこんな説明されたって理解できないもの」
首を折るように頭を垂れ、肩を落として項垂れる。
「はぁ……ダメね。説明もロクにできないんだから。自分で自分が情けなくてたまらないわ」
「だ、大丈夫だよ! こんな僕でもわかったこともあったよ! えっと、えっと、そう! 膝蹴りでソラを倒したんだよね! 流石だな〜、僕にも理解できたんだもの! ね、自信を持って良いよ!」
自信をなくされるとこれ以上説明してくれないかもしれない。せめて一通り説明しても貰いたい
「……紅太、それ慰めになってないわ。寧ろ傷口を突っついてる感じよ」
「うー……ごめん」
正直に言って、自分でもわかってた。
「殆ど何もわからないままっていうのもモヤっとするし、デモとかした方がいっか」
「デモ? 議事堂の前に集まったりするの?」
「言うと思ったけど、そっちじゃないわ。ゲームの始めにあったりする、やってみせる解説よ」
「ふむ、では貴女の特技をそこでやってみてください」
「それじゃ面接じゃない。採用してくれないの? と言うか遊んでる?」
「ごめん、ちょっと楽しかった」
「ま、いいわ。手頃に投げられる物はない? それでいて壊れてもいい物」
「これとかどう?」
そう言ってレシートを差し出す。税抜き百円、絵の具を買った時のだ。
「これでもいっか。それじゃ離れててね。危ないから」
そう言ってレシートを受け取ると周囲の気温が下がり始めた。
僕は急いで離れてから様子を見る。
息を吸う。
息を吐く。
アカネは呼吸を整えて集中する。
レシートを持った右手を前に出し、前を見据えたまま手を離す。
手から離れたレシートは、忙しなく回転し、緩い風に流されながら落下する。
突然聞こえるガラスが割れたような破砕音。
細かな欠片が月光を反射して輝く中、地面に落ちたレシートは四枚の紙片となっていた。
「ふぅ、ざっとこんなものね」
「やっぱりわからない」
すぐに寒さが落ち着いた。
近づいてレシートを見ると、四つの三角形の紙片となっていた。
「これ、もしかして切ったの?」
「えぇ、魔力を凍らせて作った氷の刀でね。二振り作って一回ずつ、紅太が瞬きした時に切ったわ」
「えっと、つまりすっごく速く動いてたってこと? それじゃ刀は? 刀は今どこ?」
「キラキラした欠片があるのがわかる? それがさっきまで氷の刀だった物。貴方が目を瞑っていた間に作って、切って、壊したの」
「ところで全然動いてなかったように見えるんだけど」
「見えないうちに動いて、元の体勢に戻したからね。動いてるようには見えないわ」
「へ、へぇ〜」
とりあえず理解はできた。できたとも。
ただ、これなら超能力で手を触れずに切りましたって言われた方がまだ納得できる。
それくらいに化け物じみていた。
「あ〜疲れた。ともかくわかってくれた?」
「うん、想像以上に規格外だってことはわかった」
「そう。私は化け物で、貴方は化け物を相手にする必要があるの。当然、命の危険はある。相手の妖精は殺すし、勝つ為にはその契約者も殺すかもしれない」
そうかもしれないと思っていた。
やっぱりそうか、とも思った。
けど、実際言葉にされると不安になってくる。
規模は大きくないけど、これは言うなれば妖精戦争。
妖精同士の殺し合い。
規格外同士が戦ったら巻き込まれるのは当然……。
あれ?
「そんなに強い妖精達が戦ったら契約者以外も巻き込まれるんじゃないの?」
「そうね、だからこの戦争には絶対に守らなければならないルールがある」
「それは?」
「戦争の参加者は、妖精と契約者以外を傷つけ、殺してはいけないこと。それがこの戦争に定められた唯一にして絶対のルール。もし破ったら……」
「破ったら……?」
「ルールの監視役に即座に殺されるって話よ」
「その監視役も妖精なのかな……?」
「多分ね。一応そう言える理由もあるけど、今日は疲れたしこれまで。それと最後に一つだけ」
「契約はいつでも切れるから好きな時に言ってね」
そう言ったアカネの顔は、儚げに憂いを帯びながら微笑んでいた。
今回もお疲れ様でした!
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また次回もお楽しみに!