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妖精のことがら  作者: 岡池 銀
第一章
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第一章 「はじめまして、妖精さん」 その三

今回は説明パートです。

仕方がないことではありますが、いつもよりも文字数が多いです。

ただ、それでも3,900字なのでそこまで時間は取らないと思います。

楽しんで読んで頂ければ幸いです。

「せ、説明を……頭がパンクしそう……」

 立ち上がった青髪の少女と、やっとこちらを向いたアカネに言う。

 ようやく見られたアカネの顔は、少し色白で無表情に見えるが、顔立ちが整っており、(けが)してはいけないような美しさがあった。針で刺すような鋭い目は、気品高く、近寄りがたい雰囲気を出しつつも、不思議と痛々しさを感じさせない。

 対して青髪の少女は、負けた悔しさからか仏頂面をしているが、それはまるで拗ねた子供のようである。しかし、そんな表情からでも見て取れる愛らしさは、一度(ひとたび)笑えば、きっと怒った鬼ですら、その心を穏やかにするだろう。

「ひとまず、自己紹介をするのがいいんじゃないですか?」

 アカネが答える。

 それもそうか。結局アカネしか名乗っていなかったわけだし。

「それじゃ、僕から。僕は秋野紅太、九月生まれの十五歳で血液型はA型……って感じでいいのかな」

 少なくとも自分の趣味を言って交流する、なんて場ではないだろう。

「それじゃ、改めて。私は月の妖精、アカネ。十月生まれの十三歳、血液型はA型……です。本を読むことが好きで、お饅頭も好きです」

 あれ、趣味とかも言うのか?

 それなら少し短かったな。

「紅茶とかコーヒーは牛乳とお砂糖は入れなくても飲めるけど入れた方が好きで、好きな科目は国語で、好きな動物は猫とか犬とか狐とかで、」

 なんだか様子がおかしい。

 だんだん早口になってきているし、なんていうか必死だ。

 余裕がなくなってきているように見える。

「ね、アカネ。もう大丈夫だよ?」

 いや、何が大丈夫なんだ。

「それで、えっと、それから、それから……!」

「アカネっ!」

「っ……!」

 青髪の少女がアカネを止める。

「紅太くん困ってるでしょ? そのぐらいにしたら?」

「……すみませんでした。自分ばかり話し過ぎました」

 アカネは俯きながら言う。

 その声色は悔しそうで、悲しそうで、寂しそうだった。

「大丈夫? すごく辛そうだけど……。もしかして敬語苦手なのかな。だったら喋りやすいように喋ったらいいんだよ?」

「……」

「僕には何でアカネが辛いのかはわからないし、解決できるかもわからないけど、話を聞くくらいはできるからさ」

「ね、話してみてよ」

「はぁ〜」

 青髪の少女が大きく息を吐く。

 あ、あれ? 呆れられるようなこと言ったかな。

「も、もしかして僕のせいかな? それならごめんなさい。だからそんな顔しないで? どうしよう、そんなに辛そうだと僕まで悲しくなっちゃう!」

 どうにかして笑わせないと……!

 ギャグでもしてみるか?

 はたまた小話か?

「あーでもないこーでもない、もうこうなったらクラスの男子が言っていた渾身の小話を……」

「ふふっ、あはははっ!」

「あ、あれ? まだ何もやってないよ……?」

「情けないの! なんかもうどうでもよくなってきちゃった!」

 何も進展していないと思うが、とりあえず笑ってくれたので良し。

「ともかく笑ってくれて良かった!」

「えぇ、もう大丈夫。心配してくれてありがとね」

「で、そろそろあたしも自己紹介させてもらっていいのよね?」

「そうだったね。そういえば自己紹介してたんだった」

「て、言ってもそんなに話すこともないわ」

「あたしは太陽の妖精、ソラ。お正月生まれのO型」

「……終わり?」

「そうよ、何か文句ある?」

「いや、短いな〜って」

「あんたも似たようなもんでしょうが!」

「そうだね、えっと僕の好きな食べ物は……」

「別に紹介しろなんて言ってない!」

「うっ……ごめん」

「はぁ。で、説明よね。アカネ、任せた」

 ぶっきらぼうに言うと、ソラはそのままそっぽを向いた。

「うん。それじゃどこからどこまで説明すればいいのかしら?」

「色々聞きたいことはあるけど、まず一番に聞きたいのは、なんで君達が戦っていたのか、かな」

「なんで戦うのか、ね。簡単に言うと願いを叶えるためよ」

「願いを叶えるために……」

「そう、そのために妖精王に選ばれた七人の妖精達は命をかけて戦うの」

「妖精王? 七人の妖精?」

「妖精王はその名の通り、妖精を統べる王で、この戦いの管理者……らしいわ」

「らしいって?」

「本人が言ってただけで、実際にそうなのかはわからないの。なんか胡散臭い人だったし」

 そんな人が管理者なんてできるのだろうか。

 ちょっと任せたくない気がする。

「次が七人の妖精についてね。人が死んだら妖精になるのは知ってるよね? それで、その妖精の中でも、特に魔力の高い妖精が選ばれて、この戦いに参加する上位の妖精になる。それが七属性に一人ずつ。これで七人」

