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妖精のことがら  作者: 岡池 銀
第一章
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第一章 「はじめまして、妖精さん」 その二

今回も「妖精のことがら」を読んでくださりありがとうございます。

「へぇ〜、やっぱりあんたがそうなんじゃない」

 青髪の少女が腕を下ろしながら言う。

 どういうことだろう。

 あんたっていうのは僕のことだろうか。

 それとも赤髪の少女のことだろうか。

 それにさっきの……

「そうだ、僕はさっき……!」

 青髪の少女の攻撃(?)で体を貫かれて……

「ない……」

 傷口がない。

 全くの無傷だ。

 服も無事だ。

 (ほつ)れてすらいない。

「今のは一体……」

 確かに体を貫かれていたはずなのだが、傷はないし痛みもない。

 ただ、動悸は激しく、耳の内側で太鼓でも鳴らされているみたいに煩い。

 息が荒く、気温が高いわけでもないのに汗でシャツが濡れている。

 寧ろ、寒いくらいだ。

「え……寒い?」

 エアコンが効き過ぎた部屋なんて目じゃないくらいに寒い。

 まるで冬だ。

 出てきた時も暑くはなく、涼しいくらいであった。

 だが、これはどう考えても異常だ。

 前から……、少女達の方から吹いてくる風は肌を突き刺すように冷たい。

 まるで、たまに悪戯された時のような……。

 もしかして……

「ねぇ、君! 君ってもしかして……」

「話は後よ。あの子をやっつけてからね」

 赤髪の少女は依然、前を向いたまま答える。

「やっつける〜? まるで、あたしに勝てるみたいな言い方じゃない。あたしはそんなにヤワじゃないわ。それに…」

「自己紹介もなしに戦うだなんて寂しいこと言うじゃない」

「あんた、何の妖精よ?」

 青髪の少女は挑発するように、微笑みながら言う。

「そう、自己紹介ね…」

 赤髪の少女は一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。

「私は月の妖精、アカネ」

「紅太の味方よ」

 僕の味方……。

 ……あれ?

 ……なんで僕の名前を知ってるんだ?

「月? あんたが? 私の(つい)?」

「そう……やっぱり……」

「……まあ、どうだっていいわ」

「どうせ倒すし」

 再び右腕を前に(かざ)す。

「貴女に私は倒せないわ」

 アカネと名乗った少女が答える。

「倒してやるわ」

「倒せないのよ」

「倒すったら倒すわ」

「倒せないって」

「倒すって言ってんのよ!」

「こっちこそ倒せないって言ってるでしょう!」

 なんだろう、子供の喧嘩を見てる気分だ。

「ね、ねぇ、君達。喧嘩はよくないし、それにご近所迷惑…」

「「あんた( 貴方 )は黙ってて!」」

「えぇ……」

 そんな風に言われると、ちょっと悲しい。

 でも、やっとアカネって少女の顔が見えた。

「あ〜もう! このまま言い合ってても拉致があかないわ!」

「そうね、私達は言葉よりも拳を交えた方が分かり合える気がするわ」

「ふんっ、なんか調子狂うわ! 早く始めるわよ!」

「それじゃあ、こっちから。行かせてもらう」

 アカネが駆け出す。

 姿勢を低くして空気抵抗を減らすような走り方。

 ……なんだろうけど、あまり速くない。

 五十メートル走で言うなら十秒台前半くらい。

 対して青髪の少女は言い合いの途中で下ろした右腕を三度(みたび)前に翳してそのまま動かない。

「まっすぐ走ってくるなんて単純ね。隙だらけよ!」

 次の瞬間。

 そう、文字通り「瞬きをする間」に決着はついていた。

 先程聞いた、金属音と破砕音が鳴り、アカネは青髪の少女の目の前にいる。

 青髪の少女は半透明の壁にもたれながら倒れており、それが勝敗を表していた。

「ふぅ、私の勝ちよ」

 依然、顔をこちらに向けることないが、アカネの声はどことなく満足げであり、得意げであった。

 ……あれ、道路の真ん中に壁なんてあったっけ?

 そう思った矢先に、道路にできた半透明の壁は、静かな音を立てながら崩れて消えた。

 なんだかよくわからないことばかりだけど、一つだけ言えるのは夢や幻ではなく現実で起こっていることだということだ。

 だって、さっきからずっと寒いもん。

 半袖だからってことも理由だろうけど、それにしてもこれは寒すぎる。

 最初に寒さを感じた時より、少しだけマシにはなってるけど、それでも真冬の暖かい日程度には寒いのではないだろうか。

 何にしても話は聞いておきたい。

「えっと、アカネさん……? ちょっと話を聞かせてほしいんだけど……」

 話しながらアカネに近づく。

 ……いや、職務質問じゃないんだから、もっと違う聞き方があるだろ。

「あまり近づくと体冷やしちゃうわよ? それとアカネでいいわ」

 確かに近づくと寒さが強くなった気がする。

 見えているなら全部信じるのが僕の信条だが、信じた上で色々知りたくなるのが僕の性分だ。

 寒いくらいでは僕の足は止まらない。

「ん……つっ……」

「紅太ちょっと待って、近づかないで。少し話をするから」

 どうやら青髪の少女が目を覚ましたらしい。

 ゆっくりと上半身を起こしていた。

「……」

「……」

 小声で話しているのか、話している内容がわからない。

「ひゃうっ!」

 青髪の少女は声を上げる。

「うわっ!」

 こちらも驚いて声を出す。

「ちょっと! 急に何⁉︎ 冷たいじゃない!」

 どうしたんだろう。

 青髪の少女が騒いでいるが全然話がわからない。

「ひゃんっ!」

 また声を上げる。

 両肩が上がり、首をすくめている。

 流石に二度目は驚かない。

「本当に何をしているんだ?」

 浮かんだ疑問が頭の中を回っている。

 何故戦うのか。

 何故異常に寒いのか。

 音の正体は何なのか。

 何故急に壁が現れて、そして消えたのか。

 口に出してもいない疑問が解消されることはない。

 しかし、質問したい相手は、残念ながら話し合いの最中だ。

「もう来ても大丈夫」

 アカネが言う。

 よし、気が済むまで質問しよう。

 理解できるまで答えてもらおう。

 そう強く意気込んで、アカネ達に近づく。

「ねぇ、アカネ、教えて……」

 言いかけたところでアカネが言葉を重ねてくる。

「急な話で悪いけど、この子と共闘することにしました」

「……へ?」

 気の抜けた返事をすることが多い僕だが、それでもここまで素っ頓狂な返事をしたことは生まれて初めてかもしれない。

毎話の如く登場していた新キャラも、今回は出ていないですね。やっと落ち着いてきた感じでしょうか。

ですが、まだ増える予定ですのでキャラ紹介や用語説明の話も幕間か別枠で書いてみたいと思います。

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