「七属性って何?」

「火、水、木、金、土の五属性に、太陽、月の二属性を足して七属性。私なら月、ソラなら太陽ね」

「それじゃあ君達は太陽や月の力を操れたりするの?」

「「しないわ」」

 返事が被った。

 もしかしてこの二人、結構仲が良いんじゃないかな。

「それなら属性ってどういうものなの?」

「ここで言う属性は、妖精の居心地が良い環境のことを言うの。火の妖精なら火のそばが、水の妖精なら水辺や水中になるわ。そして、その居心地の良さはそのまま魔力の回復量に比例する」

「えっと、つまりどういうこと?」

「水の妖精は水道の近くにいても魔力が回復するけど、海や川の方がもっと魔力が回復するってこと」

「ん〜、とりあえずわかった。けど、君達はどうなの? 太陽や月の妖精は?」

「私達は周囲の環境に影響されず、安定して魔力が回復できる。だけど、回復量が他の五属性と比べて少なくなりがちで、尚且つ、全力を出した時の出力が低め、らしいわ」

「らしい?」

「えぇ、これも妖精王から聞いた話でね、実際に戦ってみないことにはわからないわ」

「それで、少しでも勝つ確率を上げるために、あたしに共闘を申し込んだのね?」

 視線だけをこちらに向けたソラが言う。

「そう、共闘して五属性の妖精を倒す。そして最後は貴女よ、ソラ」

「ふんっ、まだ共闘するって決まったわけじゃないわ。あたしの契約者の意見を聞いてからよ」

「契約者?」

「あぁ、説明がまだだったわ。妖精と一緒に戦う人間のことで、私の契約者が紅太よ」

「えっ⁉︎ そんな! 大事な契約をする時は母さんに書類を見せてからって言われてて……」

 先に契約されてたら困る。せめてきちんと手続きを取らせてくれないと。

「いや、大丈夫だから。連帯保証人になって欲しいとか、そういうんじゃないから」

「……書類ない?」

「ないない」

「……拇印とか認印はいらない?」

「大丈夫だって、必要ないから!」

「それなら良かった……」

「大人びてるんだか、子供っぽいんだか……」

「はぁ……」

 アカネは右手で頭を押さえて落胆してるし、ソラはソラで溜息を漏らしてる。

「なんでソラまで……。大事なことでしょ⁉︎」

「はいはい。アカネ、説明が途中でしょ?」

「えぇ。それでね、私達妖精は身体が魔力で作られていて、歩くのにも戦うのにも、挙句の果てには、この身体を維持するのにも魔力を消費するの」

「だから、それらを少しだけでも肩代わりしてもらえれば、全力を出しやすくなるし、限界以上の力を出すこともできるってわけ。つまり、契約者の役割は魔力提供ってことね」

「僕、魔力提供のやり方とか知らないけど…」

「そこは大丈夫。契約した時から勝手にもらってるから」

「えっ! 盗電⁉︎」

「……紅太、知識が偏ってるって言われたことない?」

「なんで知ってるの⁉︎ ……って、今更だけど、なんで僕の名前知ってるの?」

「……ずっと見てきたからね」

「……えっと、たまに冬じゃないのに寒い時なかった?」

「あったよ。それじゃあ、やっぱり……」

「えぇ、それが私。名前も知ってるし色々知ってるわ」

「それなら納得。ずっと見てきたんだから当然だよね」

「……えぇ。続けても?」

「う、うん」

 微妙に間があった?

 ま、いいか。

「ところでさ、僕はアカネに契約者として協力するんだよね?」

「えぇ」

「僕はアカネに魔力を提供してアカネに勝ってもらう」

「えぇ」

「アカネは願いを叶えて嬉しい、僕はアカネが喜んで嬉しいからウィンウィンの契約ってことだね!」

「えぇ……。って、ちょっと待って」

「え、まだ? 足りない? 他には可愛い女の子と一緒に戦えて嬉しいってことかな……これじゃ僕もらいすぎでは?」

「はぁ⁉︎ ちょっと待って! ストップ! そうじゃないから! 契約者の願いも一緒に叶えてくれるって話だから! そんなところに紅太のメリットないから!」

「そっか……一緒に願いを叶えて幸せになろうね」

「ちっがーう! その言い方はなんか違う!」

「あたしもいるんですけどー。そういうの他所でやってくれない? それにそろそろ帰りたいんだけどー?」

 心底気怠げにソラが言う。

「はぁ……はぁ……なんか……疲れた……」

 息を切らす程のことだったのか。

「とりあえず帰ろっか」

「じゃあね、次に会う時に敵同士じゃないと良いわね」

「はぁ……良い返事を待ってるわ」

「またね、ソラ!」

 ソラに向けて手を振る。

「返事がどうであれ、また会うことにはなるわよ」

 そう言った後に、ソラが消えた。

 一体どういう原理で消えてるんだ。

「私達も帰りましょう。私はともかく、紅太は急激な魔力消費で自分で思ってる以上に疲れているはずだから」

「そうかな? でも早く帰るのには賛成だね。お腹減ってきたもん」

 僕はビニール袋を自転車のカゴに乗せ、そのまま自転車を押して帰る。

 絵の具を買ってすぐに帰るつもりが、随分遅くなってしまった。


今回もお疲れ様でした。

第一章はおそらく次で終わりです。

その次から話が大きく動く、かもしれません。

それでは、次回も「妖精のことがら」をよろしくお願い致します。

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